萌える転校生!!
始業のチャイムが鳴っても、3年A組の教室はまだガヤガヤと生徒達のおしゃべりが続いていた。
前日に担任教師のシモンが女子更衣室で変態行為を行い、懲戒免職になったのだ。
そんなわけで朝から職員室は大騒ぎになっていて、朝礼の時間になっても教室に教師の姿はなく自習状態となっていた。
「ねぇ、修学旅行のグループ分けって今日だよねっ!サエコ、一緒のグループになろ!」
「おけおっけ〜♡ あと、マコっち達も誘ってみる?」
「う〜ん、どうしよ…。ねぇ、ケイト君達ってどうするのかなぁ?」
「おっ♡ ソコ行っちゃう? ずっと狙ってたもんねぇ(笑)」
キンキンと耳障りな声で話すリア充女子達の会話を、シオリは耳を塞ぎたい気持ちで聞いていた。
話題の中心はどれも、間近に迫ってきた修学旅行の話で持ちきりだった。
「でも、早く修学旅行班のグループ決めとかないと、あの陰キャ巨乳メガネを押し付けられてもヤダしいww」
「えw アイツって修学旅行来るのww いやいや普通、絶対ブッチするっしょww」
「うっわww サエコって本当、あの女に容赦ないよねぇwww」
時折聞こえてくる、シオリを嘲笑する笑い声。
シオリには、グループに誘ってくれそうな親しい友達はいない。
…かといって、先生の提案で大人しい子達のグループに無理に入れて貰っても、馴染みのない者同士ではお互い気を使ってばかりになるのも目に見えていた。四人グループの中で浮いた一人がいれば、そんな修学旅行が楽しい旅になるわけがないのだ…。
ババ抜きのジョーカーの気持ちを、シオリは味わっていた。
ガラガラッッ!!
その騒がしい思春期の熱気の坩堝に、冷や水が入れられた。
突然教室の扉が開き、ピシッとした黒スーツ姿の美女が教壇の上に颯爽と登場したのだ。
見覚えのない大人の登場に、教室内は一瞬で静まり返った。
「え〜。不祥事でお辞めになったシモン先生のかわりに来ました、理事長代理のアキバです。半年ですが、皆さんのクラスの担任を受け持つことになりました」
「えぇっ!? り、理事長!?」
「しかも、担任って!?」
アキバの一言を皮切りに、再び教室内がガヤガヤと騒がしくなる。
「静かにっ!!」
アキバの凛とした声が教室を切る。騎士として鍛えてきた彼女の一声に、再び教室に静寂が訪れた。
「それと今日は…突然ですが、転校生を紹介します」
「…転校生だって…!?」
「…うそ?この時期に?…もう三年生の後半だよ!?」
さすがに先ほどよりもトーンは抑えられていたが、再び教室の中が騒がしくなる。
しかし、アキバの「二人とも教室に入りなさい」の声で、教室は息を飲んだような緊張感のある沈黙に支配された。
時期外れの転校生。それもなぜか二人も…。
生徒達の関心は、イヤが上でもアゲアゲに上がっていた。
ごくり……。
皆が息を飲み注目するなか、ここぞとばかりに美少女登場シーンのふわキラのエフェクトを纏い、ユウナが先頭を切って教室に入ってきた。
ふさぁ…と、光の帯のようになびく金色の髪。陶器のように透明感のある白い肌。
それはまさに、恋愛漫画の『美少女ヒロイン初登場シーン』といった感じだった。
初めてユウナを目にした生徒達は、ただ言葉を失い呆然と見入ってしまっていた。
そして、その後ろに続くエルフ少女のリジュを見て、今度は感嘆の声があがる。
特徴ある尖った長い耳。くりくりと可愛いパッチリおメ目。
少し幼さの残る端整な顔には、抱きしめたくなるような愛らしい笑みが浮かんでいた。
「お人形さんみたい……なんて綺麗な女の子なの……(うっとり)」
「何あの娘!? 超〜可愛いぃ♡♡」
「何者なのあの二人? キャラデザ的に、絶対モブキャラじゃないよね!?」
ユウナは教壇に上るとクラスメイト達の方を向き、優雅にお辞儀をした。
「初めまして。私は『勇者』のユウナと申します。短い間ですが、仲良くして頂けると嬉しいです♡」
フォーマルな魔法学院の制服を着ておすまししたユウナは、いつもと違いどこから見ても良家のお嬢様にしか見えなかった。
「き、聞いた!!??ゆ、勇者様だって!!!??」
「うっそぉ!?初めて見たっっ!!?
「マジで!?本当に実在するんだ!!?」
「アタシはリジュっ!! アイドルだよぉっ!!」
リジュが、人懐っこそうにクラスメイト達に手を振る。
それだけで、男女から黄色い声が上がった。
「エルフじゃん!?本物!?」
「可愛い!!もぅっ♡ モフモフしたい!!!」
「ロリアイドルって、ヤバっ!? 犯罪の匂いがするッスっ!まじ天使っ!!」
登場して早々にクラスメイトのハートをがっちりキャッチしたユウナとリジュを、冷めた目で見つめるアキバ。
普段いつも二人のお世話役をしているアキバにとって、他人行儀に猫を被っている二人がシラジラしく見えた。
(まったく、はがゆいくらい外面(そとづら)が良いんだから……。
まぁ…二人ともルックスだけは抜群なのは認めるんだけどね)
そう苦笑いを浮かべるアキバも、一般レベルではかなり美人ではあるのだが……。
「それでは、二人とも空いている席に座って頂戴。授業を始めるわよ」
アキバが二人を教室の後の空いている席に座るように促した。
すると、二人の美少女から放たれる圧倒的なメインキャラ・オーラに圧倒され、教室が二つに割れる。
モーゼの十戒のように、教室内の机が左右に別れ、二人の前に道が開けたのだ。
その道を、二人は導かれるように堂々の貫禄で歩み席に着いた。
「あ、あの……っっ!?」
優雅な動作で着席したユウナに、となりの席の少女が恐る恐る声をかけて来た。
「はい?(ニコ)」
「ほ…本物の、勇者様…なんですか?(ドキドキ…)」
この世界を救った勇者…。
それは誰もが幼い頃に絵本で読んでは憧れる、おとぎ話の中の英雄だ。
「ええ、そうですよ。 でも、特別扱いはなさらないで。私のことは普通に、ユウナと呼んでくださいね♡」
「ユ、ユウナ…さぁん♡♡」
ユウナに神秘的な笑みで微笑みかけられ、彼女は頬から蒸気をボォッと吹きあげ舞い上がってしまった。
ユウナの人を惹きつける眩しいオーラには、男女を超越する何かがあった。
「わ! 私、サエコっていいます♡♡♡」
そう言ったサエコの瞳は、もう完全に『恋』する少女のそれだった。
瞳をハートにしてキュンキュンし、ドキドキしていた。
「も、もし良かったら!!!…しゅ、修学旅行のグループにっっ!! 入って下さいっっ!!!!」
「だが、ごめんなさい♡♡」
一瞬で断られるサエコ。
……何が起こったのか理解できないまま、ぽろぽろと涙をこぼして泣いてるサエコを、サエコ本人が一番驚いていた。
一瞬で恋に落ち、一瞬でフラれる。頭と心が、完全において行かれていた。
「え…?……あの………あれ?………あはは(涙)」
サエコは笑顔のまま、こみあげてくる嗚咽にヒックと喉を鳴らし鼻水を啜り上げる。
「本当にゴメンなさいね、サエコさん。
でもすでに、お友達と約束をしてありますの♡ 修学旅行で、一緒のグループになろうって♡♡」
そう言ったユウナの後ろ側の席では、ガクガク、ブルブルと震えながらシオリが座っていた……。
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