360:呑まれてますけど何か??
「ぼかぁ、村のみんらを守る為に、旅に出たんら! 悪魔を倒す為らんからないっ!!」
酒の入ったグラスを、カウンターテーブルにドンッ! と力強く置きながら、叫ぶ俺。
足が床に全く付かないような高さのカウンターの椅子に座って、軽く貧乏ゆすりをしながら、目は真っ赤に充血し、呂律は回ってない。
えぇ、そうですそうです、そうですよ。
ただ今絶賛、酒に呑まれてますよ?
呑まれてますけど何か??
何か問題でもありますかぁあっ???
いいじゃないですか、たまになんだから!
それに俺は、起きてるだけマシですよ!!
ほら見て、あそこ。
カービィが床で伸びてますね。
飲み過ぎの踊り過ぎで、天に召されたようですよ、ほほほほほ!!!
グレコとギンロはというと、先程の楽しいダンスタイムにも参加せずに、何やらテーブルでザサークと話し込んでいるようだが……
おいグレコ!
俺は許さないからなっ!!
そんな、ピ~でピ~な、ピ~ピ~ピ~してるに決まっている黒光りアダルトワニなんかとは、絶対にお付き合いさせないぞぉおっ!!!
言葉に出来ない思いを胸の内に抱きつつ、怨念のこもったような目で、俺はグレコとザサークを交互に睨んでいた。
「あらぁ~、村のみんなの為に旅に出るなんて……。見た目によらず、男らしいじゃな~い♪」
カウンターの向こう側にいる、筋肉ムキムキ、化粧けばけばのオカマ店長が、カクテルグラスをキュッキュと拭きながらそう言った。
彼の……、いや、彼女の名前はクリステル。
このお店のオーナー兼店長兼バーテンダーらしいのだが、見ての通り、正真正銘のオネェである。
種族はたぶん、人間なんだと思うけど……、人間とは思えないような、化け物じみた外見をしているな。
しかしながら、そんな外見なんて気にならないくらい、彼女は本当に優しくて優しくて……
聞き上手とはまさにこの事ですなっ!
先程からずっと、俺の絡み酒に嫌な顔一つせず、付き合ってくださっています。
「でそっ!? らのにさ!?? みんなして小さい小さい、むろく(無力)だむろくだとか、言うんらよっ!??? そらぁ、僕はむろくだよ? 悪魔はんひを前にしら時だっへ、地面を掘ふ事しかできなかっはし……、てか、地面を掘ふ事も出来なかっはわっ!!! でもは!? 仕方らくらいっ!?? だっへ、僕はぴぬもふなんらもんっ!!!! 仕方ないでそっ!?!??」
常日頃の鬱憤が溜まっていたらしい俺は、口を開けば愚痴ばかり吐いていた。
だって、仕方ないじゃない、ピグモルなんだもの。
普段みんなの前では、可愛らしくしておかなくちゃいけないんだもの。
ストレス溜まったって仕方がないじゃない。
「そうなのね~。けど、小さくて可愛らしいのも、モッモちゃんのチャームポイントだと、あたしは思うけれど♪」
クリステルの言葉に、俺の心は、いとも簡単に晴れやかになる。
「そ~なのっ! 僕は可愛いのがチャームポインほらのっ!!」
しかし、すぐさまマイナス思考がやってきて……
「けろね、それだけらと駄目なんら……。可愛いらけじゃ、みんなを守れないんらよ……。あ~あ~、僕にも魔法が使えたらら~。僕にも力があったらら~。僕らって、みんなを守りたいんらよ……」
一瞬で、ネガティブクソ鼠へと変貌する俺。
グラスの中に残っている氷を、指でクルクルと回す。
「あらあら、やっぱり男らしいのね♪ でも……、だったら、他に良いところを探しましょ? モッモちゃんに出来る事、得意な事、可愛らしい以外にもあるでしょう??」
クリステルに問われて、俺はわざとらしく「う~ん」と首を傾げてみせる。
そして、ニヤリと笑って……
「……あるよ。ぼかぁ、精霊を呼べるんらっ!」
ドーン! と胸を張って、そう言った。
「あら……、それは……、思った以上に凄いじゃないの」
唖然とするクリステル。
やはり、精霊を呼べる力を持っているという事は、並大抵ではないらしい。
ふふふん♪ と、良い気分になる俺。
そして、饒舌になった俺は、ペラペラと喋り出してしまう。
「そうれそ!? それにれ、ぼかぁ神様から貰っらアイテムで、いろいろ出来たりするんらよっ!!」
「神様から……、貰ったアイテム?」
「神様アイテムら! 姿を消しらり、瞬間いろうしらり……。この鞄なんれ、物が無限に入るんらっ!!」
「それってつまり……、えぇ? どういう事??」
「はっはっはっはっ! 凄いれそっ!?」
何故だか混乱し始めたクリステル。
しかし、そんな彼女の様子など気にも止めず、一通り自慢した俺は気持ちよくなって、そのままカウンターに突っ伏す。
ふわふわふわ~ん♪
ちょっと、眠気が……、襲ってきましたよぉ~♪
「それにしらって……、神様も神様らよ……。ぼかぁ、いったい何をすればいいんら? 世界の神々の様子を見へ来ひって……、んなのアバウトすぎるれそ?? もっほこう、ちゃんと指示して欲しいろねぇ……。適当なんらよ、あの人はほんとぉ~……、ばかぁ~……」
うわ言のようにそう言った俺の、両目の瞼がゆっくりと降りてくる。
「モッモちゃん……、あなた、もしかして……?」
クリステルのその言葉を最後に、俺は意識を手放して、深い眠りに落ちていった。
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