337:アーレイク・ピタラスの手紙
夕食後、俺とグレコとカービィは、ギンロの看病をロビンズに任せて、一階の談話室に集まった。
そこにはノリリアとアイビー、パロット学士の三人が待っていて……
「モッモちゃん、グレコちゃん……。二人に、話さなくちゃならない事があるポ」
かなり神妙な面持ちで、ノリリアがそう言った。
……だがしかし、もう俺は、話なんて聞いていられるような状態ではなかった。
もう、本当に、限界なんだ。
この四日間、飯もろくに食わずに、この見知らぬ土地を走り回っていたのだ。
疲れが出て当たり前である。
海で遭難し、危険だと言われる鬼族に出会って、グレコの暴走で火山の麓の泉を目指す事となり、それからそれから……
自分よりも何倍もでかい体を持つ、怖~い紫族という鬼族達に囲まれながら、やれ碑文の解読だ、怪物の討伐だとこき使われて、挙句の果てには二度と会いたくなかった悪魔と対峙。
決死の思いで戦い抜くも、仲間のギンロは重傷を負い、気持ち悪いけど良い奴だったアメコは消滅した。
もう、なんていうか……、たった四日間の話だというのに、(いったい何話書いたんだって作者が溜め息つくくらいの……)かなり濃い~い時間を過ごしたのである。
ようやくホッとできる時間、更には美味しい夕食の後となってはもう……
瞼がほら、自然と閉じてきてますよ……、すやぁ~。
「モッモ、しっかりなさい」
グレコが遠慮なく俺の背中を叩く。
ハッ! と目を見開いて、現実に引き戻される俺。
眠いの~、本当に眠いの~、寝させて欲しいのぉ~。
「まずは……、これを読んで欲しいのポ」
そう言ってノリリアは、字が沢山書かれた紙を三枚、俺とグレコの前に出してきた。
字が……、沢山……
今のこの状態で、これを読むのはかなりきつい。
だがしかし、一番下に書かれた文字を目にし、ちょっとばかし目が覚めた。
「これって……、アーレイク・ピタラスさんの?」
「そ、手紙ポ。これは実物を念写した物ポが、内容はそっくりそのまま同じポよ。グダグダ説明するよりも、これを読んでもらった方が……。二人なら理解できるポね」
俺とグレコは、ノリリアに差し出された手紙を読み始めた。
-----+-----+-----
愛するマティヘ
君とコルメンを残していく僕を、どうか許して欲しい。
当初計画していた予定が大幅に狂い始めた。
そこで、弟子たちには止められたが……、この手紙を送ることにした。
君にだけは、真実を伝えたいんだ。
私が今いるムームー大陸には、魔界と繋がる時空穴が発生している。
この世界と別の世界とを繋ぐ、とても危険な大穴だ。
原住種族である有尾人族、鬼族、馬人族、竜人族、有翼人族の間で争いが絶えないのも、どうやらこの時空穴の影響らしい。
そこで私は、弟子たちと相談した結果、この時空穴を破壊する為に、このムームー大陸を消し去ることにした。
消し去ると言っても、大陸を分断するだけだ。
土地は狭まるだろうが、原住種族達に対する被害は最小限で済むように考えている。
だが、もちろん大掛かりな作業だ。
無事に帰れる保証はない。
ギルド本部、および学会に報告したが、国王の許可を得るまでは行動するなと言われた。
あいつら、みんな怖いんだろうな……、国王にこの真実を伝える事が……
そもそも国王は、ムームー大陸の探索に否定的だった。
それが何を意味するのか……、マティ、頭の良い君ならわかるだろう?
しかし、もう待ってはいられない。
既に何匹もの悪魔が、時空穴よりこちらへと入り込んで来ている。
もう時間がないんだ。
私たちは、正しいと思う事をすることにした。
例えそれが、国家の意志に背くことであってもだ。
君も知っての通り、私は使者だ。
私の使命は、この世界の均衡を保つ事。
この時空穴は、放置すれば、この世界の均衡を必ずや乱す。
それだけは何としても避けなければならない。
この手紙が届いて後、一年間の内に、もし私が戻らなければ……
その時は、この手紙をビダ家のサルテル氏に届けて欲しい。
彼ならば、事の重大性に気付き、国に……、いや、国民に働き掛けてくれるはずだ。
魔界の魔族たちは確実に、こちらの世界へと進行してきている。
もしかすると、時空穴は一つではないのかも知れない。
世界の均衡を保つためにも、奴らの侵入は決して許してはならないんだ。
最後になったが……
マティ、僕は君を伴侶として迎えられた事を、人生最大の誇りに思う。
コルメンの事を頼んだよ。
僕は来世でもきっと、君を見つける。
VH2261.12.29 アーレイク・ピタラス
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手紙を読み終えた俺とグレコは、揃ってごくんと生唾を飲み込んだ。
先ほどまでの眠気は、俺の中から消えていた。
「この手紙が見つかったのが二年前。アーレイク・ピタラスの子孫であるジューチ・ピタラスが、山奥の別荘を売り払う際に、先祖代々の遺品を整理していた時に見つけたのポ。封が空けられていなかった事から察するに、アーレイクの妻であるマティは、この中身を見ないままにこの世を去ったのポね。そして、ジューチが中身を確認し、慌てて国王に提出したのポ。手紙の中に出てきた、ビダ家のサルテルという人物は、フーガの現国王であるウルテル様の曾々々祖父に当たる人物なのポ。この手紙が出てきた事で、兼ねてよりピタラス諸島の探索を希望していたあたち達白薔薇の騎士団に、クエスト決行の許可が下りたのポよ。その目的は、あくまでも島の探索、アーレイク・ピタラスの残した遺産を見つける事ポ。だけどもう一つ……。もし今現在も、アーレイク・ピタラスが遭遇した、魔界からの侵入者である悪魔が存在していた場合、直ちに奴らを消滅させる事。あたち達のプロジェクトには、残党悪魔の討伐も、最初から含まれていたのポ。それを、ここまで言わずにいた事を、許して欲しいポね」
そう言ってノリリアは、テーブルに額が付きそうなほど、深く頭を下げた。
アイビーもパロット学士も、同じように頭を下げた。
「じゃあつまり……、え? この先の島にも、その悪魔がいる可能性があるって事なの??」
「確定ではないポが、可能性は否めないポ。悪魔に寿命はないポから、五百年間生きていたって不思議じゃないポね」
「そんな……」
言葉を失うグレコ。
「おいらの予想じゃあ、たぶんいると思うぞ。そして、必ずおいら達を襲ってくるな」
カービィの言葉に、俺とグレコは驚き、ノリリア達は罰の悪そうな顔になる。
「えっ!? 何それっ!?? なんでよっ!???」
「グレコさん、イゲンザ島での出来事を覚えているか? 悪魔サキュバスであるグノンマルが、死に際にした事」
「グノンマルが……? あっ!?
「そう……。正直なところ、これは予測でしかねぇが、数百年に一度、腹を満たす為に眠りから覚めるはずの悪魔ハンニが、たった二十年ぽっちで自然と目を覚ますなんておかしな話だ。だけど、グノンマルの放った悪魔の号令を感じ取ったとしたらどうだ? 自分の体から心臓を奪い、この地から離れられぬように封印した憎むべきコトコは、時の神の使者であるアーレイク・ピタラスの弟子だった。その時の神の使者が再び、このピタラス諸島にやって来た。そうなれば……、復讐しようと思ったに違いねぇ」
……えっ!? ちょっ!??
グレコとカービィが、揃って俺を見る。
待って!? それって!?? えぇえっ!???
「も……、もしかして……。今回の事は全部、僕のせい……?」
俺の言葉に、ノリリア達三人は黙りこくる。
ま……、マジかぁ……
余所様の争いに巻き込まれたとばかり思っていたのに、悪魔を呼び覚ました元凶は、俺だったわけ?
なんちゅう申し訳ない事を……
顔面蒼白になって、俯く俺。
しかし……
「いや、おまいのせいじゃねぇよ、モッモ」
いつものようにヘラヘラと笑いながら、カービィがそう言った。
「そうね、モッモのせいじゃないわ。数百年に一回目覚めるなら、遅かれ早かれ、あいつは復活していたわけでしょ? だったら、結局は誰かが倒さなければならなかったんだし。モッモがここにいてもいなくても、眠っているあいつを叩き起こして、ノリリア達が倒していたわよ、ねぇ??」
グレコも、案外あっけらかんとした口調でそう言った。
「モッモちゃんのせいではないポ。悪いのは、可能性が低いにしろ、そういう事実を隠して、みんなをここまで連れてきてしまったあたちポね。正直、グノンマルが大した事なかったポから、あ~悪魔なんてこの程度ポかと、あまり気に留めてなかったポ……。けれど、ギンロちゃんが怪我を負ってしまった今、これ以上あなた達を危険な目に遭わせるわけにはいかないポよ」
ノリリアは、ギンロの怪我に対して、一際責任を感じているようだ。
俯き加減の暗い表情で、反省の意を示していた。
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