あなたの作品を読ませてください
甘更
責任とりませんよ/青樹 杏樹
責任とりませんよ/青樹 杏樹
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887248763
面白かったです。
特にキャラクターの関係性のこじれがこじれを呼びによび、最終的に腐女子増やそう! そうすればみんな幸せ! という展開の持っていき方が最高でした。
◼️冒頭2話
冒頭2話、引き込まれました。
主人公の腐女子、小鳥遊三葉は入学したての高校一年生なんですが、そんな子がバレたら人生終了レベルの落し物をしてしまいます。
果たしてその中身とは...二人のイケメン兄貴のBL妄想を書き溜めたメモでした。
という始まり。もうこれだけで面白くないですか。
また、この冒頭2話には兄妹間の中の良さ(髪の毛の乾かし合ったり、気軽にハグしあったり、他のうちと比べてもフランクすぎる関係)が描かれたり、父親が子供に愛人をうかがわれるくらい家に帰ってこないけど愛妻家だとか描かれることによって、見事につまはじきにされております。
しかしこの描写から、親父が主人公を可愛がる機会が少ないんだろうなぁとか、そこを察した兄貴達が妹に寂しい思いをさせないよう可愛がっていたらいつのまにか他の家の兄弟より仲良くなりすぎてしまったのかなぁとか、想像が膨らんでいくのです。
でも、主人公は兄貴二人がくっついている所が見たいという欲望を抱えています。でも、兄貴二人は妹が可愛いし家族一緒にいたいのです。
要は「私の事はほっといて(おにぃ二人で仲良しなのを見ていたい私は邪魔)」なのです。思春期特有のアレではないのです。
そんな、お互いの事が大好きな兄妹なのですが、その思いのベクトルは最初からすれ違っているのです。
ただ、私=主人公はそこにいらないという欲望? それを家族相手に抱いてしまう欲求をストレートに家族伝えるわけにはいかない。
だから、主人公、三葉は妄想メモに自分の欲求を吐き出すしかありません。
そんなメモ帳を入学早々の高校で落としてしまった。
..この感慨は一言では言い表せられないです。
ですが、ここから物語は動き出しはじめるのです。最終的に、まさか腐女子育成計画が始動し学園全体を巻き込む事になろうとは..この時点では全く分かりませんでした。ので、最新話で爆笑しました。なんという小説だ。
◼️本編
落し物を落としたら探しますよね。そして見つかりますよね。見つかったら見つけてくれた相手が誰か気になりますよね。
で、その正体が同級生で同じクラスの一見中性的な身なりをした腐男子でした...となれば、波乱を感じずにはいられません。いきなり凄い展開だ。
しかもその腐男子君は、おそらく作中屈指の切れ者で、メモ帳の小鳥のデザインから持ち主(小鳥遊=小鳥かな?)を推定します。
更に主人公の正体を暴くために、メモ帳の中身をきちんと把握した上で主人公の皮を剥ぐために鎌をかけます。
その結果、彼は自分の立場をわきまえ、かつそれを利用しながら腐女子の仲間になってしまうのです。
*****
なんか、五十嵐くんは話しやすいな。失礼だけど、見た目が中性的だからかな。普段、男子と話すと間が持たない時があるから気楽だわ。
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この一文は主人公と腐男子君との邂逅の場面から引っ張ってきた所ですが、人当たりの良さが窺えますよね。
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「今日、早めに登校したのは落し物を探すため?」
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そのあとにこの一文が腐男子の口から発せられるわけですが、不意に本題へ切り込んで主人公の反応を窺っています。
そこから主人公があのメモの落とし主かどうか巧みに探っていくのですが、、、それは本編をご覧になってください。
その後主人公の秘密を利用して、脅迫しながら腐ったもの同士としての交流を進展させていくのですが、表上はデートに見せかけて、裏では腐本の交換クエストを行うなど、レベルの高いやりとりが続きます。
◼️腐男子君が面白い
腐女子の花園に男を入れるのって難しいんじゃない? とか思ってしまう僕ですが、本作はそのハードルを簡単に超えていきます。
腐男子君が腐女子の園、紅薔薇パーティーに加わるきっかけは、一番最初に置かれた伏線である[バレてはいけない落とし物を拾った]事ですが、そこで成立するのは、[主人公との秘密の共有]です。
多分今の世の中、腐男子の数は腐女子よりは少ないと思います。という事は身バレする可能性の重さを考えると主人公より腐男子君の方が世を偲んでいるといって過言ではない。
何が言いたいのかというと、高校に入学早々男の腐仲間を増やそうと思ったら大変だということです。カミングアップのタイミングや、話す相手をミスったら学園生活は終わってしまうでしょう。
そこで主人公の落し物を黙って拾って返してあげる(ただしお前の秘密は握ったぞ)かわりに、仲間になろうという契約を交わしているのは、利害が一致しているという点で合理的です。
一方的な脅迫から始まった主人公との関係ですが、一見するとカレカノのように見えて(妹ラブな兄二人はそれで誤解する、性別も誤解する)、裏ではお互いの正体を知り合う、唯一の異性として描かれます。案外作中で1番上手く生きているように見えて綱渡りしているのは、腐男子君かもしれません。
またコスプレイヤーの属性を加える事で外見の女らしさを強調したり、でも恋愛対象は好きになった人(男でも女でもOK)だったり、主人公との腐本の交換回では兄貴二人に彼氏だ女友達だーと誤解されたり(その誤解を楽しんだり)、更に主人公の友達(百合っ気のある女の子)とのいがみ合いを描く事によってちょっとしたラブコメが展開されていたり…ちょっと書いただけですが、腐っていても男であるというところが作品の中にフツーのラブコメの波動を持ち込んでいるところがすごくいいです。
◼️キャラクターが魅力的
...と一人のキャラクターを抜き出すだけでもこれぐらい面白いのです。そこにより魅力的な登場人物が綺羅星のように現れては話をよりややこしくしていきます。それはもう自然に物語に深みが生まれてしまいますよね。
簡単に言えばキャラクターが立っていると感じたという事でしょうし、硬く言うなら人物造形とその描き出しが上手いという感想になるとおもいます。
◼️むき出しになるコンセプト
物語はそこでとどまらず、そこからおにぃ達の追っかけである上級生のお姉様が主人公に決闘(今回は不発に終わるんですが)を挑んだり、その場面でおにぃのシスコン振りが発揮されたり、友達関係が深まったり百合っ気が増えたり、先輩が程よい距離感で仲間になったり、紅薔薇の会が誕生したりします。
そこから更に発展して作品のコンセプトがむき出しになってくるのですが、これが最高でした。
「わたし(妹)に敵意を向けてくる実のイケメン兄貴二人分の取り巻き女子全員生もの腐女子にしてしまえば問題なし!」
斬新すぎて笑いました。ある意味誰も傷つかないけど、色々な誤解を生んでいきそうでもあり、いやー最後どうなるんだろうと想像が膨らむ熱い展開ですね。秘密は最後まで守られるのか!!
これから腐バレのスリルも倍増していくだろうし、妹大好きな兄貴二人がそんな妹の真実を知った日にはどうなるのか、楽しみでしょうがないですね。なんせ「生もの」ですから。
◼️余談1
他にも、例えば綾小路先輩の立ち位置が面白かったです。出てくる女の子全員が腐女子になるわけではないのです。でも。ならない代わりに大きな誤解を与える事になります。
その結果、ちょっとした支援が得られるという展開も、なんか熱いですよね。
その果てに、兄貴二人がそんなに好きで好きでしょうがないなら、第一線で見守っているわたしの妄想を共有する仲間になって打ち解け合おうみたいな会が設立していく流れは感動しました。
◼️余談2
また、ちょっとだけ公開されている学園そのもの仕組みが面白いです。学園にある3つの学科が、ゲームでいう三すくみの関係みたいに機能している事。更に学園には「決闘」という習慣があって、その勝ち負けによって支援を得られたり命令を受け入れたりするというシステム。
11/23までのお話では1回決闘の話は流れてしまいますが、これからもし出てくるのであればちょっと楽しみですね。
◼️余談3
また、グループラインと個別ラインを使い分ける描写が面白かったです。最近の小説を最近あんまり読んでなかったので、僕の中ではメールが最新だったのですが、なんか時代が変わったなぁと思いました。
それから、本音と建て前の描写みたいなものがグループラインと個別ラインで生まれたんだなぁと、びっくりしました。
グループラインで話している内容について個別ラインで相談するっていうのが、自分もやっている事ですけど、小説で見ると新鮮にみえます。
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