第5話 蔵の過去


「さて、母屋は築百年くらいらしいが、たしか蔵の方はもっと昔、江戸時代の頃からあったと、わしのひいばあさんが言ってたな」


「江戸時代、ということは、少なくとも百五十年、ですか」


「ああ、この家は昔庄屋で、蔵も何個もあったらしいんだが、あの一つだけは壊さず残しておくように、とだけ言われていてなぁ」


 あの蔵だけ? やっぱり何かあったんだ。


「あの、その理由って知ってますか? 何か……例えば事故でもあったんでしょうか」

「それがなぁ、わしが子供の時でさえ、誰も知らなかったんだよ。雪ちゃん、もしかして、本当に蔵で何か見つけたのかい?」


「あ……いえ、そういうわけでは。つい気になって」


 私は急いで茸鍋を口にほおばる。


江戸時代からある、壊してはいけない蔵。


私の夢の中で見た蔵、今よりずっと新しかった。

実際にここへ来た見た蔵よりもずっと。


私は、江戸時代の頃の夢をみているのだろうか。それも、何度も。


……なぜ?


しかも、今日そこで着物の男の幽霊を見た。そして、その人は私のことを知っていた。


……何度も見る夢と、私のことを知る幽霊、実際にある蔵。

うーん、フラグ、立った気がするなぁ。

蔵と夢、と江戸時代にあった、事件だか事故だかわからない出来事、絶対に関係あるでしょ……


 私は夕飯を終え、お風呂をいただいた後、用意してくれた部屋の布団に横になった。

夢について知りたくて来たけども、実際に来たら、謎が増えてしまった。怖いけど、明日、もう一度あの蔵へ行ってみよう。幽霊が恐ろしいものだったら……今日みたいに逃げ出せばいい。大丈夫、命まではきっと……


考えているうちに、瞼が重くなり、私は目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る