第369話

 ピアノは全くの独学だ。

 何しろ貧乏プアーだったからピアノ教室にも通えないしウサギ小屋なので当然、ピアノだってない。


 見よう見まねで覚えたメロディ。譜面さえ読めない。


 聴いて見て覚える。その繰り返しだ。

 しかもアキラの部屋で弾いてから、ひと月以上、ピアノに触ってもいない。


 だが、今、ピアノを前にして弾いてみたい。心の底から……


 しかし……

 その一方で拒否反応があった。

 これは亡くなったレイラのピアノだ。

 私に弾けるのか。弾いて良いのだろうか。


 私の後ろには、矢作警部補が……、義母が義姉が、そして桐山アキラが見つめていた。


 防犯カメラがピアノの前のレイラをズームアップしていく。


 モニターの前の光輝コウキも興味津々だ。

 爪を噛んで見つめていた。 

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