ギムレットには早すぎた

@aodanuki235

バーにて見知らぬおっさんと

 その日は散々だった。いや、正直散々じゃない日なんてのも珍しいんだが、それにしてもその日は散々だった。あのおっさんに会うまでは。

 その日はサークルのメンバーが幹事の合コンに参加したものの、狙ってた子がもう彼氏持ちだとか言い出して(いや、そもそもそんなのメンバーに入れてんじゃねぇよ)、寂しく残った男達と別の店で飲み直してたら、偶然隣り合ったOLの女子会にうまいこと合流して、カラオケまで一緒に行った挙句残ったのは俺とお堅いお局OLだけになっちまった。当然カラオケ店の前でさよならして、俺はこのどうしようもない気分を少しでも酒で紛らわせようと近くにあったバーの扉を開けた。もちろん、バーなんて普段なら女と一緒に二人で行って、雰囲気よくその後二人で過ごすための言ってしまえば前座みたいなもんだったが、この日はただやけ酒を飲んでさっさと寝てしまおうというだけのために入ったはずだった。ただ、いつもと違う目的で入ったせいか、いつもより店にいる客に興味を持ってしまって、一人でカウンターで飲んでいるおっさんが妙に気になってしまった。

 俺はおっさんの二つ隣のカウンターに座り、いつものように「とりあえずジントニック」とちょっとバーに通いなれているような注文をした。バーの良いところはバーテンダーの対応だと思う。どんな客に対してもこれでもかってくらい丁寧に対応してくれる。そのおかげで、俺みたいな若造でもちょっと堂々とした感じでいればバーに通いなれた感じにしてくれる。これでいつもなら隣の女もちょっとクラっときてくれるものなんだが、今日は二つ隣におっさんがいるだけとは…

 俺はそう嘆きながらそのおっさんをちらっと横目で観察してみた。年は四十にはいっていないぐらいのやせた中年で、いかにもいい人って感じのおっさんだった。人のことは言えないが、それにしても、バーの常連って感じじゃなくてむしろどっかの屋台の代わりに入ってみましたって感じが強い、そんなどこにでもいるような普通のおっさんだった。ただ、そんなおっさんがこんな時間に一人でバーにいるってことが、俺としては一番しっくりこない疑問だった。

 そんな俺の視線に気づいたのか(ちょっと飲みすぎて時間感覚がくるってたらしく結構な時間見つめていたようだ)、おっさんは俺の方を見て、「何かありましたか」とこれまた丁寧な疑問文で返してきた。俺が「いや、別に」といかにも今どきの若者らしい感じのあいまいな返事を返すと、おっさんは意外にも「お一人ですか?よかったら一緒にどうですか?2・3杯ぐらいなら私が持つんで」と、見た目からは想像できないような言葉を投げかけてきた。ちょっと戸惑った俺だったが、実際に暇を持て余していたのと、このおっさんに少し興味がわいてきたのとで「じゃあ少し」と、これまたいつもならありえない返事を返して一緒に飲むことになった。

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