女聖騎士アキバ

魔王村の小さな教会に、大勢の王国軍の人間が押しかけていた。


定刻になっても試練の祠に現れない勇者一行を不審に思い、偵察を走らせたところ、道中で護衛の部隊が全滅しているのを発見。

勇者はすでに行方知れずになっていた。


王国の護衛団が壊滅的被害を受けた上、勇者まで消息不明になったのだ。

その一報が国王陛下に伝わるや、王都は大騒ぎになった。


この平和な世に、いったい何が起きたのか?何者の仕業なのか?

王宮内は様々な憶測が飛び交い、やれ後継者争いの謀略だの、魔族が再び現れただの、実はただのドッキリだなど、ひっちゃかめっちゃかだった。

誰一人真実を知らぬままの議論は、ただの繰り返すポリリズム。


だがたった一人、その時の真実を知っている者がいた。

それは……


「本人に聞けばいいんじゃね?」

誰かが言った。


……殺された当の本人、勇者その人である。


しかし……

大急ぎで王都から駆けつけてみれば、復活した勇者はすでにどこぞに行ってしまい、話を聞くことすらままならなかった…。


←イマココ。




☆★☆★☆




「では、勇者様はその少女の姿でここで復活して、教会を飛び出していったということですね?」


王都から派遣されてきた若き女聖騎士アキバは、魔王村の教会で園長先生とシスター・マリア&園児達に事情を聞いていた。

場所が『教会』で『幼稚園』なだけに、若い女性スタッフだけのほうが威圧感を与えずに済だろうとの配慮からだった。


「はい、そうですじゃ」

園長先生が、騎士アキバの問いにそう答えた。


東洋風の顔立ちで切れ長の瞳。つむじの位置でひとつに結んだ長く艶のある黒髪。まさに清楚系大和撫子。

腰には細身の刀剣を携え、そのイメージは『女流剣士』といった感じだ。

年の頃で18歳前後といったところか。


「そしてその時、園児服姿でノーパンでお尻丸出しだった…と………」


じろりとアキバは園長先生を見た。

本当かなぁ〜?と疑いのジト目で、園長先生を見る女騎士。


「あ…ありのまま、さっき起こった事を話したのじゃ…。

 な…何を言っておるのかわからんじゃろうが、ワシも何が起こったのかわからんかった…」


突然、まさに言葉通りイナズマのように現れて、イナズマのように去っていったギャル美少女の勇者。

園長先生はそのとき頬ずりした、真っ白でスベスベの小さなお尻を思い出していた。


「…もっとも恐ろしいケツの片鱗を、味わったぜ…」


そうですか…と、優しい眼差しで老人を一瞥すると、アキバは「他にまともな方はいませんか?」とあたりを見回した。


「何でもいいんです。勇者の居場所について心当たりある方はありませんか?」


「…はい」


「じゃぁ、そこの少年」


「ここにいます。僕、勇者です………」

そこには、いつの間にか祭壇の上でこっそり復活を果たしていた裸の勇者が、前かがみの状態で小さく手を挙げていた。



「「「 エエェーーーッ!!?? 」」」



驚く一同。


ギャル勇者の復活の時と違い、なんと物静かで穏やかな復活。

復活の仕方まで、彼…ユウくんの奥床しい性格を物語っていた。


「ゆ、勇者様!? いつからそこに!?」

アキバはその場に片膝をつきひざまずくと、驚きの表情のまま勇者を見つめた。


「試練の祠を目指してたら、急に魔族に襲われて…気がついたらここで復活して……」


「そ、それで『少女の姿』で復活した後は、いったい何処へ!?」


「少女?…復活?……って、何のこと??」

不思議そうに、逆に聞き返してしまう純粋な少年勇者。


アキバは園長先生の顔を見たが、「いやいやだって本当に見たんだもん!」と首を振るばかりだった。


「…つまり、『少女の姿で復活』した時のことは、覚えていないのですね?」

事態をつかめていないユウくんに、アキバはそれまでの経緯を説明した。


「………。」

しばらく考えたあと、「やっぱり覚えてないです」と申し訳なさそうな笑顔で、彼女をキュンとさせるユウくん。相変わらずの年上キラーっぷりだった。


「そ、そう…ですか(///)」

美少年の笑顔に見とれていたアキバが、はたと我に帰りコホンと小さく咳払いをする。


「あのぉ、そろそろ何か着るもの…貸してもらえると…」

ずっと全裸で前かがみの状態だったユウくんが、モジモジと恥ずかしそうに言った。


「…は!? これは失礼致しました!!」


そう言われて初めて、目の前の少年がずっとあられもない姿でいた事に気付き、慌ててアキバは自分の羽織っていたマントをうやうやしく少年に差し出した。


(あぁもう勇者様! モジモジしてるトコも可愛いなぁっ♡)


アキバは両手で顔を覆うふりをして、着替えている少年のお尻をチラリと盗み見ては、自分もこっそりモジモジしていた。


そして、そんなアキバを今度は爺さん(園長)がジト目でじっと見ているのであった。

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