332:桃子を守らないとぉっ!!!
「リーシェ! 僕を雨乞いの祭壇へ!! 桃子のとこまで連れてって!!!」
『も~、ほんっと頑固ねっ!? けど、危なくなったらすぐに海へ飛ばすわよ!?? それでもいいっ!???』
「いいっ! お願いっ!!」
『……ふふ、男らしいわねモッモちゃん♪ そういうところ、好きよ』
チュッ♡
「わぁあっ!? 何すんだよぉおぅっ!??」
リーシェに突然、ほっぺたにキスされて、俺は飛び上がった。
恥ずかしかったわけではなく、ただ単に、頬の毛がゾワゾワして驚いたのである。
『キャハ♪ 可愛いモッモちゃん♪ それじゃあ一気に行くわよ~! そぉ~れぇっ!!』
リーシェが両手をブンッ! と振ると、ブワァッ!! と風が俺に向かって押し寄せて……
「ふぅうっ!? ……お、……はんっ!??」
体がふわりと宙に浮いた感覚の後、すぐさま地面に足がついたかと思うと、目の前には桃子が……、踊っている!?
両手に鈴を持ち、リズミカルにシャンシャンと鳴らしながら、到底真似できないような難しいステップを踏み、桃子は踊っていた。
お面を取った素顔は目を閉じており、身体中から無数の水色の光の粒を放ちながら、一心不乱に舞を舞うその姿は、まるで女神のごとく神々しい。
はわ~……、美すぅい~……
思わずポカンと口を開け、見惚れる俺。
そんな俺と桃子の距離だが……、これがかなり近い。
ともすれば、踊る桃子の足や手が、俺の鼻先をかすめそうなほどである。
……と、いう事は。
俺が今立っているこの場所は、もしかして……?
「なっ!? モッモ!?? 何故そこにいるっ!?!?」
聞き覚えのある、怖~い怒鳴り声が背後から聞こえて、恐る恐る振り返る俺。
そこには勿論、額に青筋を浮かべたガチギレ野草と、一斉に俺を睨む巫女守りの皆様の姿がありました。
ひょえぇぇ~っ!?
やややっ!?? やっぱりぃいっ!???
リーシェが俺を運んだ場所は、確かに雨乞いの祭壇でした。
桃子が、雨乞いの儀式真っ最中の、祭壇の上……
うぉおいっ!? リーシェえぇぇ!!?
もうちょい考えてくれぇえぇぇっ!!!!
「のぉおぉぉっ!? ごめっ!?? ごめんにゃしゃいぃぃっ!!!!」
身体中から汗と涙を噴き出しながら、俺が慌てて祭壇から降りようとした、その時だった。
「姫巫女ぉ〜、覚悟ぉおっ!!!」
獣が吠えるがごとき雄叫びを上げながら、桃子に向かって白い刃の武器を投げつける者が一人。
顔に大きな切り傷を持つその男鬼が放った剣は、真っ直ぐ桃子に向かって飛んでいき……
「危なぁ〜いぃっ!?」
俺は思わず、桃子をかばおうと、全力でジャンプした。
ビュンッ! ……ドスッ。
鈍い音がして、俺は祭壇の上に倒れ込む。
目の前には、踊りを止めて、驚いた表情で俺を見下ろす桃子の姿が……
「モッモ!? どうしてここにおる!?? 何をしておるのじゃっ!?!?」
うぅ……、ねぇ桃子、そのセリフはおかしくなぁ~い?
あなたを守ろうとして、体を張った俺に対して、その言葉はおかしくなぁ~い??
もっとこう、大丈夫っ!? とか、妾の為に死ぬなぁ~!! とか、そういうのないの???
と、俺が考えていると、何やら別の場所が騒がしくなってきた。
「大丈夫かぁっ!?」
「早く手当をっ!!」
「あいつを取り押さえろっ!!!」
「勉坐殿! しっかりしろぉっ!!」
……ん? 勉坐??
俺はむくりと体を起こす。
視線を自らの体に向けると、そこにあるのはいつものまん丸なフカフカボディー。
怪我をしている様子もなく、服が破けているわけでもない。
つまり……、うん、どこも痛くない。
はて? 俺は桃子をかばって、飛んできた剣が体のどこかに刺さったはずでは??
身体中をいろいろと触って確かめる俺の目に、祭壇下で倒れている者の姿が目に入った。
桃子を守る為に自分の身を投げ出し、その右肩に、飛んできた白い刃の剣がズブリと刺さったまま倒れている、その人物は……
「……べ、勉坐ぁあっ!!?」
紛れもなく、小動物愛好家でベジタリアンの、あの勉坐だった。
勉坐は意識があるようで、小さく呻き声を上げながら、痛みに耐えている。
すぐさま野草が駆け寄って、勉坐の肩から剣を引き抜いた。
「ぐあぁあぁぁっ!!」
痛みのあまり、叫ぶ勉坐。
あわわわわ!
そんな、容赦なく思いっきり引っこ抜くなんて……
見てるこっちも痛いぃ~!!
野草は、白い光を放つ両手で、血がダラダラと流れ出ている勉座の肩をギュッと握りしめる。
「あぁああぁぁぁっ!!!」
かなりの荒療治に、勉坐が再び叫び声を上げる。
ひぃいっ!? あんなの痛いに決まってるぅ!!
もうちょっと優しく手当てしてあげてよぅっ!!!
すると、少し離れた場所で、別の悲鳴が上がり始めた。
桃子目掛けて剣を投げた張本人が、こちらに向かって突進してきているのだ。
それをなんとか止めようと、巫女守りの者達が盾になるも、悲鳴を上げながら次々と薙ぎ倒されていく。
……出来れば、違う者であって欲しかった。
誰も、東の村に入った彼を見ていないと言っていたから、だから……
本当は、違うんじゃないかって、思ってたのに……
「姫巫女ぉおっ! こっちへ来いぃいっ!!」
大きく口を開いて牙を剥き出しにし、巨大な白い刃の武器をブンブンと振り回しながら、こちらに向かって走ってくるその男は……
紛れもない、西の村の首長である雄丸だ。
だが、その姿形、形相は、俺の知っている雄丸とは随分違っている。
日に焼けた肌には、禍々しい漆黒の刺青が浮かび上がり、身体中の血管がボコボコと浮き出ている。
紫色だった瞳は真っ白に染まっていて、金色の髪は上へ上へと逆立っていた。
そして何より恐ろしいのは、身体中から黒い炎を立ち上らせている事だ。
自分の体すら燃えてしまいそうなほどの地獄の業火に身を包みながら、それでもなお雄丸は叫ぶ。
「姫巫女ぉおっ! 雨を返せぇえぇぇっ!! 俺たちに雨を返せぇええぇぇっ!!!」
次々に薙ぎ払われていく巫女守りの者達。
そしてとうとう、雄丸は祭壇のすぐ前まで来てしまった。
「いっ!? 桃子!! 逃げようっ!!!」
咄嗟に桃子の手を取り走り出そうとするも、桃子は恐怖のあまり、目を見開いたまま体が固まってしまって、一歩も動けない。
やばいっ!? 桃子を守らないとぉっ!!!
今度こそ俺は、桃子の前に立った。
ぷるぷると震える両手を広げ、ガクガクと倒れそうになる両足を踏ん張りながら、桃子を守る為に立ち上がった。
「雄丸!? やめろっ!!」
「目を覚ませ! 雄丸っ!!」
祭壇の脇にいる、野草と勉坐が叫ぶ。
しかし雄丸は、祭壇の上へと続く階段をゆっくりと登り……
「姫巫女……。長年の紫族の苦しみ、その命でもって償え。死ねぇえええぇぇっ!!!」
我を失った雄丸は、巨大な白い刃の剣の柄を両手で強く握り締め、頭上高く振り上げた。
もっ!? もう駄目だぁあぁっ!!?
俺は死を覚悟して、ギュッと目を瞑った。
ガッキィイーーーーーン!!!
低い金属音が響き渡り、辺りがシーンと静まり返る。
身体中に痛みが走る事を覚悟していたが……、またしても、どこも痛くない。
……なに? どうなったの??
恐る恐る目を開けてみると……
「モッモ。遅くなってすまない」
俺と雄丸の間で姿勢を低くし、雄丸の巨大な白い刃の剣を、紫色の光の大剣で受け止める、美しくも逞しい鬼族の女……、袮笛の姿が、そこにあった。
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