第16話:変わるストーリー

 四月十一日、大きな動きはここで起こった。それは、あるまとめサイトに掲載されたニュースがきっかけと言ってもいい。天気は特に曇り一つもないので、不穏な空気など流れるはずもないのだが――。


【まさかの展開だな】


【こう言う流れになるとは予想外すぎる】


【ガーディアンの一件があっただけに、これは驚きを隠せない】


【一体、何が起こったのか?】


【どういう事だ?】


 このニュースを見てつぶやいているユーザーも詳細は全く把握していないだろう。実際、これは公式発表ではないので一種のフェイクニュースと思われていたというのもある。


【ダークフォースも、全てはゲーム宣伝の為に仕組まれていた?】


【それは違うのでは? 芸能事務所が自分達のファンを増やす為の工作かもしれない】


【むしろ、SNS炎上を狙っているのは芸能事務所だけとは限らない】


【まさか、他のゲームメーカーが炎上に関与していると?】


 その内容とは、ダークフォースの正体が実はあるゲームメーカーの関係者であり、そのメーカーが――。


「遂にここまでになったのか」


 草加市内のゲーセンの入口、そこでスマホを片手にニュースを見ていたのはセンチュリオンである。彼女は今からヒーローブレイカーをプレイしようとしていたのだが、その中でのニュースだったので衝撃は大きい。ただし、これをきっかけにプレイを止めようとは思っていなかった。


(この状況、どう切り抜けるつもりかな――ヒュベリオン)


 センチュリオンはある意味でも試しているのかもしれない。ヒュベリオンがどのような人物であり、どれだけのカリスマを持つのかを。そして、彼女自身は数分ほど周囲を見回してから入口の自動ドアの前に立ち、ドアが開いた後はゲーセン内へと入っていく。


 

 ゲーセン内に入ったセンチュリオン、ヒーローブレイカーのスペースへ向かう途中見かけたのはアルビオンだった。


『何故、お前が直接動くような事を? 答えてもらおうか、センチュリオン!』


「アルビオン、お前は何か勘違いをしていないか?」


『勘違いだと?』


「私はあくまでもリアリストだ。理想とか夢とか根性論につきあう義理はない」


『ダークフォースの抱える今の現状、それを知っていて――』


 二人の会話はゲーセンの爆音でかき消され、周囲のプレイヤーには聞こえていないだろう。アルビオンもARメットを装着している関係で、読唇術等で解読も難しい。


「ダークフォースの現状、それは確かに過去の知名度を利用してパリピ連中が悪用しているのは事実だ」


『だったら、何故に放置する? あのまま崩壊してもいいのか?』


「崩壊するのであれば、その程度だろう」


 それ以上を彼女が話すとも思えないので、アルビオンは諦めてその場を離れる。彼としても、別の目的があるらしく――ここで足止めをしている余裕はなかった。


(そこまでネガティブなイメージで物は見ていない)


 センチュリオンはアルビオンに対して、それだけは言いたかったのだがあの状態では話しても無駄だろう。可能性があれば、どのような策でも彼女は手を出すかもしれない――犯罪行為以外で。



 その日は公式サイトでも新規ストーリーが公開され、その内容には賛否両論があった。やはりというか、マッチポンプである部分は確定であり、それ以外にも様々な要素で以前の事件とも被る部分がある。


【やはり、あの事件は再現と言う事か?】


【ストーリーモードを丸ごと再現とかあり得ないだろう】


【ここまでの炎上になったら、ヒーローブレイカーは終了だな】


 他にも様々なつぶやきが流れているが、それはあくまでも草加市以外での話である。どうやら、草加市では炎上を招くような発言は検閲されている可能性がある事を、今回の件で知るユーザーが多かった。


【ヒーロー育成と見せかけてマッチポンプを仕掛けていた。まさかのストーリーだな】


 この一言は広く拡散され、ストーリーに不満を持つユーザー等がゲームから離れていく事になる。一方で、わずかな炎上程度で止めるプレイヤーはパリピやエアプレイ勢力と一緒と煽るような発言も相次いだ。それこそ、リアルでストーリーモードを再現しているような行為であるとも知らないで。


「これもダークフォース暗躍の一部か」


 竹ノ塚のコンビニ前でタブレット端末を片手にニュースサイトを見ていたのは、大和(やまと)である。彼女は一連の事件が起こるかもしれない事は懸念していたが、ここまで大きくなるとは予想もしていなかったのだ。


(これでも大炎上ではないのが救いと言うべきなのか)


 大和は別の意味でもダークフォース以外の炎上勢力が手を組み、ダークフォースと見せかけて炎上させている説も考えていた。大量離脱と言うには、わずか数百程度のアカウントが削除された事を大きく取り上げすぎている可能性だってある。やはりというか、SNSが凶器にもなるというのはこの事を言うのかもしれない。


「超有名アイドル商法が炎上した事件から、彼らは何も成長していなかった。マンネリだと言われても、彼らはテンプレの炎上事件を起こし続ける」


 大和は周囲を見回すことなく、ニュースサイトを見続けた。そして、あの事件から何も学ぼうとしないSNS情勢に関して、ある種のテンプレのWEB小説やシリーズ物のアニメ等を連想する。


「結局、新しいコンテンツを発見することなく、人気のある作品に依存し続け――」


 ネットサーフィンをしていた大和は、とあるウィキに到達した。その内容を見て、現状を打破できるであろう策が存在する事を知る。まだ、終わってなどいない。全ては、これから――だと。

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