305:おいらと一緒に行こう!
黒い岩山の、紫族の村を駆け抜ける、桃子率いる巫女守りの皆々様。
それぞれ手には薙刀を持ち、鋭い目は揃ってキッと前を見据えていて……
少しばかり坂となっているこの道を、脇目も振らずに真っ直ぐ走り行く姿は、もはや戦に赴く武士のごとし。
その中に、一匹の小さきピグモル有り。
面妖な一人の女子に抱えられ、情けない顔で周囲を見渡しておりまする。
……何故にこんな事に?
俺ってば、いったいどうしてここにいるのかしら??
なんだかかんだか、いろいろ分かんなくなっちゃいそう。
成す術なく、ただただ砂里に運ばれて行く俺の目に映ったのは、黒い岩を積み上げて造られた紫族特有の家の、その窓からこちらを見ている幾人もの鬼達の姿だ。
村の家々には、謀反に参加していない……、というか、参加出来そうもないひ弱な女子供や、大人しい感じの年寄りの鬼族達が多数残っている。
このただならぬ事態に、みな不安げな表情をこちらに向けていた。
……うん、君達の気持ちは痛いほどわかるよ。
やっぱり外者なんて村に入れちゃいけなかったんだって、そういう感じだよね。
昨日まで平和だったはずの村が、余所者が来た事でこんなにも荒れちゃったんだもの。
そんな風に考えていたとしても無理はない。
……でもさ、これだけは言いたい。
悪いのは、老齢会の勘違いじじい、毒郎でっす!
僕達は悪くありませんっ!!
むしろ、あなたたち紫族を、恐ろしい怪物達から助けようとしてるんですぅっ!!!
僕達のことを、悪者だと勘違いする事だけはやめて頂きたいぃっ!!!!
流れて行く景色の中、いくつもの鬼族達の顔を眺めながら、声には出さず、俺は心の中で叫んでいた。
桃子率いる巫女守りの皆さんは、勉坐の家とは違う方向へと走って行く。
畑らしきものが周囲に広がる畦道を駆け抜けて、他より明らかに木々が生い茂る森に入ったかと思うと、前方に何やら見た事の無い……、いや、見た事のある奴が現れた。
「お! やっと来たかぁっ!? おせぇえぞ、モッモ~!!!」
「くわぁっ!? カービィ~!??」
森の中の道にポツンと落ちて……、いや、立っているのは、一見するとピンク色の毛玉のような……
いつもと変わらずヘラヘラと笑う、緊張感ゼロのカービィだった。
カービィの手前で、桃子を乗せた巨大アンテロープは足を止め、それと同時に野草たち巫女守りの皆さんも止まった。
「そなたは……、モッモの仲間か? 志垣様は!? 何処におられるっ!?? 無事かっ!?!?」
野草がカービィに詰め寄る。
「ん? シガキ?? ……あ~、サリさんと一緒に来たあの皺くちゃ爺ちゃんの事か!? 爺ちゃんは、ちょっとばかし怪我しちまってな。今おいらの仲間のエクリュって奴が手当てしてるよ」
エクリュは、パカポ族という種族のアルパカ人間で、衛生班だから白魔法が得意なはずだ。
「怪我をなされたのかっ!? 何処にっ!?? 祭壇におられるのかっ!?!?」
カービィの言葉に、血相を変える野草と、ざわつく巫女守りの皆さん。
「みんなあっちにいるよ。その爺ちゃんが、おまいさん達がこうやって乗り込んで来るだろうって心配したから、おいらがここで待ってたんだ。もう戦いは終わっている。だから武器を下ろしてくれ。とりあえず、落ち着いて……。みんなの所まで、おいらと一緒に行こう!」
ニカッと笑う見るからに無害なカービィに対し、野草と巫女守りの皆さんは、その手に握りしめていた薙刀を背中へと戻した。
どうやら、事態は既に収束しているらしいと、みんな納得したようだ。
ふ~、良かったぁ~。
一時はどうなる事かと……
騎士団のみんなと毒郎や戦闘団の皆さんが戦っている中に、更に桃子や巫女守りの皆さんが突っ込んで行くなんて、想像するだけでも恐ろしかったのよ。
「良か……、ったぁ~……」
そう言って、大きく息を吐いたのは他でもない砂里だった。
脱力気味に俺を地面に下ろし、両手を膝につく。
「ほんと、良かったねぇ~」
俺も、ホッと胸を撫で下ろした。
野草の指示に従って、ゆっくりと歩き始める巫女守りの皆さん。
桃子を乗せた巨大アンテロープも、その後に続いて歩いて行く。
「よぉ~、モッモ! 無事で何よりだぁっ!!」
ヘラヘラと笑いながら、カービィが俺に近付いてきた。
……いつ見ても、ほんと緊張感ないよね、君は。
まぁでも、ちょっと安心したわ。
ここ数時間、ヘビーな展開が続いていましたからね。
君が緩んだ顔でヘラヘラ笑っているという事は、みんなも無事なんでしょうよ。
「カービィ……。砂里から話を聞いた時は驚いたよ。いったい何したの? みんなは?? グレコはどうなったのさ???」
「ふふふふふ……。まぁ、見てのお楽しみだっ! 傑作だぞぉ~? ふふふ……、行こうっ!!」
嫌らしい笑みを浮かべて笑うと、歩けと言わんばかりに、カービィは俺の背を押した。
……傑作? 何が?? なんか作ったの???
わけがわからないままに俺は、巫女守りの皆さん御一行と共に、森の中にあるらしい雨乞いの祭壇を目指すのだった。
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