249:キラーン☆
銀色の糸に絡まれて、地面に転がったままの鳥型獣人を見つめる俺とグレコとカービィ、そしてキノタン。
まさか、本当に……?
こ、この、目の前に倒れているのが、イゲンザ・ホー……
「助けてくれよ」
「ぎゃあぁああっ!??」
「きゃあっ!?」
「なっ!? 生きてんのかっ!??」
「ノココッ!??」
急に、カッ! と目を見開いて、こちらに向かって助けを求めた鳥型獣人に対し、俺はビビって悲鳴を上げて……、ちょっぴり漏らしてしまった。
鳥型獣人の青い瞳は、目つきがとても鋭くて、まるで肉食獣のよう。
その目が、驚き固まる俺たちを順番に見て……
「なぁ、助けてくれよって」
もう一度、助けを求めてきた。
「と、とりあえず……。助けましょう」
「……ん、んだな」
グレコとカービィは、戸惑いつつも、倒れたままの鳥型獣人に近寄っていく。
どうやら、体に絡みついた銀色の糸のせいで、身動きが取れないらしい。
グレコが鳥型獣人の大きな体をそっと抱き起こして、カービィが絡まった糸を解いていく。
俺は、ドキドキとうるさい小さな心臓を抑えながら、少し離れた場所からその様子を見守った。
「ふぅ~、いやはや……。ありがとう。助かったぜ!」
体が自由になった鳥型獣人は、かなりカッコつけた感じでそう言った。
その言い方は、なんていうかこう、ちょっと……、ナルシストな雰囲気が漂っている。
立ち上がったその姿は、梟そのものだった。
ただ、翼の先に、一見すると羽の一部と見間違いそうなほど小さな、茶色い四本指の手がある。
そして、グレコよりも大きなその体には、かなり年季の入っていそうな、レトロな雰囲気の、焦げ茶色のお洒落な衣服を身に纏っていた。
「あの~、おまいさんはもしかして~……。イゲンザ・ホーリー?」
……カービィよ、歴史的な人物であるかも知れない相手に対して、呼び捨てはどうかと思うぞ。
「ほぉ? 俺の事を知ってんのかい?? いかにもそうさ、俺はイゲンザ・ホーリーだ!」
キラーン☆ という効果音が似合いそうな、アイドルスマイルを見せるホーリー。
……うん、やっぱり、ナルシストなんだね。
「マジか~。えぇ~。じゃあ……、時渡りを成功させたって事か!?」
「ノンノン。時渡りとは少し違うね。俺は、この繭の中で眠りについていたのさ。それが今、封印を解かれて、こうして目覚めたってわけだ!」
またしても、キラーン☆
「うはぁ~、それでもすげぇなぁ~」
カービィは、ほとほと感心するような声を出して、ジロジロとイゲンザ・ホーリーの体を観察し始める。
「えっと……。よく分からないんだけど……。あなたがその、歴史的にも有名な、大魔導師アーレイク・ピタラスさんの一番弟子、イゲンザ・ホーリーさんご本人なのよね?」
いまいち話がこんがらがっているらしいグレコが、念押しに尋ねる。
「おぉ、美しいエルフのお嬢さんじゃないか~。いかにも、私がイゲンザ・ホーリーである、マドモワゼル」
グレコに向かって、跪くイゲンザ・ホーリー。
けっ、こいつ……
ナルシストだけに留まらず、女好きときたかっ!?
キャラが濃すぎるんだよ!!
どっちかにしろぉっ!!!
しかし、梟似の鳥型獣人などにトキメクはずもないグレコは、構わず質問を続ける。
「じゃあ、その……。眠っていたってさっき言っていたけど……。五百年間、ずっと……?」
グレコの言葉に、イゲンザ・ホーリーがピシッと固まった。
「ご、ごひゃ……、五百年、だと……?」
想定外だったらしい、経過してしまった時の長さに、その事実に、イゲンザ・ホーリーは言葉を失った。
「そうか……、五百年も経っていたとは……」
自らの魔法で、何処からともなく出した椅子に腰掛けて、項垂れるホーリー。
カービィから、アーレイク・ピタラスの大陸大分断の話と、経過した年月の長さを詳しく聞かされて、ちょっぴり参ったような顔になっている。
……あ、ホーリー本人が呼び捨てで構わないって言ったんだからね。
カービィみたく、勝手に呼び捨てにしているわけじゃないからね。
「五百年も眠り続ける魔法なんて聞いたことねぇぞ~。さすがアーレイク・ピタラスの一番弟子だなぁ!」
ヘラヘラと、歴史上の重要人物をタメ口で褒めるカービィ。
何様だよお前は……
「でも、ホーリーさんの話を聞く限りでは、こんなに長い年月、眠り続ける予定じゃなかったみたいね」
ホーリーは、グレコにも椅子を出してあげた。
……いや、グレコにしか、椅子を出さなかった。
……けっけっけっ!
「ん~まぁ~、どれくらいの期間、眠り続ける事になるのかって話は、師匠にも聞いてなかったからな……。でもまさか、五百年間だなんて……。魔法王国フーガは今も健在か?」
「あぁ、ちゃんとあるよ。おいら達はその、フーガの王立ギルドの連中と一緒に、ここの調査に来たのさ」
「なるほど、そうだったか……。しかし……。まさか、師匠の言っていた時の神の使者が、ピグモル族の子供だったとはなぁ……」
俺を見て、薄ら笑うホーリー。
おいっ!? なんだその顔っ!??
ピグモル馬鹿にしてんのかぁっ!???
「あなた、ピグモルの事を知っているの?」
「知っているも何も……。ピグモル族というのは、古代アストレア王国跡地に住む、かなり達の悪い種族じゃないか。王国跡地には、金銀財宝がわんさか眠っている。それを気紛れに掘り出して、金に換えて……。金が手元にある間は一切働かずに、食っちゃ寝してるぐうたらな一族だろう? 繁殖力が強くて、そこら中にワラワラ湧いてて……」
えぇ~、何それ~?
ちんぷんかんぷんにもほどがあるんですけどぉ~??
「まぁ……。ピグモルって、五百年前はそうだったのね……」
やだグレコ。
そんな目で俺を見ないでよ。
そんな、生ゴミ見るような目、やめてよ。
「五百年前はって事は、今は違うのかい?」
「あぁ。つい先月までは、絶滅したと思われてたよ」
「なっ!? 絶滅っ!?? ……あんなにワラワラいたのに、何故???」
そのさ、ワラワラっていうの、やめてくんない?
なんか、虫みたいで気持ち悪いじゃない。
「とにかく……。あなたがイゲンザ・ホーリーさんご本人である事は認めるわ。その上で聞きたいのだけれど……。モゴ族が、勇者から賜った使命があるのよ。モゴ族っていうのは、ここにいるキノタンの事ね。時の神が使わせし調停者を、この神殿の祭壇まで案内するっていう使命。ここには何か、その調停者に恩恵をもたらす物が眠っているはずなんだけど……。ホーリーさん、あなたご存知ないかしら?」
グレコの言葉にホーリーは、グレコの肩にちょこんと座るキノタンに、ようやく気付く。
「おぉ、君が封印を解いてくれたんだね。ありがとう。感謝するよ、モゴ族の勇者くん!」
……ん? あれ??
「ノコ? 我が、勇者??」
キノタンの頭の上には、クエスチョンマークが浮かぶ。
「え、何を言っているの? 違うわよホーリーさん。勇者から使命を賜ったのがモゴ族ってだけで、キノタンは勇者なんかじゃないわよ??」
グレコ……、勇者なんかって……、なんかって言わないで。
グレコは知らないだろうけど、俺の前いた世界では、勇者は絶対的に最強な存在だったんだからね、うんうん。
「ほぅ? 使命を授けたのが勇者だと?? それは……。長い年月が過ぎた為に、伝承が誤って伝わっているんだな。真実はこうだ。俺の封印を解く為に、金の剣を授かりしモゴ族の若者は、勇者となる……。つまり、使命を授けた俺が勇者なんじゃなくて、使命を受けて、その金の剣を継承し、封印を解いた者が勇者なのさ。だから、君は今日から、勇者なんだよ、キノタンくん!」
キラーン☆ としてそう言ったホーリーに対し、グレコの肩の上のキノタンは、その目をキラキラと輝かせていた。
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