7-4

 同日の夜、シャワーを浴びてリフレッシュをした木曾(きそ)アスナは、自宅でテレビを見ていた。チェックをしているのは、放送時にはゲーセンにいて視聴できなかった番組で、HDD搭載型テレビで録画していた物である。


『この状況は、どう思いますか?』


『相手側もさすがに対戦相手を間違えたと思うでしょう』


『間違えたと言うと?』


『あのプレイヤーは三笠(みかさ)クラスですよ。まだプレイ回数は少ないようですが』


 メガネをかけた司会者とプロレスラーを連想する様なマスクをした解説者が解説を行っている物、それはヒーローブレイカーである。事前に録画していた番組とは、ヒーローブレイカーの実況中継を行う番組だったのだ。


『プレイ回数が少なく、あの腕はチートと疑われそうですが』


『そうでしょうね。しかし、チートであれば不正ガジェットの検知機能も強化されています。滅多に起きるケースではないでしょう』


『しかし、まとめサイト上では様々な案件が浮上しているように思えます』


『まとめサイトは鵜呑みにすべきではないでしょう。マスコミでも新聞や雑誌の売り上げ目当てで事件をでっちあげる事例もありますので』


 司会の男性がまとめサイトに言及して何かを聞こうとしたのだが、解説者の男性は何かを察して言及を避ける。しかし、木曾も解説者の発言に関しては一理あると考えていた。特定芸能事務所が自分達のアイドルを売り込む為に、様々な炎上案件を生み出したのは記憶に新しい。


 それに加えて、SNS上やWEB小説サイトにも超有名アイドルが起こした事件をモチーフとした小説は山ほど存在している。だからこそ、木曾は迂闊な情報を信用しないと決めていた。


(どちらにしても、まずは――)


 録画を見終わった後、木曾はパソコンで動画を発見する。その動画は、別の有名プレイヤーの物だった。使用しているのがESPと言う事もあり、ある程度の参考になるだろうと考えている。


(ソロプレイにも限度がある。あの話をどうするか悩み所だな)


 さすがにバスタオル一枚などは風邪をひきかねないので、既に何故かスクール水着っぽいデザインの部屋着に着替えていた。木曾の自宅は一人暮らしではないのだが、同じゲーセン仲間のプレイヤー数人と一緒に暮らしている。今回は全員が不在な関係上、一人でコンビニ弁当を食べつつテレビを見ていた訳だが――。


「接触をするにしても、どういう手段を取るべきか」


 SNSのショートメールと言う手段もありそうだが、それでスパム等と勘違いされてメールを消されたら問題だ。どちらにしても、他のチームへ参戦するのが手っ取り早いと考える。見知らぬプレイヤーではなく、ある程度のプレイをしている人物は限られるだろう。


(どっちにしても、あの連中を誘うよりは手っ取り早いか)


 ゲーセン仲間のスケジュールが合えば誘えるが、それが難しい事は木曾も分かっているつもりだ。その上で、彼女が接触をしようとしていたのはアルストロメリアの二人である。



 照月(てるつき)アスカが自宅で視聴していた動画、それは木曾の動画であった。自分の動画よりも他プレイヤーの動向が気になる訳ではないようだが、何か気になる箇所があったのかもしれない。


「上位プレイヤーが混ざる中で、このプレイスタイルは――?」


 照月は動画を見て何かのデジャブを感じていた。このプレイスタイルは自分とほとんど同じである。木曾がチュートリアルを無視してのプレイかどうかは分からない。しかし、あの挙動を踏まえるとチュートリアルをスルーした訳ではない様子。


 他のマッチングプレイヤーが明らかにレベル30を超えるような強豪に囲まれている中で、あのプレイを披露できる彼女は何者なのか?


(ESPと言うクラスが違うだけで、こうも動きが変わる物なのか?)


 ESPには空中移動と言う他のクラスではアイテムなしでは出来ない行動も、標準で使用可能である。それを差し引いても、彼女の実力は相当な物なのは間違いない。その一方で、彼女のゲームプレイ歴も気になっていた。


(他の動画は――)


 照月は木曾のゲームプレイ歴を探る為に別の動画を検索するのだが、特にそれと分かる動画はアップされていない。対戦格闘やFPSであれば動画もアップされていると思われる一方で、RPG等となるとさすがにプレイスタイルから判別するのは難しいだろう。


 木曾のプレイ動画を見終わってから五分後、色々な動画を見て回った結果として――明らかに木曾と分かるプレイ動画を一本発見した。しかし、その動画はヒーローブレイカーであるのだが正確に言えばヒーローブレイカーではない。


「これって、VR版?」


 木曾は密かにVR版でもエントリーをしていたのである。つまり、彼女のヒーローブレイカーの実力は本物と言えるのかもしれない。ただし、これが本物であればの話になるが。


【このプレイヤーネームってAr版で見たことあるぞ】


【まさか、あの人物はVRもプレイしているという事か?】


【そうなると、ますます強豪になりそうな予感がするぞ】


 動画コメントにもそれを裏付ける物があるので、おそらくはビンゴだろう。何故、彼女はVR版から始めたのかは定かではないが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る