第4話あかり、偽キラキラ女子断定!
「――そう、他人である私にこの写メを見せるの、相当勇気が要りましたね。ありがとう、まなみさん」
眉間に皺ひとつ寄せないゆうきが手を重ねると、まなみはスマホを握ったまま震える。
あかりの前では気丈に振舞っていたが、まなみはあかりの予想を天まで上回るほど悩んでいた。
本当はスッキリしているだけでなく、部屋も自身もオシャレにしたいのだ。
簡単に弱音を吐けないまなみのためにと、あかりは重なった手を圧し潰さないよう、顔を近づけた。
「ゆうきさん……いや、ゆうき先生。まなみはすごくいい子なんです。どうかまなみの部屋をキラキラ女子の部屋にしてください!」
「あら」
ゆうきの手はぬくもりから離れ、腰をのけ反る。
「えっと、あかりさん……だったかしら?」
ゆうきはあかりの目と全身を交互に見た。ここで初めて、ゆうきは眉間に皺を寄せる。
「キラキラ女子……ねぇ」
「あの、先生。まなみを」
予想していなかった行動が二十秒ほど続き、あかりは苛立ちを露わにする。
「あら、ごめんなさい。悪気はないの。もちろん、まなみさんのお世話をさせてもらいます」
眉間の皺は一本残らず消える。細めの目は糸のようにさらに細くなり、涙袋のあるあかりには誰を見ているのか分からなくなる。
「でもねぇ」
「問題は何ですか? 料金ですか? だったら私が……」
「やめて、あかり。自分の分は自分で出すから」
ゆうきの肩を掴むあかりを、まなみが腰に腕を回して制止しようとする。
両肩に圧迫を感じても、ゆうきは小首をかしげ、右頬に手を添える。
「あなたたちの後ろに列がないからと言って、二人で盛り上がらないで。料金のことは問題ないわ。生徒からはお金をいただかないから」
ゆうきは背後を指さす。今回の収入は大学から入ることを、あかりとまなみは察知する。それをあえて口頭にて確認しない。
「だったら何が問題ですか?」
「問題よ。それもかなり深刻な、ね」
ゆうきは両肩に貼り付いた手を一枚ずつ破れないように剥す。
あかりの気迫に動じていない証拠だ。
「あのね、二人とも、よく聞いて。まなみさんはすぐにでも汚部屋を改善できるわ。そうね、学業との両立を考えると、一か月ほどお時間をいただければ」
「本当ですか? 先生」
今度はまなみがあかりの手を強引に剥ぎ取り、ゆうきの右手を握りしめる。
「あなた次第だけどね」
「もちろんです! 一か月でも三か月でも頑張ります!」
あかりは茫然とする。大学で出会って以来、まなみの熱意のある姿を見たことがなかった。
何にしても白黒はっきりしていて、汚部屋が何に対しても執着しない証と思い込んでいた。
そんな彼女が、部屋をキレイにすることで何をしたいのか、見当もつかない。
一人蚊帳の外に出されたことなど微々たるショックにすらならなかった。
「――はい、ではまなみさんのお約束のお時間をいただきますね。次は、あかりさん」
「は? 私?」
「え? あかり?」
瞼を見開いた二人に向けて、ゆうきは無言でうなずく。
「私は頼んでいませんが?」
「だからこそ、大問題なんですよ」
あかりとまなみは同時に小首をかしげる。
気の合う友人らしい、一秒も時差のないタイミングだった。
「せっかくの機会だから言うけど、自覚ないでしょう? あかりさんが偽キラキラ女子だということを」
「は? 私が? どういうことですか、ゆうきさん」
あかりは机を割る勢いで、両手で音を鳴らす。
「そうですよ、先生。あかりは大学ではすごくモテモテなんですよ。男子の視線を独り占めするくらい」
「……若いわねぇ~」
あかりの両手を温風で机から引き剥そうと、ゆうきは深いため息をつく。それでもあかりの両手は机から離れない。
「あのね、真のキラキラ女子っていうのは、異性はまったく関係ないの。つまり、独り身でも十分キラキラしている女子はたくさんいるってこと。私くらいの
異性、というワードに身が小刻みに震える。あかりは自宅に居座っているカイトを思い出した。今頃はハローワークに行くという名目でパチンコをしているか、家でテレビを見ながら煙草を吸っているだろう彼を。
「もう、御託はなしで、あなたも偽キラキラ女子度のチェックを受けてもらいましょう。それでチェック項目が半分以上あれば、あなたも私がお世話します。もちろん、まなみさんもチェックしてみてね。それをもとに、お約束の日にカウンセリングを受けてもらいます」
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