ホワイトアッシュの涙

 凛子はドキドキしながら、教会の扉を開こうとしていた。

 開いた先に、サナがいますようにと祈っていた。

 その時、庭から言い争う声が聞こえた。

 サナの声に聞こえた。

 反射的に足がそちらに向かった直後。

「こっち来ないでよ!」

 今度はさっきよりハッキリ聞こえた。

 凛子は走る速度を上げた。必死だった。


 庭には、植木が二列まっすぐきれいに並んで植えられており、その間に石畳の道があった。

 途中途中に、宗教施設らしく、聖書の教えのようなものが書かれたレリーフがあったりしたが、今、凛子はそれらを見ている余裕はなかった。


 庭の中央あたりに来た時、木の陰から、ホワイトアッシュの頭が飛び出して来た。


「わっ!」

「きゃあっ!」


 二人はぶつかって転んだ。

 凛子は自分を押し倒したホワイトアッシュの女子の顔を見て、目を見開いた。

「さ、サナ!」

「え……ウソ……凛子?」


 間違いなくサナだ。

 ずっと会いたかった。

 声も出ないほど、息も止まりそうなほど、嬉しい気持ちやサナを心配する気持ち、そしてやはりウザがれないかという不安が、凛子の中でめまぐるしく渦巻いた。


「凛子!」


 凛子が言葉を取り戻すより早く、サナが思い切り抱きついてきた。

 驚く凛子をよそに、サナは尻餅をついた凛子の首にぎゅーっと抱きついて、大声で泣き出した。

 わあわあと、まるで幼い子供みたいに。

 気づけば凛子もサナを抱き締めていた。

 凛子の目にも涙がにじむ。


 そこに、ポツンと冷たい雫が落ちて来た。

 凛子に頭にひとつ。

 サナの頭にふたつ。

 植木に、芝生に、神様のレリーフに。

 教会の屋根の上にも。

 雫はあっという間に、シャワーになり、土砂降りの大雨になった。


 二人は初めて会った時のような大雨の下、抱き合ったまま、わあわあ泣いた。


 凛子は雨が嫌いだ。

 傘もうまくさせない。

 なら、傘なんて、もうイラナイや。

 サナがいるから、もういいや。

 サナと一緒なら、どんな雨に濡れたって平気だもの。



 サナの後ろから、サナの父が駆けてきて、困り果てて立ち尽くした。

 凛子の後ろからは、一つの傘で寄り添うようにしている心菜、萌花、志穂と、傘をさした結人が立っていた。

 ざあざあと降り注ぐ雨が、少しばかりおさまってきたところで、二人の泣き声も、すすり泣きになった。

 そこへ、教会から年配のシスターが傘を持って歩いて来た。

「まあ、大変。さあ皆さん、中へどうぞ」

 そう声をかけてくれたのは、凛子の祖母の初七日に訪れた祖母の友人のシスターだった。

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