第30話あ、野生のチンピラが飛び出してきた!

テュルテュルテレテレ♪ピパポピパポ。



『あ、野生のチンピラが飛び出してきた。ピリオドはどうする?』



  ⇒たたかう         どうぐ


   奥の手          にげる



<俺のターン>


 五木がいる前でかっこ悪いことはできないよな。


 見た感じ、チンピラ3人衆は高校生。つまり、俺と同じくらいの年代。外見は左から順に、リーゼント、モヒカン、ハゲである。いかにも悪さをしてそうな見た目だ。体格はどちらかというと、貧相な感じ。野蛮なことをしてくる連中だ。どうせ筋トレなどしていないのだろう。


 一方、俺の身体はシックスパックで、この日のために欠かさず毎日筋トレをしていた。研ぎ澄まされた俺の肉体から放たれる武技をとくと見よ!



 ビシバシ!ドコーン!ガガッ!ヅカーン!ヤラレター



 っていう展開になれば良かったのになぁ。生憎筋トレなんか3日で飽きたわ。いやー、誰もが通る道だとは思うんだけどさ、筋トレって結構キツイんだよね。


 筋トレするとモテるみたいな記事呼んで、俺も筋トレしたらモテるんじゃね?、とか思ってまず筋トレグッズ買うじゃん。そんでそのグッズをうっとり眺めながら、明日以降の綿密なスケジュールたてる。これが1日目。


 翌日になって、スケジュールを見ると、ダンベル100回、腹筋100回とか書いてあるから、とりあえず実行しようとするんだよな。でも、意外とダンベル100回とか腹筋100回ってキツくてさ。最初から飛ばしすぎだったなぁって反省して、ダンベル10回、腹筋10回ぐらいに短縮しますと。それでも結構ハードだな、とか思いながらも頑張ってやるわけよ。


 そんでもって3日目。朝起きると腕とか腰に違和感を感じるんだ。もしかしてムキムキになっちゃった?とか期待して、自分の身体を鏡で見ると、昨日となんら変わらない身体があってさ。まあ1日じゃ変わらないかーってショックを受けつつも、逆転の発想で1日ぐらいなら休んでも変わらないよなって思う。はい、ここで1日筋トレサボります。


 翌日以降はお察し。


 ということで、俺には対人戦闘スキルなど皆無なのである。だからこそ、選んだ選択肢はこれ。



   たたかう        どうぐ


   奥の手       ⇒【にげる】



 『しかし、ピリオドは逃げられない』



 ホワッツ?!俺にこれ以外の選択肢を選べと?個人的には、チンピラに絡まれたら美少女の手をとって猛ダッシュってありなんだけど。神様はこの選択肢をお望みでないようだ。


 仕方ない。別の手を使うか。



   たたかう       ⇒【どうぐ】


   奥の手          にげる



 何かあったかな?そう思って、バックの中を探る。いいものがあった!これに魅力を感じない男などいない。



『ピリオドは、18禁同人誌~触手×百合の楽園~を繰りだした』



 どうよ?いくらチンピラでもこれに靡かない男なんていないよな?さて、チンピラ3人衆はどう出る?



<リーゼントのターン>


 チンピラの一人、リーゼントが強面で近づいてくる。あれ?効果がない?ヤバい、やつの射程圏内に入ってしまった。至急応援を頼む!管制部、至急応援を頼む!


 あたふたしている俺の肩に、リーゼントの右手がかかる。絶体絶命☆



「その…な?お前の趣味を否定するつもりはないんだけどよ…。女連れてる男が人前でこういう本を出さない方がいいと思うぜ?」


 真面目な表情になったリーゼントは、ゆっくりと首を左右に振る。更に、ご丁寧に同人誌を手にとって返却しようとする。



『リーゼントの「諭す」が炸裂だ!ピリオドは300ダメージを受けた』



 ぐはっ。地面に膝をつく俺。チンピラのくせにやるじゃないか。だが、俺はこんなところで負けるわけにはいかない。


 触手が好きだっていいじゃないかっ。粘液まみれの触手が美少女の肢体にまとわりつくのを見るのがたまらなく興奮するんだっ。


 百合が好きだっていいじゃないかっ。攻める方を見ても受ける方を見ても、どっちもかわいいなんて俺得で何が悪い?!俺たちの物語はこれからだぁぁぁぁぁ!


 ぷるぷると震える足に残りの力を注ぎ、リーゼントから同人誌を受け取る俺。



 カシャッ。カシャッ。―――――――――ん?何の音?



<五木のターン>


 音がした方向はちょうど俺の横からだった。つまり、五木から発せられた音のようだ。彼女の方に目をやると、綺麗な手にはスマホが握られていた。どうやら俺とリーゼントの写真を撮ったらしい。


 このタイミングで何で写真撮影?彼女の意図を図りかねていると、五木はにこりと口元を歪める。


「公共の場で自分の性癖を露わにした本を渡しあうするなんて、気持ち悪いオスたちですね♪でも、遊ぶものが増えたので良しとしましょうか」


 嫌な予感がする…。五木危険レーダーがビンビン反応している。彼女に話の主導権を渡してはいけない。とりあえず、写真の中身についての絶対話題にしてはいけない。


 そんな俺の危機察知も虚しく、彼女は先ほど取った写真を俺とリーゼントに見せてくる。



 そこには、俺とリーゼントが真剣な表情で18禁同人誌を掴んでいる姿がばっちり写っていた…。まるで、二人で大事なものを手渡しているかのように。



「この写真を私のSNSのホーム画面にするのはいかがでしょうか?」


「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」」


 俺達の反応を恍惚とした表情で眺める五木は、後を継ぐ。


「うふふ、いじりがいがありますわ。ちなみに、私他の学校の女子生徒とも交流がありますの。これがどのような意味を持つか、煩悩に塗れた下等生物でもご理解頂けますよね?」


「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」



『五木の「ドSオーラ全開」が発動!効果は抜群だ!ピリオドは2000ダメージを受けた。リーゼントは倒れた』



 リーゼントぉぉぉぉぉぉぉぉ。おのれ五木。ぷくくと満足そうな顔をするな!まさかお前が真の敵だったとは…。


こうなりゃリーゼントの弔い合戦の開始だ!モヒカンさん、ハゲさん、五木をとっちめちゃってください!



<五木のターン>


ん?なんかおかしくね?


 五木は、モヒカン&ハゲに妖艶に微笑む。



『五木の「小悪魔の微笑」がモヒカンとハゲに炸裂!効果は抜群だ!』



<モヒカン&ハゲのターン>


「「わーい女王様に微笑んでもらえたー♪」」



『モヒカン&ハゲは五木にメロメロになってたおれた』



「お前らそんなキャラじゃなかっただろっ!」


 俺のツッコミも虚しく、メロメロ状態のモヒカンとハゲには届かなかったようだ。くそぉぅ。でも、まだだ。次の俺のターン。五木の恥ずかしエピソードを語ってやろう!



<五木のターン>


……。ちょっと待てぇい!さっきから思ってたけどさ、どんだけ五木のターン来ているんだよ!俺のターン全然来ないんですけど!?1ターンごとに交代するからゲームのバランス取れんだよ!


(そんなに待っていたら暇を持て余してしまいますわ)


我慢しなさいっ!こちとら対応が追い付かねぇよ。


(でも…)


でもじゃありません!って俺の頭の中を読んで会話してくるな!


(うふふ、お邪魔しています♪あらあら、健太さんの頭の中はこんな感じになっているんですの)


ちょ、それは止めてください!そっちの記憶はダメです!


(ダメと言われると余計見たくなりますわ)


いやぁぁぁぁぁぁぁぁ。



『五木の「乗り移る」が発動!効果は抜群だ。ピリオドは倒れた』



『ピリオドの目の前はまっくらになった…』



 ふと意識を取り戻すと、俺の前に先ほどのチンピラはいなかった。なんだ。夢か…。


「先ほどの写真は鍵つきで保存しておきましたわ♪」


 ぐはっ。夢ではなかったようだ。だが、もういい。過ぎ去ったことは振り返らない。それこそ、俺のモットーである。


 歩みをしてから、俺は五木に別の話題をふる。


「俺に何か用事があったんだよな?」


「私は、健太さんと一緒に登校したかったんですわ」


 嬉しいこと言うじゃねぇか。でも、全部が本心って感じじゃないんだよな。五木自体謎っていうのもそうなんだが、引っかかる部分がある。


「それが全部って感じにも聞こえないけど」


 部分否定ってのが大事な。あくまでも『俺と一緒に登校したい』っていう理由の他に、何か別の理由があったってことに違いない。


「あらあら、こう見えて実は結構鋭いんですね」


「『こう見えて』は余計だっ」


 俺のツッコミを受けて微笑む五木。でも、すぐに真面目な表情に変える。彼女と会って初めて見せた表情だった。


「実はですね、健太さんにご相談がありまして。神崎さんのことで」


「神崎のことで?」


「はい。私、今度のアテネ祭で神崎さんにゆ…」


「おーい、ピリオドー、お前の親友『魔法使い』が来たぞー」


 声のする方に顔を向ける。すると、大きな声で俺のニックネームを叫びながら、満面の笑顔で近づいてくる自称『親友』。そんな痛いニックネームを自分で名乗る人の親友だとは思われたくない。俺は彼を見なかったことにして、五木との会話に戻る。


「ゴメン、何か言おうとしてたな。もう一度言ってもらっていい?」


 亜麻色の髪の少女は一瞬考え込んだ後に、いつもの微笑みに戻って言葉を口にする。


「…いえ、またの機会にしますわ。ユニークなお友達がいらしたみたいですし」


「いやあれは俺の友達ではないです」


 俺は即答する。それに対して、にこりとする亜麻色の髪の少女。


「ご冗談を。面白いおもちゃの周りには、面白いおもちゃが集まるんですね。興味深いですわ」


 そんなことを呟いてから、彼女は優雅に会釈して離れていった。が、数歩歩いた後に、こちらを振り向いて五木は、そういえば、とか語り出す。


「健太さんが『佐奈』と呼ぼうとしていたの実に可愛らしかったですわ。是非今度はちゃんと呼んでくださいまし。それではご機嫌よう」


 艶やかに去る少女をよそに、俺はその場に恥ずかしさのあまり倒れた。



ピリオドの目の前はまっくらになった…。


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