最終話 あかりのキラキラハッピーライフ


 今でも友情が続いているあかりとまなみは、互いの生活を打ち明け合う。

 あかりは二つのアルバイト生活を、まなみは就活の情報を。

 このころ、まなみは就きたい職について考えが固まっていた。

 「え、ファイナンシャルプランナー? ……って何?」

 あかりの部屋にて、二人はアイスハーブティーを飲んでいた。

 まなみはおからクッキーを一枚頬張り、呑み込んでから答える。クッキーはあかりが焼いたものだ。

 「簡単に言うと、お金や家計のカウンセラーってやつかな。それにしてもこのクッキー、美味しいね」

 「そんなカウンセラー、居るの? なんか身近にいないから、想像できなくて胡散臭い」

 聞いたことのない職業を耳にして、あかりは憎まれ口を叩く。しかし親友が常に一歩先に進んでいることが寂しく思う。

 まなみと視線を合わせず、両腕を机上に畳んで顎を乗せる。

 「も~、そんな風に拗ねちゃって。あかりはちゃーんと前に進んでいるんだから、焦らないの」

 図星をつかれ、反論できない代わりにあかりはクッキーを盛った皿ごと両腕で囲む。顎を上げても、まなみとは目を合わせない。

 「まなみが怪しい仕事に就こうとしているなんて、嫌だ」

 「素直に心配だって言えばいいのに。怪しいとは思わないよ。ゆうき先生がインテリアの代わりにお金のことを教えてくれるって例えたら。そんなものだよ」

 あかりは目を瞑り、脳裏でまなみの言葉を具現化してみる。その隙にまなみはクッキーを三枚奪う。

 あかりの眉間にシワが刻まれると、まなみはフルーツ用のタッパーを鞄から取り出す。

 「あ、お父さん用にいただくからね」

 「ゆうきさんが、お金……お金……」

 まなみの声が届かない。あかりは悪夢にうなされているように見える。

 「あかり? あかりぃ~?」

 肩を揺すられ、ようやく頭を起こし左右に振る。短い髪が針ネズミに見える。

 「うっわ~、いかにもあの人らしい。最悪だね、ファイ何とかって」

 「あかり、何の夢を見たの?」

 冷や汗をかいているあかりを、まなみは真面目に心配する。ポケットからハンカチを取り出し、額の雫が割れないように当てる。

 ようやくあかりはまなみと目を合わせる。

 「まなみ、悪いことは言わないから。ゆうきさんにならないで」

 唸り声にまなみは吹き出し、ハンカチを放ち両腕で腹を抱える。

 「ははははははっ! あかりってばおかしい~! ゆうき先生はファイナンシャルプランナーじゃなくて、インテリアアドバイザーじゃないの。それにあかりだってインテリアのバイトをしているんでしょ? そっちがゆうき先生への憧れが強いじゃん」

 「はぁ~? まなみこそ、頭大丈夫? 私がゆうきさんに憧れているなんて、絶対にあり得ないんだから!」

 「はいはい」

 まなみがタッパーを鞄にしまうと、皿の上のクッキーは三分の一にまで減った。あかりとまなみ、そしてまなみの父と三人で分け合ったことになる。一応だが。

 「私ね、就職さえすれば将来が安泰すると思っていたし、父も祖父もそう言っていた。でも本当は就職してからが本当のスタートなんだよね」

 「まにゃい?」

 あかりは両頬を外側に引っ張られ、親友の名前を正しい発音で呼ぶことができない。

 「社会人になってから、いろんな壁で苦しむ人がいるんだよね。父みたいに。私、そういう人のために役立つことをしたいの。就職はそのためのキャリアを積むツールってところかな」

 「ひょひょひょ?」

 まなみはあかりの両頬を引いたり押したりを繰り返し、あかりの反論を防ぐ。

 「あかりだってそうでしょう? 来月からバイトはインテリアショップ一本にするって言ったじゃん。そしたら何? 彼氏ができたって?」

 摩擦と羞恥で赤面したあかりを茶化すように、冷えたグラスをあかりの両頬に当てるまなみだった。

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