ときめきメタモルフォーゼ

天から可愛いカラフルなハートがいっぱい集まり、合体し右の乳首にペタンと張り付く。

同じように再びハートが集合し、今度は左の乳首にもハート形のニップレスが装着された…。


アニメ通りの変身シーンだが、原作ではその変身するヒロインが美少女なのに対し、目の前で繰り広げられるファンタジックな変身シーンを演じているのは40歳のオジさんである。

シュール系イリュージョンとしか言いようがない光景が、シオリの前で繰り広げられていた。


あまりの猥褻なそのシルエットに、シオリは顔を真っ赤にし屈み込むほど深く俯いてしまった。


「右の乳首は正義の証!左の乳首はそれの予備!!あなたの貞操守ってあげる♡

『ニップレスほわいと』参上!!」


変身を完了し、ヒロインの決め台詞でポーズまでキメたシモンは、シオリの前で仁王立ちになった。


「ひぇぇぇ……(///)」


俯いたまま顔を上げることもできず、シオリは耳まで赤くしてその場に座り込んでしまった。


「ぐひっ♡ 後はあの伝説の樹の下で、シオリと私が結ばれれば…二人は本物の夫婦になれるね♡」

そう言ってシモンが指差した窓の向こうには、お城のような中央校舎がそびえ立ち、その頂上には古い巨木が見えた。


魔法学園中央校舎の空中庭園にある『伝説の樹』…。

その下で告白し結ばれたカップルは、永遠に幸せになれるという言い伝えがその木にはあった。


「あのぉ……友達に噂とかされると恥ずかしいんですけど……(涙)」

もしそんな光景を生徒の誰かにでも見られでもしたら、もうこの学園生活は終わりだろう。


「さぁ、おいでシオリ!先生のお嫁さんにしてあげる♡」


「きゃぁっっ!!!」


シモンはそう言うと、軽々とシオリを小脇に抱えた。

異形の姿に変身した彼は、もはや人間の力をはるかに超えた存在となっていた。


ガシャァーーーン!!


ガラス窓を突き破り、シモンはシオリと共に外へと飛び出した。

そしてすぐさま、中央校舎の方角へと大きく飛躍する。


放課後の夕暮れの空を、異様な姿に変形したシモンと、それに抱きかかえられたシオリの影が弧を描いて横切る。

目指す先は当然、『伝説の樹』のある中央校舎最頂部である。


上空の冷たい空気が、シオリの露出した肌を痛いくらいに凍てつかせた。

今までのドタバタの拍子に、どこかで脱げてしまったのだろう。気がつけばいつの間にか、制服のスカートもどこかへ行ってしまっていた。


もはやシオリが身にまとっている布は、なんとも頼りなげな純白の薄いショーツのみ……。

必死に右手で裸の上半身の胸を隠し、左手で下着の上から股間付近を隠す。それで隠しきれるハズもないのだが、それが今のシオリのできる精一杯の抵抗だった。


(うぅ……どうして私ばかり……恥ずかしい目にあうの?)

いつも何故か、お色気担当キャラのようにエッチなハプニングにばかり遭遇してしまうシオリ。


シオリはずっと心の奥に燻っていた負の感情が膨張するのを感じていた。


(好きでエッチな体型になったわけじゃないのに……)


この膨大すぎる魔力だってそうだった。


小さい頃は彼女の強力な魔力を大人達が褒めてくれ、それが自慢だった。

だから大きくなったら、立派な正義の魔法少女になりたいとずっと思っていた。

だが、今は……。


(パパ、ママ、ごめんね……もう、疲れちゃった……。

 …先生に…初めてを奪われるくらいなら……いっその事………)


「……魔道書さん」


「ハイ、なんスか?」


魔道書が、シオリの胸の谷間から顔を出す。

書庫を出るときに、こっそりとシオリが隠して持ってきていたのだ。


「……私、やっぱり契約します!

 アナタと契約して、悪い悪堕ち魔法少女になります!」


小さい頃から優柔不断で、自分で何かを決めるなんてしてこなかった彼女が、キッパリと言い放った。

厚いメガネのレンズの奥で、シオリの決意を秘めた瞳が魔道書を見つめていた。


「はいはい。じゃぁこれにサインお願いしやっス」


渡されたカードにシオリがサインし、契約終了。

2回目ともなると、あっさりしたものである。


「あの、私……もう…魔法少女なんですか?」


「あとは『別の自分に変わりたい』って願えば、変身できますよ?」


そうこうしている間にも、シモンはシオリを抱えたまま、校舎の壁を疾走し頂上目指して駆け上っていた。見る見る校舎屋上の巨木…伝説の樹が近く迫ってくる。


シオリは意を決して、メガネを外した。

極力目立たないようにと選んだ、地味で厚めのレンズのメガネ。

その下から現れたのは、『美人』と『可愛い』の天秤の丁度ど真ん中。男なら思わずドキッとしてしまう端整で愛らしい顔だった。

そもそも古今東西、メガネ少女がメガネを外して美少女でないわけがないのだ。


(さようなら……さっきまでの私……。

 そして、新しい自分に……こんにちは……)


今のシオリは、高校生活初日にコンタクトデビューする少女のような気持ちだった。

今なら何か自分を変えられそうな気がしていた。


静かに目を閉じる。

そして、頭の奥から自然と浮かび上がってくる不思議な『変身魔法』の呪文を唱えた。



「アブラカラメオオメ♡ ニンニクヤサイマシマシ!!」



カロリー高めの美味しそうなその呪文に、ぐぅとシオリのお腹が可愛く鳴った。


シモンとシオリが中央校舎屋上へ到着し、伝説の樹の下へ辿り着いたのと、シオリの変身シーンが始まったのは、ほぼ同時だった。

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