392:ニベルーの小屋へ

ぞうしゅつ、生命体? 何それ??


カサチョの言葉に、俺とグレコ、そしてギンロは、首を大きく傾けた。

しかしながら、その意味が分かるカービィ、マシコット、カナリーの三人は、違う意味で絶句した。


「こりゃまた……、とんでもねぇ事になったなぁ~」


今まで見た事が無いような、引きつった笑い方をするカービィ。

その額には冷や汗が浮かんでいる。


「拙者も、まさかと思うたが……。史実によれば、故ニベルー・パラ・ケルースス殿は、錬金術の分野でも名の知れた魔導師だったとか。有り得ぬとも限らんでござろう」


カサチョがそう言うと、カービィ、マシコット、カナリーの三人は、また押し黙ってしまった。


「えと……、ごめんなさい、またちょっと、話が見えないんだけど……?」


グレコが遠慮がちな声を出す。

しかしながら、四人は互いに目を見合わせるだけで、何も話そうとしない。


「とにかくだな……。今からすぐ、ニベルーの隠れ家へ向かおう。タインヘンさんに許可は貰ったし、護衛のケンタウロスも付いてくれるそうだからな」


「そうですか。ならば、すぐに向かいましょう!」


「そうですね。何が真実か分からない以上、憶測は更なる危険を招き兼ねません。情報を得なければ」


「さすれば拙者が案内するでござる!」


四人は互いに深く頷き、カサチョを先頭に歩き始める。

グレコの質問など、全く無視して……


「あっ、とぉ~……。ど、どうしよう?」


グレコを見上げ、尋ねる俺。

グレコは勿論、カービィ達に完全に無視されてしまった為、ちょっぴり怒っています。


「付いていくしかなかろう。あの小屋に、何か重大な秘密が隠されておるのは確かなのだ。我等も共に行き、それを知る権利がある」


グレコの様子を見兼ねてか、ギンロがそう言った。

するとグレコは、自分を落ち着かせるかのように、ふ~っと大きく息を吐いた。


「……よしっ! 私達も行きましょうっ!! 説明なんかしてくれなくたって大丈夫!!! 自分の目で確かめればいいのよっ!!!!」


プチギレグレコ様は、ケンタウロスも顔負けなドスドス歩きで、カービィ達の後を追う。

俺とギンロは、やれやれと言った様子でグレコの後に続いた。






「俺っちはゲイロン! 蹄族一の優男とは俺っちの事さっ!! よろしくっ!!!」


ゲイロンと名乗ったケンタウロスは、かなり軽いノリでそう自己紹介して、キメ顔で笑った。


「私はレズハン。十八の歳より、現族長タインヘン様にお仕えして早十二年。このような事態は一度も経験なく、外部の者の護衛任務など全くの初体験ではありますが……。族長の命令とあらば、任された仕事が何であろうと、必ず全うしてみせます。皆さんの縄張り内での安全は、私共が保証しましょう」


レズハンと名乗ったケンタウロスは、とても真面目そうな雰囲気で……、神経質な顔付きをしていた。


ケンタウロスが蹄族、その族長であるタインヘンの住まい、紫色のテントの前で俺たちを待っていたのは、この対極的な性格の持ち主である二頭のケンタウロスだった。

ゲイロンはチャラ男、レズハンはちょっと面倒な男、……そんな感じだ。


「おうっ! よろしくなっ!! おいらはカービィってんだ!!! こっちがマシコット、その隣がカナリー、ちっこくて青いのがカサチョ、後ろから来るエルフはグレコさん、その隣がギンロで、一番ちっちゃいのがモッモだ!!!! それで……、今からおいら達、ヒッポル湖のすぐそばにある小屋へ向かいたいんだが、構わねぇか?」


ザッと俺たち全員を紹介して、すぐさま本題に入るカービィ。


……一番ちっちゃいて、失礼な。

体の大きさなら、あんたもそう変わらんでしょうがっ!?


「勿論です! 俺っちがお供しますぜっ!!」


グッと腕の筋肉を盛り上げてみせるゲイロン。


「私も参ります。よろしければ、お子様方は私の背に乗りますか?」


そう言ったレズハンの視線は、俺とカサチョは勿論のこと、更には今しがたパーティーのリーダー的な感じでみんなを紹介したはずのカービィにも向けられている。

どうやら、体の小ささで、俺たち三人は子供だと判断されたらしい。


くぅ……、確かに小さいけど、俺は立派な大人の男だぞっ!

森だってなぁ、今日はここまで自分の足で歩いてきたんだぞっ!!


「おうっ! 助かるぜっ!! モッモ、カサチョ、乗せて貰おうっ!!!」


プライドがないのか、ただ楽がしたいだけなのか分からないが、カービィがいの一番にレズハンの背に飛び乗った。

誘われたカサチョも、他人の言葉などあまり気にしないタチなのか、何の反論もせずにレズハンの背にまたがる。


「ぼ、僕はいいよっ! 自分であるっ!? うわぁっ!??」


「しのごの言わないっ! 早く乗るっ!!」


ヒョイとグレコに抱き上げられて、俺もレズハンの背に乗せられました。


お、おぉ~……、高いな……


思っていたよりも、レズハンの背中は地面から高さがある為に、落ちたら大変だと考えた俺は、前に座るカサチョの服をそぅっと、ギュッと握りしめる。


残りの四人はというと、四人とも自分で歩くと最初から決めていたようなのだが……

グレコとカナリーは、チャラ男のゲイロンの背に乗らないかと誘われていた。

しかし、どうにもそのゲイロンの、相手を口説くかのような軽い口調がいけ好かないらしい二人は、その誘いを一刀両断していた。


「それでは参りましょうか」


静かに歩き出すレズハン。

パカッ、パカッという馬の足音を響かせながら、ケンタウロスの里を進んで行く。


そんな俺たちに対し、里にいる他のケンタウロス達は、訝しげな目を向けながらも、特に何かを言ってくる事はなかった。

その中には勿論、最初に俺たちを捕まえにきた、あのおっかない女ケンタウロス、シーディアもいて……

彼女は、大層悔しそうに下唇を噛み締めながら、キッ! と俺たちを睨んでいた。


「みんな~!!!」


何処からか聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思うと、前方の小麦畑を抜けて、こちらに走って来る小さな人間が一人。

俺たちをここに連れて来てくれたメラーニアだ。


「良かった! みんなも解放されたんだねっ!!」


ニカッと笑うメラーニアは、昨日に比べるとまるで別人のようだ。

容赦なく俺たちを馬面に変えようとしていたのと同一人物とは思えないほどに、その笑顔は爽やかである。


「おう! おかげさまでなっ!! おいら達、今からニベルーの小屋に行くんだが……、その前に、おまいには一つ、聞いておきたい事があるんだ」


「聞きたい事? なぁ~に??」


「うん……。おまいの持ってるその杖な……、それ、ニベルーの杖だろ?」


ほんっ!? そうなのぉっ!??


カービィの言葉に、メラーニアは口をキュッと真一文字に結ぶ。


「ごめんよ、メラーニア。先日、一度君から杖を取り上げた時に、名印を確認させてもらったんだよ。おそらく、カサチョがニベルーの小屋に入れたのは、随分前に……、メラーニア、君が守護結界を解いたからなんだろう? 僕の推測が正しければ、君にはその力がある。具体的にどうやったのかは分からないけれど、結界を解いて中に入り、そこに残っていたニベルーの杖を偶然発見して、自分のものにした。違うかい?」


のんっ!? そうだったのぉっ!??


マシコットの言葉に、メラーニアは観念したかのように、静かに頷いた。


「おまいが結界を解いた事や、小屋の中に入った事を咎める気はこれっぽっちもない。ただ、そのニベルーの小屋にあった物を、他にも何か外に持ち出したりしてねぇか?」


カービィの問い掛けに、メラーニアは慌てて首を横に振る。


「それはしてないよ! 杖しか持ち出してない!! 本当にっ!!! そもそも僕は……、自分の意思であそこに入ったわけじゃないんだ。あの湖で、大きな獣に出会って……。中にある書物を取って来て欲しいって言われたから、そいつの言う通りに魔法を使ったら、あの小屋を囲んでいた不思議な光が消えたんだ……。持ち出した書物は、ちゃんと中に戻した。だから今、僕は杖しか持ってない、本当だよっ!!!!」


ほほう? 大きな獣とな??

あの、湖とは名ばかりの、めちゃくちゃ濁ってる緑色の沼には、ケンタウロスとは別の生き物がいるのかしら???


「大きな獣? ……ねぇ、メラーニア。その獣って、瞳の色は、金色だったかしら??」


グレコがそう尋ねると、メラーニアはこくんと頷いた。


はっ!? 瞳が金色っ!??

それってまさかっ!?!?


驚く俺に対し、グレコはにんまりと笑った。


やっべぇ~!?

また本来の目的を忘れるところだったぜ俺ってばよっ!!!


「よっし! ほんじゃまぁ、行くとすっか!! おいら達の目的の全てが、そのヒッポル湖にあるっ!!! 行けっ!!!! ケンタウロスよぉおっ!!!!!」


声高らかに叫び、前方をビシッ! と指差すカービィ。


……理想としては、その言葉に従って、レズハンが駆け出してくれれば良かったんだけど。


「では参りましょうか」


レズハンは再び、パカッ、パカッという呑気な足音を立てながら、静かに歩き始めたのだった。

俺たちの背後ではメラーニアが、用事が済んだら僕の家に来てね~! とかなんとか言っていた。


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