302:あんまりまとまってないよっ!?
な~んか、すげぇ展開になってきたなぁ……
砂里の幼馴染で死んだはずの灯火は、実は生きていて、両親と南の村へ移り住んだものの、何らかの理由で異形な怪物となってしまった、てわけか。
『灯火は心根が真っ直ぐな優しい子であった。何故あの子が親殺しなどしようか……。我は、五百年前の夜霧と同じく、灯火があの忌まわしき魔物に唆されたとしか思えぬ……』
忌まわしき、魔物……?
「それは……、灰の魔物の事ですか?」
俺の問い掛けに、アメフラシと桃子は互いに目を合わせ、頷き合った。
「時の神の使者モッモよ。妾は今一度、そなたにお願い申し上げよう。どうか、これからこの地に現れるであろう異形な怪物を見つけ出し、灰の魔物を倒してたもれ」
……え? なんか、サラッと内容変わってない??
「異形な怪物と、灰の魔物もですか? えっと……、やっぱりその……、えぇ??」
異形な怪物はまた現れる可能性はあるにしても、灰の魔物って……、やっぱりまだ生きてるの?
二十年前に南の村が滅び、山火事が起きたのも、灯火だけのせいじゃなくて、死んだはずの灰の魔物が関係しているってこと??
……や、ややこしやぁ~。
『これは、我と桃子、志垣しか知り得ぬ、正史にも載っておらぬ事なのだが……。そもそもこの地に雨が降らぬのは、邪悪なる者の力が働いている為なのだ』
ほう? 邪悪なる者??
つまり……、それは……
「誰かが故意に、この島から雨を奪っているって事ですか?」
「左様。昔、琴子が妾に話してくれた事があるのじゃ。琴子の師匠殿が、かつての大陸を分断したのは、強大な魔物よりこの世界を守る為であったとな」
ほほう? 世界を守るたぁ~またこれ……
壮大な話ですなっ!?
『コトコの師であるアーレイクは、大陸を分断する事に成功した。しかし、少数ではあるが、奴らはこちらの世界に残ってしまったのだ』
……奴ら?
え、ここへ来て、また別の悪役が登場っ!??
『奴らとは、邪悪なる意志を持つ魔物……。俗に、悪魔と呼ばれる、異界の者達の事だ』
あぁんっ!? 悪魔ぁあぁっ!??
「琴子の話では、その悪魔という輩のうち一匹が、この島から雨を奪っているのではないか、という事であった。しかし……、事の真相を確かめる前に、夜霧が何者かに唆され暴走し、琴子は亡き者となってしまった……。夜霧は優しい子じゃった。間違っても、己と仲間を犠牲にして、あのような凄惨な行いをするような奴では決してなかったのじゃ……」
悔しそうに、唇を噛む桃子。
『生き残った者達の話では、夜霧の他に、全身を炎で包んだ魔物が共に村を襲ってきたという。全てを灰に変える、地獄の業火をその身に宿しし魔物……、それ即ち、灰の魔物と呼ばれる所以だ。コトコが灰の魔物を倒し、異形な怪物となった夜霧を自らに取り込んで、全ては解決したのではないかと我らは思うていた。だがそれ以降も、桃子が雨を呼ばぬ限りは、この島には一滴の雨も降らなかったのだ。それが意味する事は……、この島の雨を奪い続けている何者かが、まだ何処かで生きているという事だ。おそらく、コトコの案じていた、異界から来たりし悪魔の仕業……。つまるところ我らは、その悪魔と灰の魔物は、同一ではないかと考えている』
ひゃあぁぁっ!?
悪魔って、悪魔ってあの……
イゲンザ島の、有尾人達をずっと操っていたグノンマルも、サキュバスとかいう悪魔だったよなっ!??
え、なになに……、どういう事っ!???
「少し、混乱しているようじゃな、モッモよ。妾が話をまとめようぞ……。五百年前、我ら紫族を襲いし悪魔、即ち灰の魔物は、琴子によって手負いの状態となった。しかし、絶命するには至らず、長年の間、何処かで息を潜めていたのじゃ。傷を癒し、力を蓄えながらな。そして二十年前のあの出来事……。紫族の中でも強力な呪力を持つ灯火を使って、灰の魔物は再び我らの前に姿を現した。しかし、理由はわからぬが、またしても奴は姿を消した。そして今、歴史が再び繰り返されようとしているのじゃ」
あんまりまとまってないよっ!?
つまり、灰の魔物って奴が一番悪いのねっ!??
そうなのねぇっ!?!?
『泉守りの者が、火山の麓の泉で見たという古の獣は、おそらくコトコが目にしたものと同じものだろう。我が考えるに、あれは警告だ。あの泉は、紫族の始祖である者が眠りし聖なる泉。泉に宿る紫族の守り神とも言えよう始祖の意思が、迫り来る危機を知らせているのだ。しかしあの声は、力のある者にしか聞こえぬものなのだろう。紫族は、みな呪力を持ち合わせてはいるが、その強弱は個々で大差がある。故に、古の獣を目にしても、弱い呪力しか持ち得ぬ泉守りの者達には、始祖の意思の声は届かなかったのだろう。だがしかし、古の獣が再び姿を現したという事は、それ即ち、紫族に危機が迫っているという事……。再び灰の魔物が現れ、紫族の子らの中から、異形な怪物が産まれてしまうであろう』
えっと……、えっと……、えぇ~?
もう、何が何やら、さっぱりぽっかり……
つまり、何が、どうなって……
これからどうなっちゃうのぉおぉっ!?
頭がパンクしそうな俺は、目をシパシパさせる。
もう、身体中が臭い事とか、まだちょっと湿っている事とかは、この際どうでも良くなっていた。
「……モッモよ、妾と共に、火の山の麓にある聖なる泉へ向かおうぞ!」
はんっ!?
急に何言ってんのさ桃子っ!??
「ど!? どうしてそうなるのっ!??」
「そなたは時の神の使者じゃ。即ち、始祖の意思の言葉を聞けるのではないか?」
えっ!? でも……
「僕……、魔力は皆無だよ?」
「なにっ!? 皆無となっ!??」
お互い無言になる、俺と桃子。
……そうなのです。
俺は、時の神の使者だし、精霊も呼べちゃうけど、魔力だけは皆無なのです。
『それでも、行ってみる価値はあるはずだ。コトコも、あの泉で始祖の言葉を聞いていた。あの時は間に合わなかったが……。今ならまだ間に合うやも知れぬ』
えぇ~……、でも、魔力皆無よ?
「む~ん……、良い! 案ずるなモッモ!! 妾はそれなりの呪力を持ち得ておる。加えて、雨子との長年の付き合い故、半分は精霊のようなものじゃ。妾ならば、始祖の言葉も聞けよう!!!」
え~、なら一人で行けばいいじゃんか~。
魔力皆無の俺なんて……、あ、じゃあさ……
「僕の仲間は、みんな魔力持ってるよ……。みんな一緒に行けばいいんだっ!」
ピコーン! と閃く俺。
そうだよ! 何も俺一人で行くことないないっ!!
カービィとか……、魔力バカほど持ってるじゃないかっ!!?
「なるほど。では、皆を伴って参ろうぞ。そろそろ志垣が皆を解放しておろう。妾と共にここを出て、村にいる志垣に話を付けに参るぞ!」
何故だか、桃子はちょっぴりウキウキしている。
『しかし桃子……。良いのか? 外に出るとお主は……』
ボソボソと呟くアメフラシ。
「大事ない! 案ずるな雨子!! このように小さきモッモが頑張っておるのじゃ、妾も少しは協力せねばなっ!!! さて……。そうと決まれば準備をせねばの」
そう言うと桃子は、そそくさと社に戻って行った。
『モッモよ、一つ頼みがある……』
「はい? 何でしょう??」
この期に及んでまだ頼み事とは……
何故に俺は、こうも頼み事ばかりされるのか……
よくもまぁみんな、こんなに小さくて非力そうで、可愛いだけが取り柄なピグモルの俺に向かって、次々と頼み事しますよねぇ~?
何なの?? パシリ???
『桃子が無理をせぬように、よく見ていてやってくれ。桃子が無事にここへ戻れた暁には……、お前が望む物を、授けようぞ』
俺が望む物?
そんなの、平穏と平和と安寧……、あっ!?
「それって!? コトコの遺産っ!?? アーレイク・ピタラスの墓塔の鍵の事っ!?!?」
『……何に使う物なのかは我も知らぬ。ただ、時の神の使者が現れたならば渡してくれと、頼まれた物がある故な』
うぉおぉぉっ!?
マジかっ!??
ここにあったのかぁあぁぁっ!?!?
「……今、くれたりして?」
『それはならぬ。全てが終わってからだ。ご褒美とはそういうものであろ?』
くぅうぅぅっ!?
このっ、この気持ち悪い巨大軟体生物めぇえっ!??
「わ……、わかりました。頑張りま〜す」
渋々頷いた俺は、フーン! と、鼻から大きく息を吐いた。
やるべき事は大体わかったぞ。
結局、最初の目的に戻ったわけだ。
火山の麓にある泉へ行く。
そこで古の獣……、つまり、紫族の始祖の意思とかいうよくわかんない声を聞いて、異形な怪物の出現を阻止し、でもってどっかから湧いて出るはずの灰の魔物とかいう悪魔を倒すっ!!!
……はぁ~、やる事多すぎるよまったくぅ~。
と、俺が心の中でボヤいていると……
『ぬ? 何故だ?? 何故あの子が一人で……???』
アメフラシが、訳のわからぬ言葉を発した。
なんだなんだぁっ!?
またトラブルかぁあっ!??
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