『ラブコメに幼なじみは欠かせない』編



「水川!ちょっと待てって!」


「なによ!追い掛けて来ないで!!神成かみなりさんと一緒に居ればいいじゃない!!!」


「だから、違うんだって!」


風見は清美の腕を掴み、引き止めた。


「離してよ!何が違うの!私、この目で見て、ちゃんと聞いたんだから、あなたが神成さんの事「好き」って言って、神成さんが「OK」って言ってたの。」


デパートの通路の真ん中でケンカしてるアベックは、とにかく目立つ。案の定2人は注目の的になっていた。


「ちょっとこっちに来い。」


風見は人目を避けるため、腕を掴んだまま、柱の陰まで清美を連れていった。


「いいか、よく聞け、確かにお前の言う通り言った、でもなあれは練習なんだ。」


「練習?じゃあ、さっさと戻って、神成さんに告白して来なさいよ。そうよね、私みたいなガリ勉女なんて可愛くもないし、めんどくさいだけだよね。私一人舞い上がってバカみたい。

だいたい、風見君が私の事好きになるわけないじゃない、風見君は勉強出来るし、スポーツ万能だし、優しいし、それに比べて私なんて、勉強しても風見君に勝てないし、漫画もアニメも知らないし、可愛くないし…」


「あ~!もう!」


風見は、清美の言葉を遮るように、腕を引き寄せ、自分の唇で清美の口をふさいだ。


「え?????何??何???」


清美は一瞬、何が起こったのか解らなかった。ただ、目を閉じた風見の顔がすぐに目の前にあり、風見の唇が自分の唇に触れている感触は確かにあった。


「え~~~~~~?!キ、キス~~~~~!?わたし、風見君とキスしてるの~???!!!」


とっさの事でわからなかったが、キスをしてる間、息をしてない自分に気が付いた。清美は息が続かなくなり、風見の体を押し返した。


「ハァ、ハァ…ななななな何するのよ!」


清美の顔は、ゆでダコのように真っ赤だ。


「いや、だから、よく聞けって。」


風見は一度間を置き、深呼吸をして話し始めた。


「俺はお前の事が好きだ!俺の彼女になって欲しい… ダメか?」


「そ、そのセリフって…」


「ああ、さっき神成を相手に練習してたセリフ…あいつ、いきなり俺の所に来て、「ちゃんと水川さんに気持ちを伝えたの?」って聞いて来たから、「まだだ」って言ったら、「ちゃんと言葉で伝えなきゃダメだよ。」って、無理矢理練習させられてたんだ。」


「じゃあ、今のセリフは…」


「だから、俺の水川に対する気持ちだ。もう一度言うぞ、水川、俺の彼女になってくれ。」




「ポカッ!」


特子「イテッ!カチョー、なにするんですか~…」


カチョー「お前、なに仕事中にマンガ読んでんだよ。」


特子「マンガじゃないですよ。『ラノベ』ですよ。ラ・ノ・ベ。」


カチョー「ラノベ?マンガじゃないのか?その表紙はマンガじゃね~か。」


マイ「カチョー、今は若い子向けの小説を『ラノベ』って言うんですよ。『ライトノベル』の略。」


カチョー「どっちでもいいけど、仕事しろ仕事。」


特子「だって暇ですもん。カチョー、なんか事件を起こしてくださいよ。」


カチョー「バカな事を言ってるんじゃね~よ。そこの資料を棚にしまってくれ。」


特子「は~い…… あ~、私も『路チュー』したいな~…」



私の名前は『志賀内特子(しがないとくこ)、なんやかんやあって、念願だった警視庁で働く事になった。


以下略!



「ガチャ!」


本部長「壮寛そうかんは居るか?」


カチョー「あ!本部長。珍しいですね、こんなむさ苦しい所まで。」


本部長「それはイヤミか壮寛、ここは元々私の部屋だ。」


カチョー「いえいえ、快適ですよ、本部長。

それより、何か用事ですか?」


本部長「用事と言うほどの事もないんだけどな、ニューヨーク市警から、警視庁の視察に来た刑事が居るから、一応紹介しておこうと思ってな。」


カチョー「ニューヨークから?」


コウ「この人ですよ。」


カチョー「なになに、『サムライポリス』の全て。『サムライショータイム』に密着?」


ミル「今、全米で知らない人は居ないわ。

私の知りあいにニューヨークの刑事が居るんだけど、「どえらいルーキーが出てきよった!」って驚いていたのよ。

『サムライポリス』って呼ばれていて、彼が現場に現れると、『サムライショータイム』の始まりだ~!って大盛り上がり。」


マイ「人気だけじゃないのよ。実力も優れていて、検挙率は市警で1番なんだって。しかも、今回日本に来た理由は『お嫁さんを探して連れて帰るって』ウワサなの。」



本部長「さ、翔太君、入りなさい。」


翔太「失礼します。村井翔太です。」


マイ「あら、本物の方がイケメン!」


特子「ほほう。なかなか。ん?…」


翔太「よ!と~ちゃん、久しぶり。」


全員「と~ちゃん?…」


特子「え?!もしかして『し~ちゃん』?」


全員「し~ちゃん?」


カチョー「え?お前たち知り合いなのか?」


特子「知り合いもなにも、実家が隣同士で、幼稚園から一緒だったんですよ。でも中学の時、し~ちゃんのお父さんがアメリカに転勤で、家族全員がアメリカに引っ越しをしたのよね~。」


翔太「懐かしいな。と~ちゃんも元気そうで、ずいぶん綺麗になったね。」


特子「し~ちゃんこそ、カッコよくなっちゃって、アメリカでもモテモテなんじゃない?

し~ちゃんて、子供の頃から女子に人気があったもんね~。」


翔太「そんなことないよ。彼女も居ないし、まだ独身なんだ。

それにしても、と~ちゃん夢が叶ったんだね。」


カチョー「特子の夢?」


翔太「と~ちゃん、昔から刑事に憧れていたんですよ。よく『刑事ごっこ』に付き合わされていました。」


特子「ま…ま~ね。け、刑事ごっこだけじゃないでしょ。ちゃんと『おままごと』や『お医者さんごっこ』もしたんですよ。あ!『夫婦ごっこ』もしたよね。」


翔太「ちょ、ちょっと、と~ちゃん…恥ずかしいだろ…」


特子「なにを恥ずかしがってんのよ。よく一緒にお風呂も入ったし、体の洗いっこもした仲じゃない。」


翔太「よ、幼稚園の時の話だろ!そ、それよりさ、今日の夜は時間ある?」


特子「今日の夜?ちょっと待ってね、スケジュールを確認するから。」


カチョー「ね~だろ!」


コウ「真っ白ですよね?」


マイ「ないない」


ミル「わざわざ見なくても…」


ジミー「フフフ…」


特子「まあ、やりくりすれば時間を作れないこともないけど、どうかしたの?」


翔太「あ…あのさ…」


警報器「ビービービー…」


アナウンス「緊急連絡!緊急連絡!通り魔事件発生!通り魔事件発生!犯人は拳銃を所持してるもよう!至急現場に急行せよ!」


翔太「と~ちゃん!ごめん!俺、行かないと!

この事件が解決したら、大切な話がある。」


ミル「あ~、そういうことは現場に行く前に言わない方が…」


特子「あ!し~ちゃん!カチョー!私たちは?!」


カチョー「要請があるまで待機!」



30分後…


プルルルプルルル…


マイ「はい!特別課捜査班!は、はい。はい。犯人確保!!!

え!?なんですって!!翔太君が撃たれた?!」


特子「え!!!?」


「ガチャ!」


カチョー「あ!特子!ま、待て!」


「ガチャ!」


コウ「あ!帰って来た…」


マイ「はい、はい。かすり傷…命に別状無しですね。わかりました。

特ちゃん、翔太君は大丈夫よ。警察病院に居るって。」


特子「行ってきます!」


「ガチャ!」


マイ「ね~、ミルさん。翔太君の特ちゃんに話って、やっぱりアレよね?」


ミル「アレでしょうね~。」


カチョー「アレってなんの事だ?」


コウ「僕でもわかりますよ。プロポーズですよね?」


カチョー「プロポーズ!?」


ミル「あら?なんかカチョー、寂しそう。」


カチョー「な!なに言ってんだ!ニューヨーク1のデカのお嫁さんだぞ。いいじゃないか!」


マイ「でも、特ちゃんがアメリカに行っちゃうと、ちょっと寂しくなるわね…」


カチョー「ああ…まあな…」



翔太の病室


「ガチャ!」


特子「し~ちゃん!大丈夫!?」


翔太「あ!と~ちゃん!来てくれたんだ。大丈夫、ちょっとかすっただけだから。」


特子「も~!と~ちゃんたら、子供の頃からムチャばかりするんだから~。ポカポカポカ…」


翔太「アハハ、痛い痛いって…」


「ギュッ…」


特子「え!?し…し~ちゃん?」


翔太「と~ちゃん…俺、と~ちゃんに話があるって言ったよね?」


特子「う…うん…」


翔太「実はさ、今回日本に来たのは『と~ちゃん』に会うためなんだ。」


特子「私に?」


翔太「あ…あのさ…こ…子供の頃の続きをさ…こ、今度は本気でやらないか?ア…アメリカで…」


特子「し~ちゃん…、それって、私とままごとの続きをしたいって事?しかも本気で…夫婦ごっこやお医者さんごっこも?」


翔太「ま…まあ、そんなところ…」


特子「キモ!!」


翔太「え?…」


特子「無いわ~!三十路手前で『ままごと』は無いわ~!」


翔太「い、いや…違…ままごと…」


特子「ごめん…し~ちゃん…私、ままごとに付き合うほど暇じゃないんだ。 おっと、これから予定があるんだった。帰るね、し~ちゃん。お大事に。」


「ガチャ…」


翔太「そっか、と~ちゃんも好きなヤツが居るのか…わざと僕に嫌われるように憎まれ口を叩いてまで…

と~ちゃん、そいつと幸せになれよ…」



数日後…


マイ「カチョー、翔太君帰っちゃいましたね。」


カチョー「ああ、特子のヤツ、プロポーズを断ったんだろ?」


ミル「本人はプロポーズと思ってないみたいだったけどね。

なんで男の人って、遠回しに言いたがるのかしら。」


マイ「ね~、ストレートが1番ハートに突き刺さるのにね~。」


コウ「マイさんも男でしょ…」


ミル「カチョーは、なんだか嬉しそうだけどね。」


カチョー「ば、バカ言え…」


マイ「娘の嫁入りが無くなったお父さんの気分かしら?」


カチョー「そ、そんなんじゃね~よ…」


コウ「じゃあ、どんな?」


カチョー「あそこにある資料を見てみろ、まだあんなに未解決事件があるんだぞ。特子が居ないと…」


「ガチャ!」


特子「オッハヨウゴッザイマッス~!今日も1日……って、あれ?カチョー!どうしたんですか?なんで泣いてるんですか?カチョー?カチョーってば~!」



おしまい





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