333:誇り高き戦士の戦い

「ねっ!? 袮笛ぇえぇぇ~っ!!?」


思わず叫ぶ俺。

袮笛の登場に、雄丸は咄嗟に剣を引き、祭壇から飛び降りた。

すると、雄丸の攻撃を防いだ袮笛の大剣が、パッと瞬時に消えたではないか。


えっ!? どこいったっ!??


目をパチパチしながら、袮笛の手元を見る俺。

そこにあるのは、見覚えのある、あの短剣だ。


あれはっ!? 破邪の刀剣!??


そう。

袮笛がその手に握っているのは、俺が志垣から託されて、勉坐に取り上げられて、最終的には砂里が持っていたはずの、あの破邪の刀剣なのである。

袮笛の手の中にあるそれは、溢れんばかりの紫色の光を、静かに讃えている。

あれがどうなって、さっきみたいな大剣になったのか、俺には皆目見当も付かない。

しかし……、完全に名前負けのただの短剣だと思っていたのに、どうやらそうではなかったらしい。

物は見かけによらないものだ。


「雄丸! 目を覚ませっ!! 雨の姫巫女を亡き者にしたとて、死者は蘇らぬ!!! ……それでもなお、命を狙うのか? 悪しき者に唆され、心を操られて、紫族の誇り高き戦士が、そのような有様でどうする?? 目を覚ませ、雄丸よ。目を覚ませぇっ!!!!」


雄丸に向かって叫ぶ袮笛。


なんだか……、ちょっと、人格変わってない?

祢笛って、そんな口調だったっけ??

ちょっぴり偉そうになってない???

それに……、まさか、こんな風に叫ぶような、熱い性格の持ち主だとは思わなかったな。


「モッモ! 大丈夫!?」


祭壇の後方から、聞き覚えのある声が聞こえて振り向くと、そこにはグレコと砂里の姿があった。


「グレコ!? 砂里も!?? ど……、どうしてそこにっ!?!?」


グレコと砂里は、思いっきりジャンプして、高い祭壇の上に飛び乗った。


なんちゅう跳躍力……、羨ましいぃっ!


「祭壇の広場前でネフェと再会してね。それからこの祭壇の裏に回って、息を潜めていたのよ」


ほうっ!? 何故っ!??


「姉様が、雄丸様が必ずここに来るって言って……。だから待ち伏せていたの」


ふむ! なるほどそうかっ!!


「グレコに砂里……。あれは、西の村の首長、雄丸なのか? 何故あのような風貌に……、はっ! 勉坐!? 勉坐は大事ないかっ!??」


桃子が慌てて祭壇下を見やる。

そこには、未だ苦痛に顔を歪める勉坐と、白い光を宿した両手で懸命に治療を続ける野草の姿があった。


「くっ……、私は、大丈夫です! それよりも、ここは危険です!! 姫巫女様、お逃げくださいっ!!!」


額に大粒の汗を浮かべながら、痛みに耐えながらも、勉坐は桃子にそう言った。


「逃げる……? な、何故じゃっ!? いったい、何がどうなっておるというのじゃっ!??」


困惑し、叫ぶ桃子。

すると……


「くくくくく……、はっはっはっはっはっ! 諸悪の根源が今更何を戸惑うっ!? 我ら紫族より雨を奪いし災厄の元凶が……、我ら紫族を滅ぼさんとする悪が、己の行いの意味を知らぬとでもぬかすのかぁっ!?? 許さぬ、許さぬぞ姫巫女……。その首へし折って、未だお前を信じ、騙されている皆々へ、真実を晒してやろうっ!!!!」


雄丸が、あらん限りの声で吠えた。

その声は、まるで超音波を発しているかのように、離れた場所にいる俺にまでビリビリと振動を伝えるほどにでかい。


ひぃっ!? こっ、怖いぃっ!??

化け物じみた風貌もさながら、笑いながらそんな事言うなんて恐ろしすぎるぅうっ!!!!


「わ、妾が……、雨を奪う……? 何を言って……??」


更に困惑する桃子。

その表情、様子から察するに、やっぱり桃子は雨を奪ってなんかいなさそうだ。

分かり切っていた事だけど、俺は今改めて再確認した。


「ちっ、雄丸め。邪悪なる者の小賢しい術にまんまとはまりおって……。それでも一つの村を治める首長かぁっ!? そのような小手先の呪いなど、己で解いて見せよっ!?? 雄丸ぅっ!!!!」


袮笛が再度叫んだ。


ちっ、て……、今舌打ちした!?

なんかやっぱり、袮笛、人格変わってない!??


「黙れっ! お前ごときに何がわかるっ!? 姫巫女がいる為に、東の首長へ媚びへつらわねばならぬ西の首長の気持ちが……、東に頭が上がらぬ故に、西の者共から苦言を受け続ける西の首長の立場が……。お前に分かってたまるかぁあぁぁっ!!!」


雄丸は雄叫びを上げながら、二本の剣を両手に構え、袮笛目掛けて突進してきた。


「ふん、器の小さな糞餓鬼め……。お前の気持ちなど知った事かぁっ!? その腕へし折ってやるっ!!!」


そう叫んだ袮笛が、手に握っている短剣を一振りしたかと思うと、そこには先程の紫色の光の大剣が姿を現したではないか。

よく見るとそれは、袮笛の握り締めている短剣から派生しているものだった。


やっべぇっ!?

リアルライトセーバーじゃないかっ!??

それも、紫族仕様の大剣版っ!?!?

かっけぇえぇぇ~っ!!!!!


興奮する俺を他所に、袮笛は大剣を手に、祭壇から駆け下りて……


ガキィンッ!


突進してきた雄丸と、激しい斬り合いを始めた。


ガキッ! ガキッ!! ガキィイィンッ!!!


火花が散るほどに、激しくやり合う雄丸と袮笛。

双方のあまりの迫力に、全てを忘れて目を見張る俺。


これほど凄まじい戦いを、俺は見た事がない。

互いの命をかけて、全力で剣を振るう、誇り高き戦士の戦いを……

モッモとして生まれてからは勿論の事、前世の記憶の中にあるそれも、ドラマや映画の中の出来事でしかなかった。

それが今、目の前で、起きているのだ。


やっべぇ~……、マジやっべぇ~……

こんなすげぇ~戦いを、一生に一度でも見れるなんて……

生きてて良かった! ヤッフゥー!!


俺がアホな感動に浸る一方、その背後では……


「雨を、奪う……? 紫族を滅ぼす?? そんな、妾が……??? 妾はただ、皆に雨を……、っ!? まさかっ!!? いや、そんな……。わ、わた……、もしかして、私は……????」


額に手を当てて、その視線を左右に泳がせながら、桃子はそう口にした。

そんな、かなり狼狽えた表情の桃子の前に、スッと膝を折ったのはグレコだ。


「姫巫女様……。西の村の首長オマルは今、悪魔ハンニの思操魔法で操られているんです。だから、妄言に耳を貸す必要はありません。ネフェが足止めをしているうちに、どうか……、雨を降らせてください」


グレコの真っ赤な瞳を、桃子の紫色の瞳がジッとみつめる。

まるでその目は、その昔、友としてこの地で生きていた今は亡きコトコを見ているかのような、とても切ない目だった。

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