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 天津風唯(あまつかぜ・ゆい)のプレイ動画、それは色々な意味でも衝撃の連続だった。開始三〇秒位は天津風を含めて手探りであるような場面が多かったが、それは一分を過ぎたあたりで変化する。


(これは、かなりの大物が釣れたのかもしれない)


 天津風の動きを見て、長門(ながと)ハルはプロゲーマーではないがプレイヤーとしては大物が釣れたと考えた。彼女のプレイスタイルは、手探りである事に関して明らかだが、説明書を読まずに無謀な突撃等をするようなプレイスタイルとも異なるだろう。


(本当に、あのプレイスタイルは別ゲームでも使えるような技術なのだろうか?)


 アサシン・イカヅチは天津風のプレイスタイルが自分と同じように他ゲームから由来するものかどうか疑問に思った。しかし、あれだけすばやく動くようなスタイルはFPSでは滅多に見かけない。敵の攻撃が少ない事もあって、乱戦気味なFPSとは単純比較は無理だろう。


「そう言う事。だいだい理解できたかもね」


 その一方で彼女の行動が理解出来たと思われるのは島風彩音(しまかぜ・あやね)だった。素早く見えるような行動は、対戦格闘ゲームでの一フレームを争う様な挙動をARゲームでさせている可能性がある。


 実際、彼女が手持ち武器であるライフルを呼び出してのレイドボスへの攻撃は、数秒ごとにチャージされるのを分かっていて秒単位の攻撃を行っていた。その攻撃方法はイカヅチが過去に披露していた単発発射型スナイパーライフルでの二丁拳銃スタイルに該当し、更に言えばヒーロータイプでも応用できるようなプレイスタイルでもある。


(確かに、彼女の実力ならばヒーローブレイカーでも活躍は出来そうね)


 小説を読み終わった木曾(きそ)アスナは、プレイ動画を六〇秒あたりから見始めていた。冒頭は見る価値がなかったのではなく、既に別件で動画を見ていた可能性だってある。



 決着は一八〇秒ではなく、一二〇秒に近い時間で決着した。つまり、本来は三分という制限時間があるのを二分で撃破した事になる。その理由は天津風の的確な攻撃もあるが、途中で他のプレイヤーも即席の連携でレイドボスに対して打撃を与えた事によるだろう。


 バトルの空気を変えたのは、プレイヤーAのスキルもあるだろうが、天津風のプレイが周囲の流れを変えたとも言える。だからこそ、彼女を秋月千早(あきづき・ちはや)は求めていた。その実力を確かめ、彼女は手放しで喜んでいるようだが――。スコアの結果こそは天津風は二位だったが、順位はどうでもいい。全てはそのプレイスタイルがアルストロメリアに適合するかである。


「この位なら、上位ランカーにも多くいるでしょう。スピードクリアしてボーナスが得られる訳でもないし」


 島風は一通りのプレイを見て、評価はするが他にも上位プレイヤーはいるので彼女だけが特別ではない、と言う評価。


「自分は、それ相応だと思う。ヒーローブレイカーではプレイの腕だけが全てじゃないし」


 照月(てるつき)アスカは評価はするが、ヒーローブレイカーではプレイ以外の要素もあるので様子見ムード。


「確かにヒーローブレイカーだけで見れば、上位とは渡り合えるだろうが――あのプレイ動画だけでは、あくまで参考程度だな」


 イカヅチは若干の言葉を濁しつつ、一定評価をしていた。何を言おうとしていたのかは周囲にも分からずじまいだが。


「プレイスタイルは一定以上の実力がありそうに見えるけど、そのプレイスタイルやスキルだけで上位ランカーと競り合えるかどうかは不透明ね」


 木曾の方は若干とげのあるような発言だったが、天津風のプレイを踏まえると的外れではない。実際、他のプレイヤーと連携が早く出来ていればレイドボスを速攻で撃破する事もたやすいだろう。


「自分もプレイしたばかりだし、そこまでプレイに慣れてもいない。初見でいきなりレイドボスに速攻と言うのは難しいわよ」


 天津風の発言に嘘はない。若干動揺しているので、嘘だと言われても不思議ではないが、特に言及されなかった。


「初心者と言う割には、何か理由がありそうだけど――歓迎するわ。アルストロメリアへようこそ、天津風唯」


 秋月の方も手放しでは歓迎したが、先ほどの発言を聞いて若干引っかかるものを感じる。それでもメンバーが揃うのは非常に大きいので、アルストロメリアへ迎える事になった。



 午後三時、話の方も完了したので島風は独自でヒーローブレイカーをプレイする。マッチングしたプレイヤーはレベル20近辺だが、今の島風には相手にならないだろう。圧倒的な大差を付ける訳ではない一方で、見事に一位を獲得して周囲のギャラリーを沸かせた。


「あの島風も、ずいぶんと腕を上げたと言える」


 島風がいる場所と同じ竹ノ塚のゲーセンでは、センターモニターで中継を見ていた三笠(みかさ)の姿がある。彼女は別の目的でゲーセンを訪れたが、思わぬ収穫があった様子だ。


(しかし、ヒーローブレイカーの世界は何者かの侵略を受けている。ARゲームを作り物の世界だと――)


 三笠は別件の事と今のバトルを重ねていたが、それはどうでもいいことかもしれない。まずは、ダークフォースの動向を知ることが重要である。彼らも放置を続ければ、いずれはヒーローブレイカーを炎上させる存在になるかもしれなかった。

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