ふわふわの中身 2
志穂は、笑う凛子を見て嬉しそうな顔になったあと、また心菜の真似をした。
「でね『今度は志穂の番!』って携帯渡されて。私、すっごくドキドキしたけど、今までそのコに言えなかったこと、全部言ったの。どうしてバラしたの。なんで毎日毎日画像送ってくるの。苦しかった、辛かった、もう顔も見たくない! って。で、ココちゃんがブツッて電話を切って、即ブロック。着信もメールもSNSもぜーんぶ拒否!」
志穂はそこまで言って、スーッと息を吸い込んで、大きな声で「スッキリした!」と言った。
「本当にビックリするくらいスッキリした。もうあのコ達と関わらなくていいんだって思ったら、心がすーっと軽くなって。ココちゃんに我慢はよくないって言われて、ホントだねって、二人ですごい笑ったの」
そう話す志穂の顔は本当にすっきりしていて、凛子は安心した。だが、志穂がそんなに悩んでいたことに全く気付かなかった自分を、情けなく思った。
「そうだったんだ。なんか、全然気付かなくて、私……」
「ううん! 話さなくてごめんね! 私ったら、あのコがストレスの元だってことも、自分が悩んでるってことさえも気付いてなくて、気付くと同時に解決しちゃったもんだから、あとはパーッと忘れちゃって」
志穂が気まずそうに言うので、凛子はブンブンと大きく顔を横に振った。
「ううん! 話してくれてありがとう。私の方こそ、志穂が悩んでるの、気付けなくてごめん」
凛子が謝ると「そんなことない」と志穂が言った。凛子の目の前にまっすぐ向き合って立つと、凛子の手を握った。
「私、あれから我慢したり無理したり、周りのこと気にしすぎるの、やめようって決めたんだ。そしたら随分、生きるのが楽になったの。私ね、リンちゃん見てると、中学の頃の私を思い出すの」
凛子はドキリとした。
周りを気にして、人目を気にして、嫌われることに怯えて、呼吸することすら苦しい時がある――それを、志穂に見抜かれていた。凛子の胸を、頭を、いろんな心情がぐるぐる渦巻いて、言葉が出てこなくなった。
今、自分はいったいどんな顔をしているのだろう。
「だからね、リンちゃん。リンちゃんももっと、自分のコト、一番に大切にしていいんだよ。自分のキモチを一番優先したっていいんだよ! 皆、少なくとも、今日集まった皆は、そっちの方がいいって思ってるよ! 絶対!」
「う……うん」
「すぐには変われないと思う。でも絶対、今より楽になるよ。だから、そのサナさんにも、どうして連絡くれないのって言ったっていいんだよ! もっともっと強く出ていいんだよ!」
凛子の手を両手で握りしめて、一生懸命に訴える志穂の目を見て、凛子はうろたえた。
自分を一番に考えていい?
今だって凛子は自分がカワイイのだ。
自分がカワイイから、弱いから、傷つきたくないから、だから人に嫌われたくないのだ。
自分の心を一番守っているから、勇気を出して気持ちを伝えられないのだ。
きっと笑顔で「うん、頑張る!ありがとう!」と返すのが正解なのだろうけれど、凛子はそれが出来なかった。
言葉に詰まっていると、志穂はパッと凛子の手を放した。
「ごめんね、急に変なこと言い出して。けど、本当に、無理しないでほしいんだ。じゃあ、またね。あとで、LANEするね」
そう早口で言うと、志穂は笑顔で手を振り、曲がり角へ向かっていった。
「う、うん、ありがと。バイバイ!」
凛子が慌てて手を振り返すと、志穂はにっこり笑ってくれた。
いつの間にか、志穂と別れる角まで来ていたことに、凛子はようやく気付いた。
ドキドキがおさまらない胸を片手でおさえて、凛子は恐る恐る歩きだした。
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