14-2

 アルストロメリアのコミュニティ内、そこにはアルストロメリアのメンバーがいるのだが、この段階でも島風彩音(しまかぜ・あやね)と長門(ながと)ハルは不在である。


「これから話す事って?」


 秋月千早(あきづき・ちはや)は、天津風唯(あまつかぜ・ゆい)の話す事が若干気になっているようだ。前提情報として、この小説を指定したのも――何か理由があるのだろう。


「超有名アイドル商法の件は知っているわよね?」


 天津風の発した単語を聞き、アサシン・イカヅチは若干だが表情を変えた。照月(てるつき)アスカに関しては、やっぱりと言う様な顔をしている。今回も、この件が関係している可能性はSNS上でも否定できなかった訳だが。


「何となくはわかっているつもりよ。あの事件は後のSNS炎上や対立厨等のような存在を生み出し、一種の炎上商法を正当化したような物だから」


 秋月の話を聞き、天津風は若干だが左手で目を抑えるようなしぐさを取る。おそらく、間違ってはいないだろうが真実とは程遠いのだろうか?


「芸能事務所等にSNS炎上のノウハウを与えるきっかけになったのは事実よ。あれから、様々なコンテンツが理由不明の炎上行為を受けていたし」


「じゃあ、あの真相は何? SNS上ではフェイクニュースだらけで真実は見えない。それに、あの事件には何か大きな裏があるようにも見えた」


 天津風は間違ってはいないが、と言った物の事実とは異なるとも言及する。その中で、木曾(きそ)アスナは秋月の話も聞かずに小説の方に集中しているようでもあった。読んでいる小説は、別のサイトで掲載されている天津風名義の作品なのだが――。


「しかし、それが本当にヒーローブレイカーと関係あるのかも疑問が残る。そう言いたいのでは?」


 木曾の一言に対し、天津風は言葉に出来ない部分があった。ここで下手に言い返せば、あの秘密を知ってしまう事になる。

それは彼女たちを危険にさらしてしまう可能性を意味していた。


「確かにヒーローブレイカーと超有名アイドル商法は関係ないように見える。しかし、元々の炎上した仕組みが同じとしたら?」


 仕方がないので、どうしても話したくない箇所をぼかす形で天津風は用件を話す事に。本来であれば、この部分も話す必要性がない。これらの話には向こうが隠していて不明な個所も多いためだ。


「ダークフォースが、超有名アイドル商法のノウハウを利用して炎上させていると」


 イカヅチの方はあまり興味がなさそうだが、話が分かっているようでもある。超有名アイドル商法を巡る争いは都市伝説としても語られており、ARゲーム及びVRゲームに関係すれば必ずと言っていいほどに聞こえてくる噂だった。


 だからこそ『同じような悲劇は繰り返すべきではない』という考えに同調した人物がガーディアンを立ち上げ、現在に至っている。ガーディアンは炎上勢力を摘発する抑止力としては、役に立っているかも疑問なのはイカヅチの目から見ても明らかだ。不正摘発には貢献しているが、本当に根絶する為に動いているのか問われると――他のメンバーも疑問を持つ。



 そうした深刻な話ばかりでは、周囲の空気も暗い物になってしまう。ある程度話した所で、天津風は今回の話をお開きにする事にした。


「話としてはもう一つあって、こっちが本題。この動画よ」


 天津風が再生した動画、それは以前に秋葉原でプレイした時の動画である。相手プレイヤーはダークフォースとも無関係の人物だが、実力はそこそこかもしれない。


「出遅れたかな?」


 動画を再生した辺りで姿を見せたのは、島風である。どうやら写真撮影等の方も終わったようで、そこから合流したらしい。ただし、ログイン場所は竹ノ塚のゲーセンなのだが――と思ったら、そこには長門もいた。どうやら、リアル遭遇のようだ。長門も島風と同じくらいのタイミングでログインをしている。長門がログインしたのはセンターモニターではなく、ヒーローブレイカーのVR筺体経由だろうか?


「そう言えば、この動画には中堅プレイヤーがいたような気がしたが――」


 イカヅチは別プレイヤーの見覚えあるネームを見て、ふと思い出したかのようにつぶやく。


「レベルの方はそこそこよ。平均で30位。その平均レベルを下げたのは自分だけど」


 天津風はプレイして数回程度。レベルも二桁には到達しているだろうが、まだまだ初心者を脱出したような位のレベルだ。


「レベル10到達は慣れれば簡単だろう。議論するのはそこではない」


 天津風もレベルに関してはおまけ情報に過ぎない。見てほしいのはあくまでもプレイ技術である。

 



 レイドボスは四足歩行タイプのメカで、変形して道路などの移動も素早くなるタイプだった。四足歩行からホバー戦車に変形できるのは、ある意味でもボスとしては手ごわいだろう。変形のタイミングで攻撃すれば、楽に落とせるが。


(ちょっとこれ、連携がバラバラ過ぎない?)


 照月は動画の序盤で、いきなりの連係ミスと思わしき箇所を発見する。チャット連携も両チームともに出来ていないというべきか。まるで、全員がソロプレイと割り切って戦っているようにしか思えない。本当に、これでクリア出来たというのか?


「ソロプレイモードもある以上、ソロプレイその物を否定する気はない。だが、これは――」


 イカヅチは連携が出来ていない県に対し、何かを言いたそうな気配である。その発言を聞き、他のメンバーは止めようとも考えていたが、木曾は未だに動画ではなく小説の方に集中していた。動画に集中しているのは、木曾以外のメンバーと言うべきだろう。


「どう考えても自分の技術自慢をしたくて、連携をしていないように見えるわね」


 その空気を変えたのは島風の一言だった。これに関しては、発言後の数秒は沈黙に包まれる。秋月も違和感は感じていたが、周囲に配慮して発言を避けていた。照月も秋月とは違う理由だが、配慮をしているのは事実か。


「連携が重要なのは分かります。しかし、それに気づかないと誰だってソロプレイに走ってしまうのは明らかなのでは?」


 長門の方は、若干含みを残しつつの発言に徹する。自分の発言で雰囲気が悪くなるのを避けている可能性は高い。イカヅチは、これ以降の単独発言は避けているので、島風の意見に賛同しているのだろう。


(しかし、中堅プレイヤーも何人かいるのに、こうなる物か?)


 イカヅチは色々と疑問を持つ個所はあるが、しばらくは動画に集中する事に。まるで、中堅プレイヤーが他のプレイヤーと取引している可能性も否定できない。それこそ、禁止行為であるマッチポンプに該当する。



 開始から三〇秒が経過した辺りではソロプレイ的な行動が目立つのだが、それでもレイドボスにはダメージを与えていた。下手にレイドボスに手を出さないで放置する事は、周囲から不信感を抱かれるのに加えて、SNS上で炎上もするだろう。


 この時間帯で一波脱ごいていたのは、中堅プレイヤーの一人であるプレイヤーAと天津風だ。二人だけで連携してボスにダメージを与えている訳ではないが、一応の形として連携しているように見えるだろうか。


(そう言う事なのね)


 島風は周囲の様子を見て、何かを察する。確かに最初の二〇秒間あたりはプレイ自慢にも見える箇所はあったかもしれない。しかし、時間が経過するにつれてレイドボスを連携して倒そうという感じには見えてきた。


(ヒーローブレイカーは、誰だって主人公になれるゲーム。つまり、冒頭の争いは主人公争いだった?)


 照月はヒーローブレイカーのデモムービーで言われていた事に、ここで気付く事になる。本当の意味で話に流されないような主人公、それをヒーローブレイカーは求めているのかもしれない。

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