その5


 お正月も過ぎた一月の半ばのある日、現在螺鈿は部屋の隅で膝を抱えて後悔していた。せっかく綾巴から年賀状が来たのに、出していなかった上、返していなかったからだ。


 恥ずかしさ故に「後で書く」「また今度」などと言っている間に年賀状の期間が過ぎ去ってしまったのだ。


 これをどうしようかと、必死に考えた。来年出すとして、果たして綾巴は来年も出してくれるのか。今年中に綾巴に手紙を出す口実はないのか。そして、気づいた。


「暑中見舞い」がある


 スマホやタブレットを持っていなかった螺鈿は母親に綾巴のことはそれとなくぼかして暑中見舞いの時期を聞くと


「暑中が7月20日ごろから8月7日ごろまでだからそんくらいに出したらいいんじゃない」


と、答えてくれた。しかし、なぜそんなことを聞いたかはお見通しだったらしく


「今家にある無骨な奴じゃなくってかわいいレターセットとか買ってきた方がいい?」


と、かなりいい笑顔で訊いてきたので、


「別にいい!」


と答えておいた。

 そして七月二十三日、綾巴の家に手紙が来た。


              ****

綾巴へ

暑中お見舞い申し上げます。

えーと、年賀状出せなくてゴメンナサイ。ちょっと忙殺されてました。

お互い中学生になってんだよな。部活は何に入った?僕は剣道部に入りました。といっても陸上は転入先の小学校でやったからいいし、球技系はどうせ玉拾いだからってどんどん消去法で消していって残ったのが剣道だっただけだけどね。それでも入ったからには頑張るしついこないだ竹刀が届いて防具ももうすぐ届くそうです。めっちゃ楽しみ!

これからもお互い頑張っていきましょう。

ではこの辺で

                          螺鈿

              ****

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