第8話:新たなる戦いの始まり
四月一日、エイプリルフールでSNS上が様々な個所で混乱しているという状況で、ヒーローブレイカーは特にエイプリルフール企画も行われなかった。単純に便乗するのでは炎上する事は目に見えているので、それ以外の部分に集中しようという事なのだろう。
【あの動画の人物は?】
【確かに気になるな。新人プレイヤーには見えないが】
【新人ではないだろう。プレイヤー名を見れば明らかだ】
【本当だ。島風って書かれて――!?】
動画を見た彼らは驚くしかなかった。以前に大和(やまと)と三笠(みかさ)に敗北していた島風なのである。その事実を知ると、動画を見ていた視聴者も言葉に出来なかったという。比較動画がアップされればよいのだが、そのレベルで細かい箇所が変わっていたのだ。同じようなプレイヤーネームは存在するだろうが、島風と名乗るのは一人しかいない。
「まだ、全ては始まったばかり――」
草加のアンテナショップで自身の出ている動画をチェックしていたのは、島風彩音(しまかぜ・あやね)である。今回の目的はある人物に接触しようとした事なのだが、残念ながら目的の人物はいなかった。
(自分のプレイで反省点があれば改善をする。それはごく当たり前のことなのに、スタイルを変えただけで騒ぐような連中もいる)
(それなのに、プレイヤーたちはマンネリの様なプレイを見て盛り上がるのは――)
改善点を見つけたプレイに変更したのに、それで勝利してもユーザーからは歓迎されない。むしろ、プレイスタイルを変えたことで炎上する事例だってある。どのジャンルの選手でも研究をされたら、一定のパターンを変えたりする、パターンは変えなくても学習して対策を行ったりするのは当然だろう。
もしかすると、スタイルを変えられたことで炎上させているのは『そうしないとそのプレイヤーに勝てない』ような必勝パターンを暗記している事例だろうか。そうしたプレイは、ARゲームであまり褒められた物ではないのは明らかだ。まるでアドベンチャーゲームを攻略本片手でクリアする様なプレイは、ARゲームでは歓迎されない傾向にあるからである。
「まずは――?」
モニターの前を離れようとした島風だったが、他所の中継が入った事でプレイ配信にシフト。その内容を見て、島風はここに来たのが逆に失敗だった事を悟った。
同日、竹ノ塚のゲームセンターには行列が出来ていた。別のゲームセンターで新作が入荷したと言う話を聞いて駆けつけたプレイヤーが多い。その新作と言うのは、AR版のヒーローブレイカーだったのである。これには周囲も驚くしかないだろう。
「ARゲームはスペースを占有すると聞いたが、よく入荷出来たな」
「ある意味でも驚きだ。ARゲームセンターは足立区内だと北千住とかその辺りのはずだろう?」
「最近になって竹ノ塚にオープンしたという話だが」
「この場合はリニューアルオープンでは? あの場所を指すという事であれば――」
「駅周辺にゲーセンはある。しかし、アレを指すとすればAR専門ではないのでは?」
「AR専門とは限らないぞ。VRとARの両方を置くゲーセンは、ARリズムゲームのケースだといくつか実例がある」
行列に並ぶ客からは様々な声が聞かれた。実際、竹ノ塚にもARゲームを専門としたゲーセンは存在する。この辺りは草加市の専売特許と言う訳ではないらしい。それでも、足立区内には広いスペースや様々な設備を配置する都合上、数か所しかないという話があった。
「この行列、どうした物かね」
午前一〇時頃に到着したのに、行列はあまり動かない。彼女もニアミスをしたのではないか、とは思った。実際、この行列は開店して数分経過したのに、未だ動きがないからである。普通であれば、スタッフが現れて整理券配布もあり得る場面で。
「とにかく、様子を見て――?」
明らかに周囲から見ても目立つ人物だった木曾(きそ)アスナは、並んだ列が実は違うゲームの列だと気付いた。こちらはARゲームの行列なのは間違いないが、ヒーローブレイカーではない。
《ARパルクールセカンド、最後尾はこちら》
一〇分は経過したタイミングで男性スタッフが電光掲示板タイプの立て看板を持ってきて、それを一〇メートル位の位置に設置した。どうやら、これが最後列なのだろう。しかし、ヒーローブレイカーではなかったので木曾は行列から離れる。
「駐車場辺りまで伸びていたから、ヒーローブレイカーかと思ったら違ったのか」
草加市の時とは違うヒーローブレイカー人気には木曾も驚くしかないだろう。行列に並ばなくてもプレイ可能と言う部分は歓迎するだろうが――。
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