第24話小は大を兼ねる?小さくたっていいじゃないか!

 目が覚める瞬間みんなはどんなことを思うだろうか?


王道で言うと、異世界転生だよな。いつの間にやら、元の世界の記憶を維持したままファンタジー世界に転送されているってやつ。それで、運命的な出会いをした美少女ヒロインとイチャイチャしながら、自らに眠る無敵の力が目覚めていくっていう展開。俺は今日も今日とて異世界転生を希望しながら、覚醒し始めている。



 意識が覚醒してくると、光を感じて目を開けてみる。眼前に広がる景色は、中世のファンタジー世界ではなかった。おー残念。代わりに広がるのは、白を基調とした室内だった。あれ?俺の部屋ってこんな感じだっけ?自分の置かれている状況がよく分からない。


 だが、感覚が戻ってくると、左頬にあたる心地よいものに気付く。なんか超すべすべするんですけど。それに、弾力がありながらも包みこまれるような感触。も、もしかして、誰かに膝枕されているとか?


 間違いない。きめ細かい肌でむっちりとした太ももが俺の左頬の下にある。ファンタジー世界じゃないけど、ハーレム王国とかの転移に成功したのかな?こうなったら、エロゲで磨いた俺のスキルを発動するしかない。さわさわさわさわ。


「んっ」


かわいらしい声が聞こえる。どうやら俺を膝枕してくれている人(?)は、可愛らしい女の子なようだ。よかった。さわさわさわさわ。


 太ももをさわさわする手はそのままにして、ひとまず状況の把握のため俺は考える。そこで右頬に何か重みのあるものが乗っかていることに気付く。膝枕をされている状況から察するに、左頬に当たるのが太ももであるなら、右頬にあたるのは何か?


 答えは、胸である。これだけの重量。Eカップか、いやFカップ。このサイズからして該当する女子は・・・・へ?神崎藍?いやいや、そんなわけないわ。神崎の巨乳とむっちりとした膝に挟まれるとかどんだけ夢シチュエーションだよ。現実じゃないなら沢山触っておこう。さわさわさわさわ。



「ーっ、いつまで触ってんのよっ」


凛とした声音とともに、俺の身体は一回転してカーペットの上に激突。声の主が急に立ち上がったものだから、転げ落ちてしまったようだ。俺は後頭部を打ち付ける。


 後頭部をさすりながら声の主に目を向けると、俺からかなり離れたところに神崎藍が立っていた。両手で自慢のFカップのバストを俺の目から隠すように抱き、涙目で見ている。うん。実にそそる。なんか新しい扉が開きかけている。ゾーンに入る前兆か?


「あんたセクハラで訴えるわよ?」


「ちょ、ちょっと、待って下さい。誤解なんですって」


「どの口が言うのかしら?私の衣服に手をだそうとしているわ、は、裸を見るわ、触ってくるわ、もう信じらんっないっ」


 なんですと?確かに目覚めてから、神崎をさわさわしていた。だが、神崎の衣服に手を出す?神崎の裸を見た?そんなことしたのか俺?駄目だ。思い出せない。神崎家の貴賓室とやらに案内されるところまでは覚えているんだけどなー。


「今のは、不可抗力ですって。それに俺、神崎さんの、その、は、裸とかは見てません。神崎さんの家に来てから貴賓室?ってのに案内されてからずっとこの部屋にいましたよ(多分)」


「・・・・」


ジト目で俺の瞳を覗き込んでくる神崎。


「どうやら嘘はついていないみたいね。さっきの弾みに記憶が飛んだのかしら?それならいいわ」


 物騒なこと言われてような気がしたけど、そんなことよりまず確認しないといけないことは、俺は神崎の全裸を見たのか否かだ。


「えーっと、納得してるとこ悪いんですけど、俺神崎さんの裸とか見・・・・ていませんね。はい。すいません。この話はこれで終わりです」


 神崎にすごい勢いで睨まれたので話題の転換を図ろう。そういや、神崎って学校の雰囲気と随分違うような気がする。


「そういえば、か、神崎さんって、学校の雰囲気と、ちょっと違いますよね?」


 俺の発言にはっとしたように、何かに気づく神崎。額に大粒の汗を浮かべて、取り繕うように笑顔を作って話し始める。


「そ、そんなことないですよ。山田君。私は、いつも、こんな感じですよ?」


あからさまに目を泳がせる神崎に、今度はこちらが半眼を向ける番だった。



 神崎と俺の間に沈黙が訪れる。沈黙に耐えかねた神崎がため息混じりに告白する。


「・・・はい。認めるわよ。本当の私はこんな感じ。どうがっかりした?」


そう言って、少し不安そうな表情をする彼女。


「えと、ビックリはしたんですけど、今の神崎さんもいいと思います、はい」


これは俺の素直な感想だった。俺が一目惚れした時の神崎は、いかにも高嶺の花って感じで緊張しちゃうけど、今の神崎は身近に感じられて親しみやすい印象がある。


「あ、あっそ。生意気なこと言うわね」


ひどい。フォローしたはずなのに、罵倒されたぞ。でも、神崎の機嫌が良くなってる感じがするから良しとするか。


「まぁ、さっきのは不可抗力として見逃してあげるわ。感謝しなさい」


 めっちゃ上から目線で言われてるけど、さわさわを見逃してくれるようなので黙ってることにしよう。


「そろそろ本題に入るわよ」


「本題って何ですか?」


「あー、その前に敬語止めて。私敬語好きじゃないのよ。それと、名前も呼び捨てでいいわ」


「わかり、ました。じゃなくて、わ、かったよ神崎」


流石に、下の名前で呼ぶのはハードルが高すぎたんで、名字で妥協。いやこれでも俺頑張った方だよ?


「よろしい。じゃあ私も名前で呼ぶわ」


マジで?!好きな女の子に名前で呼ばれる日が、俺にも訪れたのか。ありがとう神様!



「よろしくピリオド」



・・・いや、それ名前じゃないから。山田ピリオドってどこの小説家さんですか?どんだけ俺のニックネーム浸透してんだよ?


 抗議をしようかと思ったが、神崎の表情を見て止めた。微笑む彼女は相変わらず可憐で、どうでもよくなっちゃったからね。


「それで単刀直入に聞くね、あんた佐奈と付き合ってるわけ?」


「へ?」


「だから五木佐奈と付き合ってるの?」


俺と五木が付き合ってる?あの性悪女と?


「いやいや、そんなことない、全然ない」


「じゃあ、何でピリオドのポケットから佐奈のハンカチが出てくるのよ?」


 ごもっとも。昨日の話はまだ終わっていなかったようだ。ああ、問い詰めるように神崎が俺の瞳をまじまじと見つめてくる。まるで浮気した俺を問い詰めようとする妻のように。幸せだ。大丈夫。俺が神崎以外の女の子と浮気するわけないじゃないか。そうじゃない、そうじゃない。とりあえず、嘘付けそうな雰囲気じゃないから、俺がハンカチをくんかくんかしたところだけカットして伝えよう。


 俺の話を聴いた神崎は、なるほどね、いかにもあの女がやりそうな手口だわ、とか言いながら納得してくれたようだ。ふー。焦ったわ。


「つまり、あんたが佐奈のハンカチを拾ったのに返し損ねて、困っている私にハンカチ差し出そうとしたらそれを出しちゃったってわけね。それで、佐奈が面白がって状況をややこしくしたと」


「うん・・・」


「ピリオド、随分佐奈に気に入られたようね」


そうなのか?どちらかというと単にからかわれているだけな気がするんだけど。


「それなら話は早いわ。ピリオド、佐奈の秘密を探りなさいっ」


神崎は、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、俺の方にビシッと指をさす。話の展開が早すぎて頭の整理が追い付かないよ。どゆことだよ?理由を尋ねようとしと瞬間、神崎の胸から何かが落ちる。二つの丸みを持つ肌色のそれは、地面に着地してから数回バウンドして俺の足元に転がる。


 じーっとそれを見つめる俺。女の子の胸って、合体ロボみたいに取り外しが可能なんだー。知らなかったよー。


「ってうなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁ」


記憶を全て取り戻した俺。思い出したぜ。神崎の全裸もばっちしな。そして、神崎が巨乳でないという真実を。


 神崎は数秒固まった後、口をパクパクさせる。俺の足元に転がる物体と自分の胸を交互に見つめながら、見る見るうちに顔が紅潮していく。そんな神崎に、俺はすかさずフォローを入れる。


「小さいってのは一つのステータスなんだぜ神崎」


「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」


羞恥や怒りだかが色々混じったように、顔を真っ赤にした神崎は、またもや近くにある枕を俺に向けて投擲してくる。


 だが、今回の俺は一味ちがう。できる男ってのは二度も同じミスを犯さぬものだ。投擲された枕を瞬時に机に隠れて回避する。



 これより第二の任務を開始する。神崎の全裸という守るべき大切な記憶のために、俺は何としてでもこれを死守せねばならない。みんな準備はいいか?


『オォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーー!』


俺の中に存在する全細胞が高らかに雄たけびを上げた。


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