399:僕、変だよね?

その後、小一時間ほど、俺たちは小屋の中を漁りまくって、フラスコの国にいるであろうホムンクルス達の弱点を探した。

しかし残念ながら、これだという方法は見つからなかった。

そして、そうこうしているうちにみんな、だんだんと疲れが見え始めて……


「だぁあっ!? 駄目だぁあっ!! 一旦外出て何か食おうっ!!! おいら、腹が減って集中力がなくなっちまったよ~」


「拙者も、右に同じでござる。美味いおむすびが食べたいでござるよ」


おむすびなんて……、そんなもん、ここにはないよ、カサチョさん。


「そうですね、一度休憩を取りましょう。魔法で無理矢理に空間を広げているこの中では、魔力の消耗も激しいですからね。僕はカービィさんやカサチョほど魔力を持ってませんから、そろそろキツイです」


マシコットはそう言って、燃えている顔の額から流れ出る汗を拭った。


魔力の消耗が激しい?

え、そうなの??

なら……、え、ちょっと待ってよ。

魔力皆無な俺はどうなるわけ???

なんていうか、お腹は減っているけど、そこまで疲れてないのよね、俺。


ゾロゾロと、小屋の外へと出て行く三人。

俺は……、いや俺も、こんな所に一人は嫌なので、後に続こうと思ったのだが……


『ねぇねぇ~、聞こえるぅ~?』


またしても、気持ちの悪い声が頭の中に響いた。


はっ!? まただっ!??

さっきから一体、何なんだこの声はっ!?!?


バッ! と振り返り、身構えるも、部屋の中には誰もいない。


なんだっ!? なんなんだっ!??

ま、まさか……、オバケっ!?!?

ひぃいぃぃ~!!!??


『その部屋の何処かにさぁ~あ~、銀細工の懐中時計、なぁ~いぃ~?』


かっ、懐中時計だとぅっ!?

オバケの分際で、時間を気にするのかぁっ!??


『僕ちんはオバケなんかじゃないよぅ~、失礼だなぁ~……。懐中時計、探してよぉお~、懐中時計ぃ~』


ネチネチとした口調のその声は、俺に懐中時計を探せと言う。

しかしながら、この部屋は既に、隅々までみんなで探り回った後なのである。

懐中時計なんて……、何処にもなかったぞっ!?


『えぇ~、きっとあるよぉお~。ニベルーの懐中時計ぃ~。いっつも〜、机の引き出しに入れてたはずなん……、あ? ……あ、あぁあっ!? 思い出したぁあ~! そうだよぉお~!! 地下室だよぉ~!!?』


ち、地下室……、だと???


『一番右奥の本棚にねぇ~、仕掛けがあってぇ~。地下室への扉があるはずだよぉ~』


そんな事、言われたって……

仮にあったとしても、そんな地下室に俺一人で入るなんて事は……、り~む~。


「何してんだモッモ?」


「ぎゃあぁぁあぁぁぁっ!?!!?」


耳元で不意に聞こえたその声に、俺は心底驚いて、大きく飛び上がりながら悲鳴を上げた。

心臓の鼓動は跳ね上がり、一瞬で全身の毛が逆立った。


「だぁあっ!? 何ビビってんだよぉっ!??」


半ばキレながらそう言ったのは、勿論カービィだ。

小屋の外に出たと思っていたのだが、いつの間にか中に戻っていたらしい。

俺の声がうるさかったらしく、顔をしかめて両手で耳を塞いでいる。


「ばっ!? だっ!?? だからっ!!! 耳元でいきなり喋らないでよぉおぉっ!!!!」


ガタガタと震えながらも、キッ! とカービィを睨み付け、必死に訴える俺。


こんな、訳の分からない奇妙な場所で、気味の悪い声に話し掛けられて……、怖くないわけがないっ!

それでなくても、ピグモルは生物学的に神経過敏で、俺に至っては究極のビビリなのだ!!

耳元で名前を囁くなんて……、金輪際、やめて頂きたいっ!!!


「早く外出るぞ。なんと既に、グレコさんが昼飯の用意をしてくれてんだっ!」


ビクつく俺の事なんてそっちのけで、ニカっと笑うカービィ。

俺だって、今すぐ外に出たいさ。

だがしかし……


『地下室だよぉお~。きっと地下室にあるんだよぉ~お~』


こちらも、俺が心底気味悪がっている事なんて御構い無しに、地下室地下室とうるさいのである。

この声を無視して外に出るのは、ちょっと……


「あ、あのさ……。なんか、声が聞こえてて……」


俺は、外に出ようとしているカービィに向かって、ボソボソとそう言った。

おそらくだけど、この声は俺にしか聞こえていないはず……


「声? 何の話だ??」


ほら、やっぱり。


「えと、誰の声かは分かんないんだけど、ここへ来てからずっと聞こえてて……。さっき、机の裏に日記がある事を教えてくれたんだ、その声が。それで……、そいつが、右奥の本棚に仕掛けがあって、地下室があるから、そこから懐中時計を取ってこいって、言ってて……」


そこまで言ってみて、俺は、自分が酷くおかしな奴に思えてきた。

みんなには聞こえない声が聞こえていて、その正体が分からないというのに、従おうとしている自分は、かな〜り頭のおかしい奴なのでは? と。

もし、この声の主が、悪魔だったとしたら……??


だけどもカービィは、ポリポリと耳を掻いた後、ニッと笑って……


「よし、ちょっくら調べるか!」


部屋の右奥の本棚までテクテクと歩いて、何か仕掛けは無いかと探し始めた。


「……ねぇ、僕、変だよね?」


みんなに聞こえない声が聞こえてるなんて……

 それに従っているなんて……

まさか、いつの間にか何かに、誰かに呪われたりしてるんじゃ!?


「んな事ねぇよ。おまいには、おいらには無い力があるんだ。聞こえるのも聞こえねぇのも、仕方ねぇさ」


 あ……、そ、そう?


いつもと変わらぬ調子のカービィのその言葉を聞いて、俺は何となく、スッと心が軽くなるのを感じた。


「ん? ……おっ!? これじゃねぇか!??」


程なくしてカービィは、本棚の足元に、妙な出っ張りを見つけた。

不自然なそれは、間違いなく地下室に続く仕掛けのスイッチか何かなのだろうが……


 本当に、得体の知れない声に従ったりして、大丈夫なのだろうか?

 もしかして、何かの罠だったりして……??


しかしながら、迷っている俺の事など全く気にしていないカービィは、遠慮なく、それをムギュっと足で踏みつけた。

すると、ガガガガガ~、という鈍い音を立てながら、足元の床の一部が、隠し扉のように開いたではないか。


「うっわ……、暗いし、怖い……」


床にポッカリと空いたその穴には、地下へと続く階段があって、その先は真っ暗だ。

まるで、奈落の底へと続いているかのような闇が、そこには広がっている。


「開いちまったもんは仕方ねぇな。降りるぞ!」


「えっ!? 降りるのっ!??」


カービィの言葉に、俺はまたしても心底驚く。


確かに、地下室への入り口を探してとは言ったけど……

まだ心の準備が出来てないんだっ!

ほんと、君の思い切りの良さには、いつも驚かされるよっ!!


「え、降りねぇのか?」


「えっ!? ……だって、薄気味悪くない??」


「けどよ……、懐中時計を探さなきゃならねぇんだろ?」


「うっ……、従った方がいいのかなぁ?」


今更ながら、モジモジする俺。

けれども、頭の中ではずっと、あの気持ちの悪い声が『懐中時計ぃ~、懐中時計ぃい~』と言い続けているので、俺には地下に降りないという選択肢は残されていなさそうだ。


「大丈夫だって! まさかこんな場所に敵なんていやしねぇよっ!!」


ヘラヘラと笑いながら、ローブの内側から杖を取り出し、魔法でその先端に光を灯すカービィ。

既に準備は万端らしい。


……うぅ~、なんだろう、嫌な予感しかしないんだけどぉ~。


背筋に悪寒を感じつつも、地下へと続く階段を颯爽と降りていくカービィに、俺はついて行くしかなかった。


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