393:ガラスのオブジェ
森を歩くこと数十分。
俺たちは、ヒッポル湖のほとりに建つ、ニベルーの小屋へと戻ってきた。
あいも変わらず、ゲコゲコと煩いカエルの鳴き声が辺りに響いている。
「さ~て! やるかっ!!」
レズハンの背から、ピョーン! と飛び降りるカービィ。
続いてカサチョも、動き辛いはずの和服であるにも関わらず、ピョーン! と地面へジャンプした。
さすがは猫科の生き物……、二人ともとても身軽だ。
俺もっ! 俺も飛ぶぞぅっ!!
そう意気込むものの、なかなかに高さがある為に、思い切れずにいる俺。
こ、怖いな……、着地に失敗したら、足をくじいちゃいそう……、ビクビクビク。
すると、例によって、脇腹をヒョイと掴まれて……
「我らも一度中に入るか?」
ギンロはグレコにそう尋ねながら、片手間で俺の事を地面に下ろしたのだった。
いっ!? 今っ!!?
飛ぼうと思ってたんだからねっ!!!
「そうね。もし、ここにいる何らかの神様が邪神化していたとしたら……。私達だけじゃ危険だわ。中での用事が終わってから、カービィを連れてこの辺りを散策しましょ」
グレコの言葉に、俺とギンロは頷いた。
緑色の濁った沼のようなヒッポル湖の湖畔に佇むニベルーの小屋は、屋根が苔むしていたり壁には蔦が這っていたりと、かなり古い建物に見えつつも、その造りがとても頑丈な為、傷んでいる箇所はほとんどなさそうだ。
さっきマシコットが言っていたように、元々張り巡らされていたらしい守護結界は綺麗さっぱり無くなっていて、俺たちは難なくその敷地内に足を踏み入れる事が出来た。
「お邪魔しま~すっ!」
比較的低めに設置されていたドアノブを回し、扉を開けて、中に入って行くカービィ。
マシコット、カナリー、カサチョが後に続く。
「怪しい者あらば、すぐさまお知らせします」
「俺っち達に任せてくれっ!」
神経質にあたりを見回すレズハンと、陽気にウィンクして見せたゲイロンは、共にニベルーの小屋の外で、周囲を見張っていてくれるらしい。
その事を確認した俺は、グレコとギンロと共に、カービィ達の後に続いて小屋の中へと入った。
「うわぁ……、これまた、凄いね……」
扉をくぐって、小屋の中へと一歩踏み入れた瞬間に、俺は思わずそう呟いた。
一瞬、何か周りの空気がグニャリと揺れたような感覚の後、目の前に現れたのは物凄く広い部屋だった。
四方を棚に囲まれたこの部屋は、外から見た小屋よりも倍ほどの……、いや、三倍ほどの広さがあるように見える。
棚には分厚い本がいくつも並び、何に使うのか分からないような石や動物の牙、宝石や乾燥させた植物の束などの素材が、ゴチャゴチャ、ガチャガチャと、そこら中に沢山転がっていた。
そんな雑多な部屋の中で最も目立つのが、部屋の中央にある馬鹿でかいテーブルだ。
その上には、何かの実験装置だろうか、妙な物体が置かれている。
化学の実験に使うような試験管やビーカー、シリンダーやフラスコなどの実験器具に囲まれて、テーブルの大部分を占めているのは、ガラスの管が無数に張り巡らされた、パッと見るとミニチュア版ジェットコースターのような、複雑な作りの巨大なガラスのオブジェ。
見るからに怪しいその装置は、所々にキラキラと輝く黄色い結晶が付着していた。
「う~ん……、何今の? すっごく気持ち悪かったわ」
さっきのグニャリとした感覚が苦手だったらしいグレコは、両手で額を抑えながら、頭を軽く左右に振る。
「我もなかなかに気分が優れぬ。空間魔法というものであろうか?」
眉間に皺を寄せたギンロが、誰に尋ねるでもなくそう言った。
「おそらくそうでしょう。しかし、かなり強引に空間を広げているようですから、私も少々気分が優れませんね」
答えたのはカナリーだ。
グレコと同じように、グニャリとした感覚が相当気持ち悪かったのだろう、扉のすぐそばでうずくまっていた。
「カナリー、無理はしなくていいよ。辛いなら外に出ていて」
マシコットが優しく声をかける。
「しかし……、人手は多い方がいいでしょう」
そう言ってカナリーは立ち上がるも、よほどこの空間が苦手らしく、すぐさまよろめいてしまう。
「おっと!? カナリー殿、無理は禁物であるぞ」
咄嗟にカナリーを支えるギンロ。
するとカナリーは、何故か少し頬を赤らめた。
「モッモ、私もちょっと……、ここにいるのは厳しいわ。カナリーとギンロと一緒に、外で待っててもいいかしら?」
グレコの顔色が相当悪い。
元々白いけど、ちょっと青くなっている。
「全然いいよ! 外で休んでいて!!」
俺は笑顔で、意気揚々とそう言った。
上機嫌な俺に対し、若干不審な目を向けつつも、グレコは外へと出て行った。
ギンロもカナリーを支えながら、二人で外へ向かった。
……どうして、俺が上機嫌なのかって?
そんなの、優越感に決まってるじゃないか!
グレコとギンロが駄目なのに、俺は平気なんだぞ!?
そんな事、今までただの一度もなかったのだ。
嬉しいに決まってるじゃないかっ!!!
わっはっはっはっ!!!!
「モッモ! ちょっとこっち来てくれ!!」
「あ……、はい」
カービィに呼ばれて俺は、部屋の中央にある巨大なテーブルに近寄る。
カービィは椅子の上に立って腕組みし、テーブルの上にあるガラスのオブジェを繁々と眺めている。
俺には、見れば見るほどに、それは化学の実験装置に思えてならない。
「おまい、これをどう思う?」
「へ? どう思うって……、何かの実験装置なんじゃないの??」
「やっぱり、そうなのか……?」
ん? 何言ってんだカービィのやつ??
「カービィさん、ありましたよ」
棚の書物を調べていたマシコットが、一冊の本を手に取ってそう言った。
その本の表紙には、《化学と魔法の融合・高等錬金術の勧め》と書かれている。
化学と魔法の、融合?
何それ、そんな事出来るの??
てか……、この世界に化学とかあったんだ!??
「カビやん……、これを」
別の机の上をガサガサと漁っていたカサチョが、丸まった羊皮紙の束をカービィに手渡した。
カービィはそれを受け取って、おもむろにテーブルの上に広げる。
そして、カッ! と目を見開いたかと思うと、ふ~っと重い息を吐いた。
「想像通り……、最悪の事態かも知れねぇなぁ」
深刻な表情で、小さく呟くカービィ。
俺は、カービィの乗っている椅子によじ登って、カービィの隣に立ち、テーブルに置かれたその羊皮紙を覗き込む。
そこには、何やら人の形をした、人体模型のような絵が描かれていて……
隅には、《造出生命体:ホムンクルス製造方法》という文字が書かれていた。
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