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照月(てるつき)アスカは夕食後、ある程度は片づけた自室でノートパソコンとにらめっこをしている。その理由は一連のパルクール動画に関してだった。番組内では司会者の口からは明言されていないが、動画等では明らかに名前が載っている。
むしろ、それに触れない事には何かあるのでは、と視聴者が怪しむレベルだったという。実際は最後の方で言及はされたようだが。その時にはテレビのチャンネルをザッピングしていた事もあり、肝心な部分を照月は聞いていない。元に戻した時には、後半パートのトライアルに突入していた。
(動画の中ではビスマルクと書かれていたようにも――)
若干気になる部分はありつつも、ヒーローブレイカーの動画よりも真っ先にパルクール動画を探していた。実際、ビスマルクが過去にもその名前を使ってエントリーしていた事実も判明する事になったのだが。
(これは、まさか?)
動画内のビスマルクの動きは、どう考えてもARパルクールではなく別のゲームで鍛えたような動きをしている。まるで、自分がヒーローブレイカーでニアミスした時と同じ現象だ。微妙なジャンルの認識違いだけでもプレイ時の挙動は大きく異なるだろう。
飛び道具のある格ゲーと飛び道具のない格ゲーでは比べるまでもないが、ジャンルは同じでも2D格ゲーと3D格ゲーではコマンドも覚えなおす部分が多い。リズムゲームでは、専用筺体である事が大多数なのであまり参考にはならない部分が多いだろう。それを踏まえて、ビスマルクの動きは別ゲームで磨いてきたテクニックをARパルクールで活かしきっていると言える。
「これが、ビスマルクと言うプレイヤーなのか」
次に調べていた動画はヒーローブレイカーであるのだが、他のクラスに関して調べるはずがパワードスーツを調べていた。ヒーローやESPの動画も少しチェックはする。数本は見たと思うが、その内容は入っていないというべきか。
実際、一通り見ても自分のプレイスタイルからは離れている要素があり、やはりというかパワードスーツの方がしっくりくるオチだった。
(これもパワードスーツなのか?)
動画のサムネイル画像から気になる物を発見した照月は、その動画を再生する。動画の内容はパワードスーツカスタマイズの紹介動画で再生数もそれほど高くない。需要がない訳ではないのだが、再生数一万未満と言う事はチェックしていないユーザーが多い計算だ。
その動画で紹介されていたパワードスーツは素体スーツではなく、どちらかと言うと大型タイプだ。これがあのゲーセンでも動かせると思うと、衝撃を受けるプレイヤーは多いだろう。サイズは二メートル以上はある。それに加え、このパワードスーツは乗り物形態に変形する物であり、動画内ではボードマシンになっていた。それ以外にも戦闘機と合体したような物やロボットノ中に入るようなパワードスーツもあったが、情報量が多くて頭の中に入っているのかは微妙だろう。
(しかし、あれだけのサイズの物を動かすとなると相当の技術が必要なのでは?)
ふとした疑問が照月の頭の中を回るのだが、ゲームである以上は特に難しい要素があるとは考えにくい。むしろ、ある程度のレベルが上昇すれば使用解禁出来るという発想に至り、深く考える事は止めた。
「それにしても、ここまでゲームが進化するとは当時は考えもしなかっただろう」
パワードスーツが登場する様なアクションゲームは過去にあったに違いないが、ここまでの細かい動作やデザイン、各種設定が盛り込まれた物は滅多に見られる物ではない。それこそ、ゲーム設定はユーザーにも分かりやすく簡単にしていたり、難しい表現でも調べれば分かる範囲で落ち着いている事が半数だ。
動画上のパワードスーツは、明らかにヒーローブレイカーのゲーム設定に必要な部類なのか疑わしい物まで存在している。公式外伝の類か、それともコラボアイテムか?
「誰でもヒーローか」
改めて、公式ホームページにも書かれている事を思い出す。誰でもヒーローになれるゲーム、それがヒーローブレイカーだという。しかし、ヒーローになったとしてそれをどう扱うのかはプレイヤーにゆだねられていた。だからこそ、一連のフラッシュモブによるSNS炎上等が問題視される。
三月二九日、午前中にゲーセンでヒーローブレイカーを単独でプレイして動作感覚を何とか把握しようと考えた照月。その後、しばらくしたタイミングで秋月千早(あきづき・ちはや)が合流、照月のプレイ終了後に遭遇する事になった。
「大分動きが良くなって来たように見えるけど」
秋月は色々とアドバイスでもしようかとも考えたのだが、余計なおせっかいだったようである。ゲームのプレイスタイルは人それぞれであり、それを固定化してしまうのはあまり褒められたやり方ではない。それこそ、完全な一本道なテキスト式のアドベンチャーゲームなどであれば話は別になるだろう。
「チュートリアルをプレイした時にも違和感があったし、それを払しょくする為にね」
照月が単独でプレイしていた理由、それはチュートリアルモードでプレイした時の違和感だった。それが何なのかは実際のプレイや動画などで把握できている。しかし、感触を掴む為にも実機プレイは必要だ。
「そう言う事か。でも、その衣装で?」
秋月は照月の言う事に一理あるとは考えつつも、やはり改造メイド服は関係があるのか疑問に思う。ARゲーム用インナースーツを着なくてもARアーマーは特撮ヒーローみたいに装着されるので、問題はないと思われるが。
それから数分後、整理券を発行しての再プレイ。今度は照月と秋月が一緒にプレイをしている。アンノウン戦を終わり、ボスレイド戦に突入する前に二人のARバイザーには警告表示が出現した。
《未確認プレイヤー接近中! 警告! 未確認プレイヤー接近中!》
サイレンなどの音は鳴らないのだが、唐突に表示されたインフォメーションには照月が驚く。秋月の方は驚きはしなかった一方で、これを想定外と考えていた。乱入自体は格ゲーでは日常茶飯事だが。
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