新しい朝

 翌朝。志穂と揃って登校した凛子は、教室のドアを開けて驚いた。


「オッハヨー!」

 元気よく声をかけてきた心菜の横。

「オハヨ」

 照れ臭そうに笑ったのは、萌花だった。

「モカ!」

「モカちゃん!」

 凛子と志穂が声を上げると、萌花は気まずそうに鼻をかいた。

「何スか何スか! アタイもいるんすけどー!」

 おどけた声でそう言いながら、心菜が萌花と二人の間に割り込んだ。

「知ってる知ってる」

 志穂があっさりあしらうので、凛子は思わず笑ってしまった。

「モカちゃん、良かった! 大丈夫そう?」

 志穂が微笑んでそう言った。凛子も横で大きく頷く。

「うーん、まぁ、何とか……。授業出る自信はねえけど」

 そう言って、それとなく周囲を気にかけた萌花の視線につられた凛子の視界に、クラスメイトたちが遠巻きにこちらを見ている姿が映った。そのたくさんの目は、奇異のものを値踏みしているように見えた。

 凛子の表情が我知らず不快に歪む。

「ねえねえ、ちょっと聞いて聞いて!」

 心菜が嬉しそうな声で言いながら、凛子の肩をぽんぽんと叩くので、凛子はハッとして振り向いた。

 昨日、心菜と萌花があの後、まっすぐ駅には行かず、ファストフード店で盛り上がって、二人で音楽配信用のアカウントを作成したことを報告された。

 凛子が「おめでとう」と言おうとした時、予鈴が鳴った。

 萌花はハッとして、凛子たちに「ゴメン」と言って鞄を持って駆け出した。

 心菜が立ち上がってドアまで付き添い「あとでねー!」とのんきに見送った。

 きっと萌花は保健室か図書室に行くのだろう。

 心菜が萌花を見送り終えて振り向くと、教室中のクラスメイトが心菜の方を見ていた。

 心菜は何とも芝居がかった大きな動作で自分の身体を両腕で抱きしめると「ええーーーーっ」と、これまた嘘くさいぐらい派手な悲鳴を上げた。

「何でみんなこっち見てンのー?怖いんですけどーー!!」

「いや全然怖がってないでしょ」

 志穂がまたしてもあっさりあしらうので、凛子はまた笑ってしまった。

 心菜はおどけた態度とは裏腹に、冷たい目で教室を見回した。クラスメイトたちは、心菜の軽蔑したような目に見つめられて、皆、気まずそうに視線をそらした。

 そうこうしているうちに本鈴が鳴り、みんなそれぞれ自分の席に着いていく。

 慌ただしい雰囲気のなか、凛子は星宮結人と目が合った。

 星宮結人は動揺したように目を泳がせて、結局前を向いて座った。そしてそのままうつむいてしまった。

 凛子は何となく気になった。単に恥ずかしいだけで目をそらしたという感じではなかった。心菜が怖かったのだろうか。

 教師がやってきたので、追求することもできず、凛子も前を向き姿勢を正した。

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