第24話 プールで特訓! (前)

「今日はプールで特訓よ!」


 浮き輪をつけたロリっ子ゆたか先生がボクたちにそう告げた。

 

「夏を前に! 今年こそ……今年こそ! 泳げるようになるのよ!」


 なんていきなりなんだろう。

 ボク達3人はあっけにとられて先生を見つめる。


「というか、先生泳げなかったんですか? あんなに運動神経いいのに」


 ボクの質問にほっぺを真っ赤に染めて、コクンと頷く。

 先生可愛いです。

 思わず抱きしめたくなる衝動をボクは抑える。

 

「でも……先生、学校の授業はどうするんですか?」


 ゆきちゃんが質問する。

 その質問は当然だ。

 今日は平日で、今は始業前だ。 

 昨日の夜の電話で「水着を持参して朝一で理科実験室に集合するように」と先生からの連絡に応えて、ボク達4人は今ここにいる。

 まさか先生が授業をさぼって、泳ぎに生徒を誘うわけはないとは思うけども。


「魔法少女特権よ!」


 先生は親指を突き出して笑顔で答えた。

 いいのかそれで!?


「それじゃ各自車にレッツゴー!」


 意気揚々と出かけようとする先生に、ボクはちょっと待ってと言葉を投げる。


「え? 学校のプールじゃないんですか? それにボク持ってきたのスクール水着なんですけど。というかこれしか見つからなくて」


 先生は手持ちのバッグをボクに見せながら答える。


「近場の温水プールに行くぞ! それに、わたしはちゃんとビキニ水着持ってきたからな! 子供用じゃないぞ! 大人用の特注品だぞ!」


 先生は「ほれ、見たいか?」とバッグを少しだけ開け、チラチラとボクに向けて見せびらかす。


「後で着た先生をじっくり観察させてもらいます」


 ボクの言葉に「ちぇっ、つまんないの」と口を尖らせながらバッグをしまう。

 こうしてボク達は学校を後にした。


 いつも通りゆっくり運転で移動すること1時間。

 ボクたちは温水プール「ウォーターランド ブルーアクア」に到着した。

 このウォーターランド ブルーアクアは、ウォータースライダーやサウナや温泉、岩盤浴にジャグジー、流れるプール、波のプールなど数々の施設がある国内最大級のアミューズメント施設だ。

 値段は一人1000円。かなりのお手軽価格だ。

 

 ボク達は中に入ると、さっそく着替え室に向かった。

 当然ながら女子更衣室なわけだが、やはり元男のボクとしては、女子更衣室に入るのは躊躇われてしまう。

 かといって、ボクだけ男子更衣室で着替えるわけも行かない。

 男子更衣室に一人で着替える女の子がどうなるか想像しただけでも恐ろしい。

 ぶるぶると頭を振って、よし! と覚悟を決めて女子更衣室の中へと入った。 


 平日ということもあり、更衣室には人がほとんどいなかった。

 ボクがみんなのいる場所につくと、他の3人はちょうど着替えをしている最中だった。

 女の子になったとはいえ、やはりまだ女の子の着替えには抵抗がある。

 直視できずにボクはみんなが見えないように反対を向いて着替え始めた。


「そろそろ慣れてくれないと、こっちも気にしてしまうよ」


 と、ボクの後ろから先生が話しかけてくる。


「そ、そんなの慣れるわけないじゃないですか! 先生はボクに裸みられても構わないんですか!?」

「そういうことじゃなくてだなぁ……そうやって毎回身構えられると、こっちも意識しちゃうんだよ。あゆみはもう女の子なんだから、普通にしてて欲しいな」


 そ、そうだよね。ボクは女の子なんだし、普通に着替えるのは普通だよね。うん。毎回魔法少女になる時だって着替えているんだし。

 そろそろボクも覚悟しないといけないよね。うん。決して嫌らしい目でなんか見ないよ。うんうん。

 

「そこまでいうなら……」


 ボクは自然を装いゆっくりと振り返る。そう、あくまで自然に。

 覚悟と期待を込めて振り返ったその先には、水着に着替え終えた3人がいた。


「は、早いですね」


 ガッカリなんかしてないよ。期待なんかこれっぽっちもしてないから。ほんとほんと。

 

「目が……嫌らしい」


 とボクをジト目で睨み付けるゆきちゃんは、ほっそりとした綺麗な足が眩しい青のセパレートの水着だ。

 小さなお尻を飾り付けるフリルが可愛らしい。


 ゆたか先生の水着は、赤の上下に胸元はフリルで覆い隠されている。

 なるほど。そうやって胸の小ささをカモフラージュするんですね、先生。勉強になります。


 ルミンさんは黒のハイレグ水着だ。何より目を引くのはやはりその豊かな胸。

 水着と素肌の間には、ボク達には見られない肉の盛り上がりが出来ている。

 もちろんお腹じゃない。おっぱいにだ。今にもこぼれ落ちそうなボリュームに息をのむ。

 ルミンさんを除くボク達3人の夢の塊だ。

 ルミンさんの動きにあわせて揺れるその2つの大きな夢の塊は、上下左右に揺さぶられ、そしてお互いにぶつかり合う。

 そしてその衝撃はお互いを跳ね除けさけ、支える布を乗り越え飛び出しそうだ。

 さあ、今こそ立ちふさがる壁を乗り越えて、夢へと飛び出せ!

 いけっ! いまだ! もういっかい!

 しかし、立ちふさがる壁は高く、しっかりとガードされていた。


 それにしても、やけにこのおっぱ……じゃなくってこの夢の塊は揺れまくっているな……

 ふと夢の塊から目を上げると、ルミンさんの目とあってしまった。

 しかし目が合ってもなお、不自然に体を揺らし続けている。


「うらやま……しい?」


 何を考えているのかわからない無表情のルミンさん。

 うらやましいかって?

 そりゃ大きさ、肌の艶、柔らかさ、そしてのその弾力、どれをとっても最高級品だよ。

 貧乳にしか興味のないボクですら、思わず目を奪われてしまう。

 でも……


 ボクはじっと自分の胸を見つめ、手で胸を軽く持ち上げてみる。

 まずは上下に。そして左右に。そして円を描くように。


「…………」


 なんだろう。ついさっきまでおっぱいに感じていた感情がいっきに失われてきたのは何故だろう。

 嫉妬? 敗北感? あゆみちゃんへの哀れみ? いや……ボク自身への哀れみ……?

 そしてルミンさんに感じるこのジェラシーは何?

 いいじゃないか。ボクは貧乳が大好きなんだし。

 でもそれは男からの視点。今のボクは女の子……これはボクの体。

 自分の小さい胸に欲情するわけでもない。じゃあこの感情は一体なんだろう?


「ふん、やっと1歩前進ってとこかな」


 ゆたか先生はそうつぶやくと、そそくさとプールへと行ってしまった。

 もやもやした感情を抱きながら、ボクも急いで着替えを終えてプールへと向かっていった。

 

 プールへ出てみると、その広さに驚いた。まず目に入るのはウォータースライダーだ。建物の5階建てくらいはありそうな大きな滑り台。

 「きゃー」という歓喜の声を上げて滑る様子は心を弾ませる。


「うわぁ……ボクもやってみたいなぁ」


 そう思わず呟いたボクにゆきちゃんは楽しそうな声で答えてくれた。


「あゆみ! 一緒に滑ろ!」

「うん!」


 半分後ろを振り向き、手を差し伸べてくるゆきちゃん。

 ボクも手を前にだし、その手を取った。

 ボクを守ってくれるゆきちゃん、ボクを引っ張ってくれるゆきちゃん。

 ボクはどこまでも着いて行くよ。君の後ろを。

 こんな日がいつまでも続いてくれるといいなぁ。


 とボクの心をあざ笑うかのような高さ。下を見下ろすと人が米粒のようだ。

 心なしか揺れているかのような錯覚がする。


「ゆきちゃん……お願い……戻ろうよぉ……」


 ボクは登り途中の階段にて半泣き状態で座り込む。

 そんなボクの手をぐいぐい引っ張って階段を上ろうとするゆきちゃん。

 気のせいか、ボクを見てゆきちゃん鼻息荒くなってませんか?


「あゆみぃ~あなたここで私が手を離したら、階段から転げ落ちちゃうんじゃない? 一人で帰れるのぉ~?」


 ゆきちゃんのこんないじわるそうな顔初めて見たよ。


「お願い……一緒に降りてぇ!」


 ボクの足がガクガクしてる。こんな足じゃとてもじゃないけど一人で降りれない。

 そんなボクを見て、ゆきちゃんは何を思ったのかボクの手を繋いだまま後ろへと押してくる。


「きゃああ!!」


 ボクが悲鳴をあげると、ゆきちゃんはボクの手をひっぱり支えてくれた。

 でも完全に今のってボクを怖がらせるためだよね!

 とはいえ、今のボクにはそんなゆきちゃんに頼るしかない。   


「戻りたいなら、手を放してあげるよ? 一人で戻れば?」


 そういうと、ゆきちゃんはボクの手を離して階段を登り始めた。


「待ってぇ~!!」


 ボクはゆきちゃんに追いつき、背中にしがみついた。


「あっれぇ~? あゆみ戻りたかったんじゃなかったのぉ?」

「だってぇ……怖くて戻れないよぉ……」


 震えてしがみつくボクに向かってゆきちゃんは笑顔で微笑む。


「じゃあ一緒に登るしかないわね」


 二人はなんとか頂上まで辿り着くが、ボクは怖くて目をつむったままゆきちゃんにしがみついていた。


「はーい。次の方どうぞー」


 そしてついにボクたちの番がきた。

 ゆきちゃんはボクを後ろから抱きしめ、滑り台へとぐいぐい押し込んでくる。


「まってまってまってぇ!! 心の準備がまだなのぉ!!」


 まるで逃がさないというかのようにボクを強く抱きしめるゆきちゃん。


「あぁ……怯えるあゆみがこんなに可愛かったなんて。うふふ。さあ……二人で堕ちよ。どこまでも」


 ボクの耳元でささやくゆきちゃんの声はやけに艶っぽかった。

 そのまま前に押し出され、ついにボクの目の前に床が無くなった。

 そして、二人は一気に滑り落ちる。


「きゃああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


 ボクはゆきちゃんに力いっぱいしがみつく。 


「落ちちゃう! ボク……落ちちゃうぅぅぅぅ!」


 どぼーん!


 二人は滑り終え、プールの中へと投げ落とされた。


「ゆきちゃん! ゆきちゃ……ごぼっ……!」


 二人はばらばらで水中に落とされ、勢いで水底まで引き込まれてゆく。

 混乱して溺れるボクは、必死に手をばたつかせてもがいていた。


 溺れる……


 その瞬間、ゆきちゃんがボクを抱きかかえてひっぱりあげてくれた。


「ゆきひゃん……」


 ボクはお姫様抱っこでゆきちゃんに抱かれ、ゆきちゃんの首に手を回した。

 はぁはぁ、と呼吸を荒げているボクを見つめるゆきちゃん。

 すると、いきなりゆきちゃんはボクの顔を抱きかかえ、そのまま顔を近づけ……


「……っ!!」


 ドボンと二人はそのまま水中へ沈み込む。

 ゆきちゃんの口からボクの口へと空気が送られてくる。

 思わずごくりとその空気を飲み込んでしまう。

 そのままゆきちゃんの舌がボクの口の中へと入ってきて……

 ボクはそのまま動けず、ゆきちゃんと二人で水底へと沈んでゆく。

 ゆきちゃんの腕はボクの自由を奪い、そしてボクはその拘束に従う。

 次第に苦しさが和らぎ、意識がぼやけ気持ちがよくなってきた。


 ボク……このままゆきちゃんに抱かれながら……死んじゃうのかな……

 ゆきちゃんになら……それでもいいかも……


 意識がなくなる直前、ボクの体は引き上げられ、空気が体に入ってきた。

 はぁはぁと大きく息を吸い込みながら、ボクとゆきちゃんは目と目を合わせて抱き合っていた。


 ボクはプールサイドまで引っ張られて、プールから外へと出た。

 そのままうつ伏せに倒れ込むように寝転がった。


 むにゅ。


 ボクのお尻に何かが押し付けられた。

 顔を見上げると、ゆたか先生がボクのお尻を足で踏みつけていた。


「水着が食い込んでケツが丸見えだぞ、この変態が!」


 そういうと、先生は足で何度もボクのお尻を踏みつけてきた。


「やぁ! やめてぇ!」


 ボクは慌てて指で食い込んだ水着を元に戻した。


「まーったくお前たちは……少しは時と場所を考えろ! 公衆の面前でやることじゃないだろう!」


 そういうと、先生はルミンさんをひっぱってゆきちゃんの横に立たせた。


「お前たちは一緒にいると何しでかすかわからんからな! メンバーチェンジだ!」


 突如、赤色の可愛らしい水着が、ボクの視界を覆った。

 先生は寝そべるボクの頭のそばに座り込んで、手を差し出していた。


「今度は私に付き合え。あゆみ」

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