第7話 幽霊との対決
一瞬、息が止まる。
「雪……」
その顔に昨日の憎しみの色はすでになく、こっちが切なくなるような悲しそうな眼で、私を見つめていた。
「……月之丞、さん? っていうの?」
名前を口にした途端、昨夜の夢の感触がよみがえった。強く、抱きしめる腕、包まれる温かさ。顔を見るとドキドキする。
「今さらなぜ名など訊くのだ。お前は雪だろう?」
整った眉を寄せ、月之丞さんは首を傾ける。
「えっと、名前はそうなんだけど、雪違い、というか」
なんと説明すればいいのだろう。そもそも彼は自分が幽霊であることに気づいているのだろうか。っていうか本当に幽霊? 足あるし。だんだん混乱してきた。とにかく、現状を整理しよう。
「月之丞さん。今、何年だと思う?」
「何年、というのは、文化十年、のことか?」
「それそれ。でね? 月之丞さん、現在はね、平成二十六年なの」
「平成……? 何を言っておるのだ?」
私は『文化』という聞いた事もない元号をスマホで検索し、文化十年、というのが今からちょうど二百年前であることを知った。
「落ち着いて聞いてね。今調べたら、文化十年というのは、今から二百年前なの。つまり、あなたが生きていた時から二百年経ってるの。人間がそんなに長生きするわけないから、あなたの知ってる雪さんは、もうとっくに亡くなっていて、だから私は、別人」
月之丞さんは口を開いたまま、何度もまばたきしている。
「言いにくいんだけど、つまり、あなたも亡くなってるってこと」
「それはわかっている。俺はもうこの世のものではない」
わかってたんだ。ということは幽霊決定。ひとつ謎が解決した。
まだまだ謎はあるんだけども、これ以上幽霊とやり取りをしていたら私までこの世のものではなくなるかもしれない。そう思い、私は決めた。
……なるべく穏便に成仏願うことにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます