374:ヘッドバンキング
「白い悪魔……、私達は奴の事をそう呼ぶ。姿形は普通の子供だが、中身は悪魔そのものだ」
俺たちはまだ、その白い悪魔を倒すともなんとも言っていないのに、ラーパルは勝手に話し始めた。
「十年ほど前、外界から一人の狩猟師がニヴァにやって来た。屈強な身体を持った、爽やかな青年だった。彼は言った、このタウラウの森には悪魔が巣食っている、今から自分がそれを倒しに向かうと……。正直なところ、その当時は彼が何を言っているのか分からなかった。タウラウの森には、守り神の言い伝えこそあれど悪魔の噂などない。しかしながら、それまでにも数年に一度のペースで、森に入った者が行方不明になる事はしばしばあった。タウラウの森は広く、大昔からケンタウロスが縄張りとしている場所だ。不運な事故だと勝手に解釈していたが……、その狩猟師も、結局帰っては来なかった。そして、その狩猟師の後を追うかのように、ニヴァには沢山の狩猟師がやって来た。彼らは皆、口を揃えて言った、タウラウの森には悪魔が巣食うと。そして彼らもまた森へ入り、帰らぬ人となって……、いつしかタウラウの森は、帰らずの森と呼ばれるようになった」
ふむ、十年ほど前からねぇ……
で、白い悪魔は?
「五年前、私は町の自警団の長官に就任した事を機に、捜索隊を結成し、十二人の男達を率いて森へと入った。森の中は、見ての通り鬱蒼としていて、何故だか生き物の気配が全くしなかった。ケンタウロスの縄張りだと思われる箇所を避けながら、三日間歩き続け、もうすぐ森の中心部に位置する湖まで辿り着く……、その時だった。私達の前に、奴が現れたのだ」
そこまで話すとラーパルは、両手で頭を抑えながら、ブルブルと激しく震え始めた。
「あ、あいつは……、あいつは悪魔だっ! 最初私達は、普通の子供が泣いていると思った、しかし違った!! あいつは、泣き声で人を呼び寄せ、油断している相手に恐ろしい呪いをかける悪魔だっ!!! 奴が放った光に私達は皆意識を失い、気が付いたら、こんな……、こんな顔にぃいっ!!!!」
当時の事を思い出し、興奮状態になったラーパルは、突然立ち上がったかと思うと、馬面の頭をブンブンと振り回した。
それはまるで、ヘビメタライブのヘッドバンキングのようだ。
だがしかし、余りに勢いが凄いので、頭が千切れやしないかと心配になるほどだ。
それに、食いしばった歯の間から涎が大量に飛び散ってきて……、汚いっ!
「ラーパルさんっ!? 落ち着いてっ!!」
堪らずブラーウンが駆け寄る。
「ちょっ!? 汚ねぇよ、おっさん!!?」
涎の餌食になったカービィが叫ぶ。
「ブルルルル~、ブヒヒヒ~ン……」
馬面な顔で、馬のような興奮の仕方をし、更には馬のような鳴き声を上げるその姿は、もはやまんま馬である。
「その……、白い悪魔の事なのですが、子供という事以外には、何か特徴は無いのですか?」
うわおっ!? カナリー!??
こんなに興奮しちゃってる相手に対して、まだ追い討ちを掛けるのかねっ!?!?
「そうよね、服装とか……。あ、その光を放つ前に、何か言ったりしてなかったですか?」
うわおっ!? グレコ!??
あんたもなかなかに空気が読めないというか……、容赦なくぶっ込んでいくわねっ!?!?
「ブルルル~、ブルルルル~、特徴? 言葉だと?? 短い白髪に、血のように真っ赤な瞳……、背丈は私の半分ほどで、森にいるというのに嫌に小綺麗な格好をしていた……。手に……、手には、短い枝を……、枝だったか? 何かを持っていた、枝だ、枝のような物だった。そして、奴は何かを言っていた。何かを……、何を言っていたんだ? ……何か、分からない。何かを言っていた事は確かなのに、何を言っていたのか分からない。何か、知らない言葉だったか?? 意味の分からない、何か、言葉を、おぉお……、ブヒヒヒヒヒヒ~ン!!!」
きゃあっ!?
ヘッドバンキングやめてぇっ!!!
涎が汚いぃいっ!!!!
「ラーパルさんっ!? ラーパルさん落ち着いてぇえっ!!?」
再度頭をブンブンと振り回し始めたラーパルを、ブラーウンが体を張って止めようとする。
しかしながら、ラーパルの興奮は収まりそうにない。
「皆さん、一度外に出ましょう。僕たちがここにいると、収まるものも収まりそうにない」
マシコットの提案で、その場にラーパルとブラーウンを残し、俺たちは一度家の外へと退散した。
家の外には、人だかり……、もとい、馬面だかりが出来ていた。
興奮したラーパルの叫び声が、辺りに響いている為だろう。
ザッと見たところ、二十……、いや、三十近くいるな。
「うぁ~、ローブに涎が付いちまったぁ~」
ウゲ~っという顔をしながら、杖を取り出すカービィ。
「
短く呪文を唱えると、杖の先がピカリと光り、ローブの汚れた箇所が見る見るうちに綺麗になった。
すると、少し離れた場所にいた一人の馬面が、突然「ブヒヒヒ~ン!?」と大きく鳴いたかと思うと、血相を変えて、一目散に家の中へと入っていったではないか。
「なんだなんだぁ!?」
驚く俺たちを他所に、馬面人間達は一斉に同じ様な鳴き声を上げて、次々と逃げる様に家の中へと入っていく。
屋外に残っている者も、まるで化け物でも見ているかの様な驚愕の表情で立ち尽くしている。
「もしかして……、カービィさん、杖をしまって!」
そう言ったのはマシコットだ。
事態を即座に理解したカービィは、慌てて杖をローブの内側にしまう。
しかしながら、時既に遅し……
残っていた馬面人間達も、こちらを警戒しながら、みんなそそくさと家の中へ隠れてしまった。
「……これで、明らかになりましたね」
そうポツリと言ったのはカナリーだ。
「そうだね。白い悪魔の正体は、杖を持つ者……、即ち魔法使い。それも、他者に呪いを平気でかける、
マシコットの言葉に、カナリーとカービィが深く頷いた。
……え? そーさら??
え、何それ???
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