15-3

 四月一〇日午前十一時三〇分、ガーディアンが別働隊と遭遇した際、あるプレイヤーの姿を目撃したのだという。そのプレイヤーは鬼神の如く動きまわり、レイドボスに単独でダメージを与え続けた。その結果、ダークフォースを勝利へ導いたらしい。


「あの動き、チートではないのか?」


「チートと疑わしい動きでも、認定されなければ現行犯とは呼べない」


「では、あのままダークフォースを放置しろと!?」


「放置するわけにはいかないだろう。ただ、下手にこちらが強硬手段に出れば確実に炎上する」


 ガーディアンは警察とは違うので、証拠がなければ拘束する事は出来ない。要するに『疑わしきは罰せず』の方式だ。彼らとしてもダークフォースの動きが怪しい人物だけを拘束するべきと考える意見はあるだろう。しかし、下手にSNSを炎上させるのはガーディアンとしては不利になる。


 その為、今回は彼の動きが怪しくても拘束は不可能と言う事で諦めるしかなかった。彼はプロゲーマーの称号も最近になって獲得し、その実力は折り紙つきだった為である。彼が本気を出したので敗北したとも言えた。実際、序盤は手加減こそしていた物の後半からは本気になったという分析も存在している。


(ガーディアンもあの程度になったのか。むしろ、向こうにプロゲーマークラスがいないのは運がいいというべきか?)


 異常な動きでガーディアンを完封した人物、それはホワイトスナイパーだった。既に彼は以前に手に入れたツールの影響もあり、機動力なども大幅に上昇している。


(後は、アルストロメリアをおびき寄せられれば――)


 彼には今回のSNS炎上とは違う目的で行動をしているのだが、他の構成員には知らせていない。下手に知らせても混乱させると判断したためだ。ただし、一部メンバーは気付きつつあるようだが。



 午前十二時、お昼のニュースではダークフォースの事件は報道されない。地域ローカルでも取り上げられないので、もしかすると報道規制がかけられている可能性もあるだろうか? しかし、ガーディアンの件に関しては思わぬ場所で取り上げられていた。


「案の定というべきか。こう言う事が起きる事は既に想定されていたはず」


 天津風唯(あまつかぜ・ゆい)が秋葉原駅近くでスマホをチェックしていた所、このニュースを発見する。彼女は今回の件に関して一番懸念をしていたのだが、それが現実化した事には驚くしかない。ニュースを発見した場所、それは大手のニュースサイトだが――実際に取り上げていたニュース内容はどちらかと言うとまとめサイトの引用と言えた。だからこそ、天津風は別の意味でも今回の件をWEB小説の内容を真似た悪質な事件とも思っていたのである。


(しかし、実際はもっと違うようにも感じられる内容に――)


 その内容は見方によってはダークフォースがガーディアンを炎上させているように見えるが、見る角度を変えれば別の要素も見えてくる。本当にそう言う風に話を考える人間が迂闊にもフェイクニュース等を拡散すれば、その人物は大規模テロに加担したテロリストと認定されかねない。無責任な情報拡散、それは悪意がなくても下手をすれば妨害工作や炎上商法等に悪用されるだろう。



 お昼のニュースではダークフォースの事が報道されなかった件は、別の個所でも話題となっていた。それは、ヒーローブレイカーの開発したメーカーである。


「ニュースでは一切報道されていないが、どういう事だ?」


「むしろ、それ以外のニュースが話題になっているという事では?」


「そうではない。ネット上ではダークフォースとガーディアンが争っている件が話題になっていた」


「まさか? あのダークフォースが?」


「その通りだ。何としても、一連の事件が我々にも飛び火するのは目に見えている」


 会議室に集まったスタッフは、SNS上の話題を見て動揺を隠せずにいた。だからこそ、何としても一連の炎上案件を対処し、ヒーローブレイカーの運営を安定させなくてはいけない。しかし、こう言う時に限って社長は不在。別のゲーセンへPR活動をしているとの事だが――。


「社長の呼び戻しは出来ないようです。今は北千住にいるとの事」


「何故に北千住? あそこはARパルクール等の方が有名なのに」


「理由は分かりません。ただ、何か策があるのでは?」


「あの社長だから、策も考えずに向かう事はあり得ないか」


 社長に連絡をしても、北千住にいるという事とPR活動中であること以外は語らない。単純に話したくないだけとも思えないが――スタッフも心配しても無駄と判断し、この件は自分達で何とかするしかないと決める。

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