第23話最後の分岐点の先にあるものは・・・
ここで簡単に俺の立場を整理しておこう。
まず、俺のいる場所について。俺は憧れの女子神崎の自宅の貴賓室にいる。二人でお話をするためにゲストとして休みの日に呼ばれたわけだから、もうデートと言っていいにちがいない。いやデートなのは自明の真理。異論は認めん。
次に、状況について。神崎から「部活帰りで少し汗かいちゃったから、先にお風呂に入ってきてもいいですか?」との究極の問いをぶつけられる。お風呂に入ればラッキースケベ、お風呂に入らなければフローラルタイム。苦渋の選択を余儀なくされた俺は、前者のラッキースケベに一票を投じた。そのため、神崎は今お風呂に入るために貴賓室から離れている。よって、部屋には一人だけ。口元に怪しげな笑みを浮かべる俺だけ。ククク。
最後に押さえておきたい俺の使命について。自宅デート×好きな女の子×お風呂。この公式から導き出される結論は・・・ただ一つ!『何としてでも神崎とラッキースケベをしたい』ただそれだけだ。入浴後の神崎と偶然ぶつかり、彼女を包む唯一のバスタオルがなんかの拍子に自然にはだけてしまう。そんな展開を俺は待ち望んでいる!
とまあこんな感じ。整理完了。
神崎が部屋を出てから10分くらい経っただろうか?俺の感覚だとそろそろ風呂から出てもいいころだと思う。ぼちぼち我らが使命を達成するために動き出すことにする。これより任務を開始する。
まずは、貴賓室の扉を少しだけ開けて廊下の様子を確認。ドアの隙間からはきれいで静かな廊下が見えるのみで、使用人はいない。ゴーゴー。
そーと音を立てないように廊下に出る。そこで脳内マップを使い、玄関から貴賓室に案内されるまでに、『バスルーム』の標識がなかったことを確認する。そうすると、先ほど通ってきた方向とは逆に進めばいいということ。緊張のせいか、はたまた興奮のせいか心臓がばくばくいっているのが感じられる。
聴覚を最大限に活用し使用人の存在を察知したら見つからないように隠れ、その間にも視覚を駆使して左右の部屋の標識を確認していく。だが、『バスルーム』という標識が見当たらない。どうなってんだよ?このままだとラッキースケベフラグが折れてしまう・・・・。
そんなことを考えていると、突如、背後から俺の右肩に何者かの手がかけられる。ヤバい。誰かに見つかった?
恐る恐る振り返ってみると、強面だけど実はめっちゃいい人こと川島さんだった。
「山田様どうされましたか?」
偶然を装って神崎とラッキースケベをしたいんです!、なんて言えるわけがねぇぇぇぇぇ。何か上手い誤魔化し方はないか?
俺の脳がフル稼働し数百数千の言葉を瞬時にシュミレートする。『トイレに行きたいんだけど迷ってしまった』。これは奥の手だ、まだ使うのは早すぎる。神崎の一糸まとわぬ姿が見たい。ついでにスキンシップも希望。
『ちょっと電話をお借りしたくて』。これも却下。人の家で誰かに電話をかける必要などない。ラッキースケベの後の神崎はどんな表情をするのだろうか?顔を赤らめながら『恥ずかしいので見ないで下さい』かな?神崎は恥ずかしがり屋さんだなぁ。おじさんがいたずらしちゃうぞ。グヘヘ。
それともむしろ、『山田君になら見られても嫌じゃないです、どうぞ』かな?神崎って黒の下着通り大胆なんだなぁ。騎士として女性の御要望には最大限のおもてなしをしなくてはな。フフフ。エトセトラエトセトラ。
ん?途中から妄想が入ってた?高校男子なんてそんなもん。
「えーとですね、神崎さんがお風呂に入るって言っていたんですけど、割と時間かかっているから何かあったのかと思って心配になって探していました」
事実を交えつつ、かつ神崎を心配している姿を演出。我ながら完璧。そんな俺の瞳を見据える川島さん。
「なるほど、そういうことでしたか。ですが、ご心配には及びません。藍様はお風呂に入るまでに少しお時間を要される方なので」
「そ、そうだったんですね。わかりました。じゃあ、部屋に戻っておきます」
そこではじめて自分のミスに気付く俺。いくら風呂に入りに行った神崎が遅いからと言って、神崎を探しに行くって、もはや堂々と覗きたいって言っているようなもんじゃねぇか。やっちまった。これで部屋に戻らず家をふらふらしていたら最悪通報されかねない。任務は失敗、これまでのようだ。
俺は肩を落として部屋に戻ろうとすると、川島さんに引き留められる。
「お待ちください。山田様はその選択肢で本当に良いのですか?」
問いかけをする川島さんの表情は至って真剣だった。え?どゆこと?
「私は神崎家に仕える身である前に、一人の男です」
「はあ・・・・」
「だからこそ、山田様がここにいるのには、何か別の大切な使命があるからだと私は思うのです」
まさか川島さん、俺の使命に気付いているとでもいうのか?
「勿論警察のお世話になるようなことは謹んで頂きたいですが、男が一旦決めた使命を簡単に諦めてしまっていいのでしょうか?」
そこで、にかっと笑う川島さん。この人ほんとできるわ。感極まった俺は、川島さんと握手する。
「ありがとうございます、川島さん。俺目が覚めました」
「いえいえ、出過ぎたことを言いました。忘れてくださいませ」
そう言って、川島さんは去って行った。今度、川島さんと飯でも行きたいものだ。
さて、川島さんと別れてから、任務を続行していたがどうやら目的の扉が見当たらない。そんな時、何かが廊下に落ちていることに気付く。拾い上げてみると、布生地のピンクの物体だった。これはもしや・・・・。と思って広げようとすると、神崎が電話をしながらこちらに近づいてくる音が聞こえる。
マズイ。これを持っていたら変態認定されてしまう。どこかに隠れなくては。隠れる場所を探すも、神崎が来る方向の反対は行き止まりになっており、どこかに繋がる扉が1つあるのみ。
ええいままよ。俺はその一つの扉を開けて部屋に入る。これで一安心かと思いきや、足音がこの部屋に近づいてくる。やべぇ、どこか隠れるとこはないか?急いで、近くにあるクローゼットの中に忍び込む。
神崎が部屋に入ってくるまでに潜伏することに成功した俺。数秒後に入ってくる神崎。間一髪だったわ。クローゼットの隙間から神崎の様子を確認する。
「はい、お疲れ様です。失礼します」
ちょうど、神崎は電話を終えたようだ。見たところまだ制服だから、さっき俺と別れた後に電話がかかってきたみたいな感じか?それなら、まだラッキースケベのフラグは残っている。安心。安心。心臓の鼓動が落ち着いていくのを感じる。
神崎は電話を置くと、俺に背を向けた状態で長い黒髪を一つに束ねるシュシュを取り、黒髪がはためく。窓から差し込む陽の光を受けて彼女の黒髪はきらきらと輝いていた。世界にはこんなにも美しい光景があるんだと思ってしまう。
だが、神崎の次の行動により俺の心臓の鼓動の高鳴りは急速に加速していく。神崎は鈴の鳴るような心地よい鼻歌を歌いながら、衣服を脱ぎ始めた。羽織っている黒のブレザーを脱ぐと、白いブラウスが見える。
運動後の汗によりいつも以上に肌にぴったりと張り付いているからだろうか、もはや黒の下着が後ろから丸見えになってしまっている。うひょー。マジで、白のブラウスを発明した人天才だわ。きっと、彼も変態だったのであろう。
更に、神崎がブラウスのボタンを外すと、眩しい白磁の肌が眼前に広がってくる。テニス部に所属しているためか、ウエストはキュッと引き締まっているのにも関わらず、上半身には程よい筋肉がついており、健康的なエロスを放出している。そんでもって、肉つきの良い白磁の肌に食い込む黒の下着が露わになり、そのコントラストが俺の本能を刺激する。なんて生き地獄なんだ。目の前には、楽園が広がっているというのに、そこに踏み出すことが許されないなんて。目を凝らして神崎の後ろ姿を網膜に焼き付ける。
俺がそうしている間にも、楽し気な鼻歌に交じって衣擦れの音が室内に響く。そして、両手でスカートを下すと、黒のパンティが俺の視界に飛び込んでくる。乙女の花園を守る黒の守護者の守備範囲はかなり狭く、むっちりした二つの丸みを俺の欲望から守る術はない。
ああ、あの黒布に顔を埋めたい。そして、くんかくんかしたい。美少女ヒロインが主人公の下着の匂いをかぐというのは絵になるのに、何故逆は許されないのか?こうなったら俺が革命を起こすしかない。いや待て。ここで、動いては全てが水の泡だ。匂いフェチたちの屍の上に今の俺はいるんだ。何としてでも、ラッキースケベを起こさないと行けないんだぁぁぁ。
そんな俺が見ているとはつゆ知らず、神崎は一糸まとわぬ姿になる。それから彼女は脱いだ衣服を丁寧にたたみ、かごの中に入れて出ていった。パタンとドアが閉まる音を確認して、俺はようやくクローゼットから出ることができた。フーとため息をつきながら、高鳴る心臓の鼓動を落ち着けようとする。
そこでふと目に映る好きな子の脱ぎたての衣類。惹き付けられように、衣類に手を伸ばそうとする。その瞬間、俺の頭の中に過る違和感。目の前に映る神崎の私物を見つめることしばし。どうにも浮かんだ違和感を解消できずにいると、扉の開く音が聞こえる。
振り返ると、透き通る肌を惜しげもなく晒した神崎の姿。加えて、羞恥で赤に染まった表情は場違いながらもそそるものがある。と同時に違和感の正体が明らかになった。
「神崎って実は巨乳じゃない?」
「ーっ。記憶を失えぇぇぇぇぇっっっっっっ」
彼女が投擲した洗面具が顔にジャストミートして、俺は後ろ向きに倒れて、その後後頭部を打ち付けて意識が遠のく。
14時20分任務完了。
得たもの・・・神崎の乳の秘密。
失ったもの・・・神崎からの俺に対する信頼。
『成功とは犠牲なしでは得られぬものなのである』by ピリオド
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