決意の夜と波乱の朝2
混乱と恐怖で思考が停止する凛子の耳に、結人の声が聞こえた。
「ちょっと、待ってください!」
「ほっ、星宮くん!」
男の背中から不安げな顔を出した結人は、凛子の怯えた顔を見るなり険しい顔つきになって頭を下げた。
「ごめん、月沢さん!」
「もしかして、サナさんのお父さん……?」
志穂が凛子の背中にそっと触れながら言うと、結人と男が頷いた。
「そう、佐南の父です。突然申し訳ない。結人くんから話を聞いて、いてもたってもいられなくなってしまって……」
サナの父親は、慌てて凛子の肩から手を離してそう言った。
凛子がほっと溜息をつくと、結人も少しだけ安心したような顔をした。
「ええと、どうしよう?」
志穂が凛子の手をしっかり掴んでからそう言った時、校舎から凛子たちの担任教師が出てきた。
「お前たち、どうした? あなたは、どちら様ですか?」
「結人がお世話になっております。星宮です」
サナの父は担任に向かって早口でそう言うと、頭を下げた。サナの父よりずっと若い担任は、うろたえながら「はあ、どうもお世話になっております」などと言いながら頭を下げた。
その脇を小走りで駆け抜けて、結人が凛子と志穂の方へやってきた。
「ごめん、あの人に月沢さんたちのこと話しちゃって。そしたら、どうしても月沢さんと話がしたいって、無理矢理着いてきちゃったんだ」
結人はまた泣き出しそうな顔になった。
「ううん、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけ」
「星宮くんも大変だね」
三人でこそこそと話していると、担任がこちらを振り向いて凛子を呼んだ。
「月沢。話はだいたい聞いたから。会議室で少し、星宮のお父さんと話してきなさい。ホームルームに遅れても大丈夫だからな。行けたらすぐ俺も行くから」
担任教師の指示ならば従うより他ない。
凛子は「はい」と答えて歩き出したが、志穂は凛子の手を離さなかった。
「先せ……」
「俺も行きます」
志穂の異議を、結人の声が遮った。
凛子と志穂は、目を見開いて結人を見た。
「俺も、行きます。ウチの、問題なので」
きつく眉間にしわを寄せて、両手を強く握っている結人は、さっきまでの不安で泣きそうな姿とは、少し変わって見えた。
少しだけ、頼れそうに見えた。
「わ、私も、星宮くんにいてほしいです」
凛子も、結人を応援しようと勇気を振り絞って言った。
志穂が両目をさらにまん丸に見開いた後、凛子の手を離して、自分の真っ赤に染まった頬を両手でおさえた。
あ、また、何か勘違いしていない? と思った凛子が慌てて弁解しようとしたが、担任が「よし!」と大声で言ったので、タイミングを逃してしまった。
「そうだな! わかった。じゃあ三人で会議室に行ってくれ。俺は職員室へ行って、他の先生たちにいろいろ話してから行くからな!」
そう言い残して、担任は慌ただしく駆け出して行った。
「月沢さん、ありがとう」
結人が凛子の隣に立って、小さな声で言った。
「ううん、こちらこそ」
凛子は我知らず微笑んでいた。
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