5-2
実は、センチュリオンの騒ぎを目撃していた人物はもう一人いた。しかし、その人物の方を振り向くような様子は一切なく、センチュリオンは彼女には気づいていない可能性も高い。
「さっきの人物は一体?」
「赤髪の眼帯で思い出した。あいつはセンチュリオンだ」
「センチュリオン? まさか?」
「ソレはないだろう。彼女はプロゲーマー並の実力があるが、ARゲームには手を出す人物と思えない」
周囲の会話を聞き、彼女は別の場所でセンチュリオンを目撃しようと近寄るが、結局は遠目で見た一度だけに終わっていた。彼女は赤髪で眼帯と言われて、センチュリオンだと覚えがあったのである。一度、別のコスプレイベント辺りで顔を見た事があるかもしれない。
(やはり、センチュリオンもエントリーするのか?)
その正体とは、島風彩音(しまかぜ・あやね)だった。この場所ではコスプレ姿でも特に視線が刺さる事はないが、今回は用意していないので私服である。しかし、野球帽には「AYANE」と言う文字の入ったプレートが前面に付いており、それ以外にもTシャツは別のアニメ作品と思わしきデザインの物を着ていた。
「とにかく、今は他のプレイヤーがエントリーするかどうかをチェックしておかないと」
島風がここへ来たのは、他のプレイヤーのエントリー状況をみる為である。他の有名プロゲーマーや上位ランカーの動画を見て、警戒をしたというべきだろうか。それ以外にも島風には別のARゲーム出身のプレイヤーが進出する可能性があるという情報を掴んでいた。
「さて、何人の有名プレイヤーがいるのか――」
島風はセンターモニターの前に立ち、目の前の操作パネルを触りつつ、目の前のモニターでエントリーしたプレイヤーを検索する。新規プレイヤーでも始めてから数日たたないと登録されないケースもゲームによってはあるだろうが、ヒーローブレイカーでは即日に反映されるシステムだった。
それでもプレイヤー名に名無しや適当なネームが多いのかと言われると、ちゃんとしたプレイヤーネームが多く逆に適当なネームは少ない。適当なネームを付けても修正は容易だが、中にはARゲームのアカウントを転売する様な勢力も存在する。その為、プレイヤーネームによっては登録不可と言うゲームも存在する。
(そこまでありきたりなネームはない。大和と三笠は驚いたが)
大和(やまと)と三笠(みかさ)はその名前が有名な物に由来する為かネームとして使わないと思われた中で現れたプレイヤーだ。彼女たちはある意味でもトップランカーと言う頂点に君臨する有名プレイヤーで、今の島風で届くようなレベルではない。
(この名前は、まさか?)
島風がランキングを検索している時に発見した名前、それはランク百位に該当する所で発見する。しかし、この名前自体は有名過ぎてなりすましがいそうな可能性は否定できない。その為、ここで発見してもオーバーリアクションだけは避けた。
その日の夜、照月(てるつき)アスカは自宅に戻って夕食を食べていた。さすがに改造メイド服を脱ぐかと思ったら、そのままで夕食の準備を行い、そのまま食べているのだが――そのメニューは冷凍食品のえびグラタンとインスタントのコーンポタージュである。
料理をしないという訳ではなく、特に材料を用意していなかったのも理由であるのは間違いない。しかし、コンビニに立ち寄って買ったのが冷凍餃子だったので料理下手の可能性も否定できないだろう。
(パワードスーツ以外も使った方がいいとはネット上でも書かれていたけど)
テーブルに置かれた料理には手を付けず、自室のテレビを見ているのだが番組はアニメである。他のテレビ局はニュースなのだが、その内容は自分にとって関係のない物なのでアニメを回したというべきか。
(どちらにしても、現状のクラスを変えて利点があるわけではないし)
テレビで流れているのはヒーロー物だが、ヒーローブレイカーがアニメで放送されている訳ではなく、別の作品だ。しかし、類似作品を見てプレイの参考にしようという人物も少なからず存在するので、得る物があれば――と言う事でチェックしている。
夕食を食べ終わった照月は食事の片づけを行い、その後は冷蔵庫からペットボトルに入った500ミリリットルコーラを1本取り出した。自分の部屋に戻って飲むと思ったら、別のスポーツ中継にチャンネルを合わせてテレビを見始める。
『遂に始まりました! ARパルクールトライアル!』
テレビで放送されていたのは、スポーツはスポーツでもイースポーツの方だった。リアルのスポーツ番組に興味がない訳ではないが、この時間と時期では放送されている競技も限定され、スポーツ専門チャンネルに契約しないと視聴は難しい。バラエティー番組も視聴率争いで超有名アイドルを出しているだけの客寄せパンダな番組が多く、唯一のイースポーツ放送テレビ局にチャンネルを合わせたと言える。午後7時台だとアニメが放送されているテレビ局もあるにはあるが、受信できないというオチかもしれない。
(ARパルクールか。ヒーローブレイカーとはジャンルは違うが、見る価値はあるかもしれないな)
今回の番組は、前半が有名プレイヤーの名場面集、後半はトライアルコーナーと言う構成のようだ。三十分番組の割に番組の密度は高いと言える。その前半に流れた名場面集で、照月は見覚えのある名前を発見した。
『次のプレイヤーは、女性プレイヤーでありながらもなかなかのテクニックを見せてくれました』
『特にあの商店街を通るような場所を、あの速度で通過するのは予想外ですね』
男性MC二人も彼女のテクニックはベタ褒めと言えるような感じが見て取れる。実際、照月も彼女のプレイを見て相当なスキル持ちと考えていたからだ。ヒーローブレイカーの動画を探す前に予想外の収穫があった気配である。
『それにしても、今の彼女は別のARゲームに進出したとか』
『それは残念と言うか、ARパルクールでは二度と見られないのですか?』
『そこまでではないと思います。おそらく、何かの機会があれば戻ってくるでしょう』
『しかし、ヒーローブレイカーと言えば最近になって人気になっている注目タイトル。果たして、本当に戻ってくる保証はあるのか――』
まさかこの番組でヒーローブレイカーの話題になるとは予想外だった。そして、その後もヒーローブレイカーに関してはタイトルと簡単な説明が言及される。
「まさか、他のARゲームにも影響を与えている?」
ここにきて、テレビでヒーローブレイカーが言及された事には驚く照月だった。しかし、本当に自分達の考えで言及したのか、台本通りなのかは分からない。どちらにしても、あまりにも出来過ぎてるとこの段階の照月は考えていた。
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