フラグをたてるために、俺の屍を越えてゆけ
第12話パラメーターEとリア充の祭り~前夜~
どうにか弥生の機嫌をとることに成功した俺は、弥生と別れて自分の教室に向かっていた。いつもより廊下を通り過ぎる生徒が騒がしい気がする。なんかあったのかな?とか思いながら、去年の今の時期何が起きていたのかを思い出す。そして、思い当たった行事にどんより気分が重くなる。何とも言えない気分になりながら、建付けの悪い教室の扉を開けると、眼鏡をかけた青年が開口一番に叫んできた。
「ついにアテネ祭が開催決定だってよ」
「ふーん」
この眼鏡をかけた青年は、本名田中といい、ニックネームは魔法使い。クラスに一人はいる女の子大好き青年だ。綿密な調査を行った後に女子のデータとかをつけることに青春を捧げている。そのため、男子からは魔法のように特定の女子のデータを生み出すその姿に対する尊敬の念を込めて、女子からは『あいつキモすぎ。30歳になっても童貞じゃない?魔法使い確実だよね(笑)』という軽蔑の言葉とともに付け足られたニックネーム。そんな背景を知ってか知らずか、本人は気に入っているようなのでなにより。
「おいおい、そんな気のない返事するなよな。まあお互いランキング外の仲間だから、お前の気持ちは分からんでもない。だがな、そんなことよりも大事なことがあるだろう」
「そんなもんあったか?」
「ばか野郎!普段お近づきになることさえ難しい他クラスの美人な女子を堂々と拝める最高の機会じゃないか!」
魔法使いは教室の入口で叫ぶ。それと同時に、複数の女子の舌打ちが聞こえる。こえー。こいつと喋っている俺にもとばっちり来ないか心配になるわ。
少し声を潜めて、窓際の一番後ろにある自分の席に腰をかけると、前の席に魔法使いが座る。
「落ち着けって」
「こんな熱いイベントの前に落ち着いていられるか!そりゃ、お前みたいに朝から美少女と登校しているやつにゃ分からないだろう。ってかどうして、お前には宮崎さんのような幼馴染がいるのだ?羨ましすぎる。この男子の敵め!」
さっきの仲間意識どこ行ったよ?胸倉を掴んで、前後に揺らしてくるのが軽くうざったい。まあいつものことなので、さらっと受け流して、脱線した話題を元に戻す。
「そんで、魔法使いがアテネ祭を楽しみにしてるのは分かったけどよ、やけに今年はテンション高くね?」
「よくぞ聞いてくれました。流石俺の親友!」
魔法使いの言いたいことを的確についたようで、眼鏡の青年はたっぷりと間を作ってから話し始める。
「なんと、今回はAクラスの女神神崎藍の参加が決定したのだ!」
マジか?!あの神崎藍が?俺の表情の変化を感じ取って、満足そうな魔法使いが続ける。
「ようやくことの重大さが分かったか、ピリオドよ。そう、昨年は出場しなかったこの学校のマドンナが満を持して出場するのだ。さらに、俺はとある情報筋から耳よりなことを得たのだ。知りたいか?」
俺は前のめりになる。
「詳しく」
「おうよ。なんでも今回のアテネ祭は例年と違うらしい」
「違う?」
「ああ、いつものアテネ祭っていうと、全校生徒にアンケート用紙を配布した上で、エントリーした人達から選ぶだろ?」
俺は去年のアテネ祭を思い出しながら、相槌を打つ。アテネ祭なんて大層な名前ついているが、要は大学のミスコン、ミスターコンみたいなものである。大学と違い、学校関係者以外は入場もできないけど。
「だがな、今年は学校のマドンナが出場するということで、運営もコンテストの会場に入場制限をかけざるを得ないみたいでな。入場できない生徒は、生の神崎を見れないのだ」
やっぱり神崎って人気あるのか。なんか嬉しい気持ちと壁を感じて悲しい複雑な心境だわ。俺の心境を当然魔法使いが知るはずもなく、熱気を帯びた口調で後を継ぐ。
「そして、その入場制限を突破する一つの条件が、投票する生徒もエントリーするというものだ。無論エントリーだけして突如辞退ってことはご法度で、即退学に追い込まれるとのこと。人を評価するのなら、自分も同じ土俵に立てということにしたらしい」
「なるほど」
「コンテストに参加するとなれば、放課後の練習とかミーティングやらなんとやらで他クラスの可憐な女性と触れ合う機会も多くなる。だが、その反面、俺たちモブキャラは自分の社会的プライドを犠牲にしなければいけない。どちらをお前は選ぶのだ?ピリオドよ?」
さらっと、俺もモブキャラ扱いされたのは釈然としないが、俺の中にボワーとやる気が湧いてくるのを感じた。神崎に近づくチャンスを増やすのと、自分のプライドを守るのどっちが大事かだって?そんなの決まっているじゃないか。
「俺はエントリーする」
「だよなー。ピリオドならエントリーしないと思ってた。だから、エントリーしないで、会場に入場でできる条件の方をお前に・・・・え?今何て?」
もう魔法使いの言葉は俺の耳に入ってこない。戸惑った表情を見せる魔法使いに、宣言が聞こえなかったのかな?と思った俺は、再度宣言する。
「だから、エントリーするって」
「正気か?お前のようなモブキャラ、リア充のイケメン共の前にはなす術のなく散っていくのは、回避されない真実だぞ?」
その後も、魔法使いは俺に何かと話しかけていたようだったが、そんなことはもう気にならなかった。
こうしてパラメーターEの俺は、リア充によるリア充のためのコンテストへの参加を表明した。
『俺はこのチャンスに、神崎とお近づきになってやる!』
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