満身創痍の少女

 再婚とか、勝手にすればいいと思うんだけど。アタシを巻き込まないでほしい。


 義理の弟できるのか。

 その子も、アタシみたいな姉じゃ、メーワクだろうな。


 アタシはアタシで生活してるのに、納得いかない


 ツライ。苦しい。意味わかんない。

 どうでもいいやって思えない自分がイヤ。

 壊れない自分がイヤ。


 たすけてたすけて


 とりあえず、お母さんの思い出の場所巡り、してみることにした。


 ステキな友達ができた!

 お母さんが引き合わせてくれたのかな。


 チョーカワイイ! 妹がいたら、こんな感じかな?


 もっと一緒に遊びたいのに、すぐ電車時間。凹む。


 あのコがいるんだったら、こっちに引っ越してきてもいいかなって思っちゃう。


 動物園、お母さんと来たときの写真があって。でもアタシは覚えてなかったから。ずっと来たかったんだ!


 クッキー作ってくれた! 嬉しい!



「サナさん、リンちゃんと出会ったあたりから、投稿の内容、ポジティブになってるね」


 教会の近くまで行けるバスの中で揺られながら、志穂が言った。

 凛子はようやく泣き止んだものの、サナのSNSをずっと読んでいた。

 一人がけの椅子に座る凛子を、守るように真横に立った萌花が、心配そうにその様子を見つめている。

「でも、教会行った後、どうすんの? ずっとその教会にいりゃいいんだろうけどさ」

 凛子の前の席で、心菜が不安そうにそう言って、窓の外の曇り空を見上げた。

「教会にずっといるってできるのかな?」

 志穂も心配そうに呟いた。

「とにかく手がかりが何か見つかりそうじゃん、行くっきゃないっしょ!」

 萌花の声もいつもより少し歯切れが悪い。

 ふと、振動とともに凛子のスマホの画面に、LIOからの新着メッセージが届いた。

『例の教会ですが、その教会のスタッフによるブログのようなものを見つけました。教会を利用する人々に対するお知らせや、日々の日記のようなものがアップされていて、ホームページから行けました』

 続いてそのホームページのURLが送られてきた。

『最新の更新がおとといの日曜日なんですが、そこに、われわれの迷える客人にも、主のお導きがありますように、という記述がありました。この客人というのは、サナさんのことかもしれません。なんらかの事情で、サナさんがここに保護されている可能性があります』

「LIOすげーな」

 心菜が感心を通り越してもはや呆れたような口調で言った。

「今更だけど、LIOさん、何者なんだろうね」

 志穂が小首を傾げて言う。つられて首を傾げた萌花が「うーん」と言って腕を組んだ。

「LIO、年齢、性別、現在地とか、何もプロフに書いてないのな。謎は多いけど、かなりインターネットとかに詳しいってのは確かよ。しゅくる好きだし」

「あっそう、そうなんだ。いいヤツじゃん」

 心菜があっさり行った。志穂が苦笑いを浮かべる。

「いやココちゃん。テキトーじゃん」

「テキトーじゃないよ! モカに教えてもらったんだってしゅくる! もうサイコーよ。しゅくる好きなヤツに悪いヤツいないって、多分」

 どうやら心菜もしゅくるを聞いたらしい。以前自分が話した時は聞いてくれなかったのに……という思いが凛子の胸に僅かにわいてきたが、それよりもサナへの想いが勝ってしまったので、ひとまず不問とした。

「あ、次だ次」

 萌花が車内アナウンスを聞いて、慌てて停車ボタンを押した。

 ハッとして凛子が外を見ると、田んぼと山と、大きな建物が見えた。温泉旅館だ。


「あ! 温泉だー! 帰りみんなではいりたーい!」

「お風呂グッズ持ってないよ〜」

 心菜と志穂がそんなことを話していると、温泉宿を通り過ぎて、いよいよ山と田んぼ以外ほとんど何もないような辺りでバスは止まった。

「えっここ? 何もなくない?」

 心菜がそう言って辺りを見渡すと、少し先に、教会の名前と矢印が書かれた小さな看板が見えた。

 矢印が指す方角は、大きな道路から脇にそれた横道で、目がくらむほどの急勾配の坂道だった。

「うげっ……嘘でしょ」

「ほら、こっから歩くよ!」

 弱音を吐いた心菜の背を押して、萌花が歩き出した。


 一歩進むごとに、どんどん足が重たくなるような坂道は、両脇から木々が枝を繁らせ、蔦がぶら下がり、舗装は一応されてはいるものの、鬱蒼とした山道のようにしか感じられなかった。

 今にも雨粒が落ちてきそうな空の下では、薄気味悪くさえあった。

 疲れたのなんのとわめく心菜を、萌花が両手をひいて、志穂が背中を押して登る。

 カーブした先が、ようやく坂道の終わりだった。

 出た場所は山の中ではなく、平らに慣らされた丘の上のようで、綺麗に開けていた。一面の田んぼと畑の向こうに、目指す教会はあった。


 立派な木製の門をくぐると、駐車場があって、その先に教会の建物があった。向かって右側には綺麗に整備された庭があった。駐車場には、一台だけ、黒い乗用車が停まっていた。

 教会の建屋は和風のデザインで、凛子が抱いている教会のイメージとは違っていた。どちらかと言ったら、集会所や公民館のように見えたが、思っていたよりも新しくて綺麗だった。


「ここにサナさん……いるのかな」

 志穂が小さな声で言った時、LANE の通話の着信音が鳴った。萌花のスマホだった。

「え? ウソ……LIOだ!」

 萌花がおどろいて声を上げる。

「えっ通話?」

「通話NGじゃなかったっけ?」

 心菜と志穂も、慌てて萌花のスマホの画面覗きこんだ。

 画面には、LIOからのビデオ通話の着信を伝える通知が出ている。

「出るよ」

 萌花が緊張した声でいうと、三人とも同じように緊張して頷いた。

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