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 ヒーローブレイカー予選当日の四月二十七日、この日は晴天だった。これが何を意味しているのかは大体予想が出来ているのだが、何処のARゲーセンは混雑している。


【ヒーローブレイカーは今日から予選か】


【別のゲームも予選があるという話だが、そちらは明日か?】


【他のジャンル同士であれば問題ないのでは?】


【他のゲームで兼業してエントリーしているプレイヤーは涙目だろうな】


【どちらにしても、ヒーローブレイカーは混戦ムードなのは間違いない】


 様々な意見がSNS上で拡散しているが、それらをチェックしていると思われるプレイヤーは少ない。まずはSNSをチェックするよりも、練習時間がほしいという事かもしれないが――。


「実際、混戦ムードと思わせて、実は予選自体が免除されているオチじゃないよね」


 竹ノ塚のゲーセンでは予選会が行われていると思われたが、ヒーローブレイカーの一角は混雑していない。日程を間違えた訳ではないと思うが、それ位に人がいないのも気になる。AR版の筺体では相変わらずの込み具合だが、予選を知っている人物がいるのかも疑わしい。そうした状況を見て驚いているのは、予選にエントリーする予定はないビスマルクだった。彼女の場合はバイトのシフト的な事情で本選の日が開けられないのである。


【どうやら、ARサイドは草加市のゲーセンで集中的に行われているらしいな】


【草加市で? どういう事?】


【公式のホームページにも記載があった】


【実際、草加市のゲーセンは混雑しているという話だ】


【しかし、混雑しているのは何処もARゲーセンばかりだ。VRの方は予選をやっていないのか?】


【VRとARは予選の日程をずらしたのだろう。実際、予選は二十八日となっている】


【イースポーツ大会が平日に予選と言うのはおかしいのでは?】


【しかし、参加資格は十八歳以上と書かれていた様な気がする。何もおかしい事はないだろう。大学生が混ざっている可能性は少ないが】


【じゃあ、アルストロメリアのメンバーがいるのは?】


 SNS上でのやり取りを見て、ビスマルクは別の意味でも驚く。イースポーツ大会で年齢制限が厳格に設定されているのはレース系だけのはず。まるで、ヒーローブレイカーに年齢制限があるようなやりとりには疑問を抱く。



 予選に関しては特に大きなトラブルがなく進行している。細かいトラブルの部類は、大抵がチート対策を強化した事によるチェック関係だ。こちらは数秒間で完了するチェックなのだが、プレイ進行に影響が出るレベルで頻発している事が問題かもしれない。


 チートを持ち込んだプレイヤーに責任があるので、持ち込まれてプレイに影響が出ているプレイヤーにとっては非常に痛いだろう。ただし、ARに関してはチート持ち込みがほぼ不可能と言う位にセキュリティが強化されていた。何故なのかは理由が明らかになっていない。


「それにしても、ARだけチート対策プログラムが強化されているのもおかしな話だけど」


 ビスマルクはチート対策プログラム強化に関して、疑問に思う部分があった。何故、ARだけ強化されたのか? ARの方は使用している技術的に、下手にガジェットが暴走すればけが人が出てもおかしくはない。他のARゲームを見れば、けが人が出てもおかしくない物をヒーローブレイカーはゲーム化したと言えるからだ。


「もしかして、チート対策プログラムって――」


 若干疑問に思ったビスマルクはSNS上で情報を収集しようとするのだが、情報が錯綜していて不明確な部分が多い。ガーディアン絡みで情報が錯綜するのは今に始まった事ではない一方で、チートプログラムはガーディアンも対策の為にものどから手が欲しいはず。そして、様々なサイトをネットサーフィンしていくと、あるサイトにたどり着く。やはりというか、そこはWEB小説を扱っているサイトだった。


(どうして、このサイトにたどり着くのか)


 彼女としても頭の上にハテナマークが出てくる位には、たどり着いた場所がここだという事には疑問が浮かぶ。単純に検索ワードを入れて検索していただけなのに、ここへたどり着いた事は――明らかに何者かが誘導している可能性さえあるだろう。


「この文章は、まさか?」


 チートプログラム自体が存在すると明言されている様な小説を発見し、ビスマルクは言葉を失いかけている。これが悪用されれば、間違いなくARゲームのバランスさえも崩壊しかねない。


(やはり、これはフィクションではない。間違いなく、そう言う風に感じさせる仕組みがあるのかも)


 この小説をリアルに再現した物が一連の事件だとしたら、という考えも浮かぶ。そうなると、この小説をベースにヒーローブレイカーが生み出された事になる。そうなれば、メーカー側は許可を取ったのか疑問に思う部分も出てくるだろう。


 しかし、予選も無事に開催されたという事は、そうした問題はないという証拠にもなる。そうした問題が残っている段階で予選を開催すれば、ダークフォース事件と同じように大炎上をしかねない案件だ。

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