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 あの時、ビスマルクの見ていたまとめサイトには――。


【それ以上にヒーローブレイカーと類似したゲームが多くないか?】


【フォロワー作品が出るのは当然の流れだろうが、何かがおかしい】


【どう考えても別のAというゲームをヒーローブレイカーが真似たような記述が多いのだが】


 当然、これらのコメントを付けたと思われるハンドルネームは名無しを意味するもので、簡単に特定はできない。このコメントか偽物であると疑ったのはビスマルクだけではないのだが。


「本当にこのゲームが、イースポーツの現状を打破できる雷になるのか?」


 以前にゲーセンで姿を見せた男性俳優も、同じような事を感じていた。しかし、彼の場合は何か別の思惑を持っていそうだが。それに加え、彼は何やらダークフォースのコミュニティらしきサイトへアクセスをしており、そこで何人かの発言を見ていたのである。


「まぁ、どちらにしても必要なのは日本のコンテンツ流通を立て直せるような存在か――」


 彼はタブレット端末でサイトにアクセスした際、ハンドルネームを名乗っている。入力した名前はアルビオン。それが本名ではないのは明らかだが、自分とは無関係な適当に名乗ったネームではない。彼は、過去に演じているのだ。


【あのアルビオンか?】


【だとすれば悪趣味だな。SNSを炎上させる正義の味方なんて】


【逆にダークヒーローになったというのも面白いのでは?】


【しかし、そうだとしても目撃情報がない。我々をおびき出す為の釣り行為では?】


【そうとは限らないと思うが、警戒は必要かもしれない】


『こちらも始めるとしよう。コンテンツ業界を変える為のストーリーを』


 いくつかのコメントを確認した所で、彼はダークフォースからはログアウトする。どうやら、何かのメットを何もない所から転送したようにも見えるが?


 その後、彼は転送されたメットと思わしき物を被り、それと同時にスーツが装着される。そのメットは、ARゲーム用のARメットだったのだ。カラーリングはホワイトがベースだが、ラインにはシルバー、ショルダーアーマーはブルー。その形状は、神話やファンタジーと言うよりもヒーロー物のソレだ。そのスーツとは過去に放送されていた特撮番組のヒーロー番組、その主人公であるアルビオンだったのである。



 午後一時三〇分、草加市のARゲーセンでは照月(てるつき)アスカと秋月千早(あきづき・ちはや)がヒーローブレイカーをプレイしていた。プレイ前は秋月が普段と違う様なシャツを着ていたのに対し、照月は昨日と同じ改造メイド服である。どれだけのストックがあるのか想像できない。今プレイしているのは秋月のソロであり、照月はその様子を見ていた。


『とりあえず、マッチングから説明した方がいいかな』


 アンノウンとのバトル等は既に経験している事もあり、照月が若干把握していないマッチングを説明する事にする。秋月のプレイがメインでは、既にバトル画面とは違う画面が表示されていた。


《マッチング相手を探しています》


 何人かのプレイヤーはマッチングするようだが、ネームの横にあるアイコンはVRを示すものであって、ARではない。仮にARだとすれば、秋月の近くにプレイヤーが実際に現れる事を意味しているのだが。


『マッチングは基本的に三対三のチーム戦だけど、スコアの集計は全て個人扱い――そこまでは分かってるわね?』


 秋月の話に対して照月は無言でうなずくが、本当に分かっているのかは別の話だろう。


『目的はレイドボスの撃破。最終的にボスへ止めを刺せばスコアが高いけど、それまで削ったプレイヤーが割りを食わないようになっているのも特徴よ』


『あまりにもワンマンアーミーが過ぎれば、運営側がチートを疑いかねないのは――言わなくても分かるわね』


『あとは最初に選択したタイプは変更できる。タイプには個別レベルが設定されている訳じゃないし、オールラウンダーを狙うのが手だけど』


『下手に器用貧乏にならないように立ち回る為、意図的にタイプを固定しているプレイヤーもいるけどね』


 話しているうちにマッチングプレイヤーが揃った。どうやら、秋月以外はVR版のプレイヤーらしい。


「ARのプレイヤーがいないけど、成立するの?」


 照月の一言を聞き、秋月はあっさりと答える。


『プレイ人口的な関係では、VRの方がARと逆転しているかもね』


 そうとは考えたくない事だが、SNS上ではVR版のプレイ人口が増えているというニュースもあり、本当にAR側の人口が減っているという事も否定できない。だからと言って、AR側を炎上させて言い理由にはならないし、ゲハ論争のような炎上行為が再燃することだって許されないだろう。


(そろそろ、こっちも本気で彼らと戦う時が来たのかもしれない)


 秋月はプレイ開始となっている中で、少し考え事をしていた。既にレイドボスのライフが一割減った辺りで、ようやくプレイが始まっている事に気付き、動き出していたのだが――。

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