238:覚悟ぉっ!!

ドンドコドンドン、ドコドコドン

ドコドン、ドコドン、ドンドコドン

ドコドコドンドド、ドドドドドン


太鼓の音がする方へと、走る俺たち四人、……プラス肩の上のキノタン。

集落の中はガランとしてて、有尾人一匹も見当たらない。

何処かに潜んでいるのか、それとも……


すると前方に、オレンジ色に燃え上がる、巨大な炎が見えてきた。

集落の中心である開けた場所に、キャンプファイアーのようなどでかい組み木の焚き火があって、その周りにわんさか有尾人達がひしめいている。

その数およそ……、三百……、いや、四百……、いやいや、もっとかも……


夜の闇に紛れながら、俺たち四人は、少し離れた場所にある高床式の建物の陰から、奴らの様子を伺う。


太鼓を打ち鳴らす者、踊りを踊る者、地面に平伏している者、そして……

中央の焚き火の前にある、玉座のような大層立派な椅子に座る、一匹の有尾人の姿が見えた。


「あいつですノコ。あいつが、アッフェ族を束ねる首長、邪猿グノンマルですノコ」


「……う、えっ!? あいつがっ!??」


俺の肩の上で、前方を小さく指差すキノタンの言葉に、俺は驚いた。


そこにいるのは間違いなく、あの宴の席で、俺を誘惑してきた妖艶な雰囲気の美しい有尾人のお姉さん!

カービィが着ていた鳥の羽を使った民族衣装を身に纏っており、大きな耳には赤い宝石のイヤリングをつけていて、魅力が大幅アーップ!!

醸し出すお色気は留まるところを知らず、ムンムンムンムン……、周りの有尾人達は男も女もみ~んなメロメロで、俺の心も君にロックオン!!!


……じゃなくてぇえぇっ!!!!!


「はっ!? 危ない危ないっ!?? 危うくあの美しさにやられるところだった……、ふぅ~……、ん? あぁっ!???」


なんとか自我を保った俺の隣で……


「美てぃ~、お姉たまぁ~」


目が、ハートチカチカのカービィ。


「なんて魅力的な女性ポよ~」


ほわ~んと、夢見心地なノリリア。


「きゅ、きゅきゅ、求婚を! 申し込ま、ままま!! ねばっ!!!」


鼻息荒く、むふむふするギンロ。


「いけないノコ! 皆様、しっかりするノコォ!!」


俺の肩からパッと飛び上がって、宙に浮いたキノタンは、俺たち四人の頭上で体をプルルン! と震わせて、傘の下から赤い胞子をばら撒いた。

それらはスーっと俺たち四人の鼻に吸い込まれて……


「もがっ!? 痛いっ!??」


「鼻がピリピリするポゥッ!?」


「あっひゃっひゃっ!? へ~っくしゅんっ!!???」


「ガホッ! ガホッ!! 何をしたのだキノタン!?? ガホホッ!!!」


キノタンの胞子を吸い込んだ俺たちは、鼻に強烈な痛みを感じて、ゴホゴホとむせる。


「グノンマルは、魅惑の術を使いますノコ。我が胞子で皆様をお守り致しますノコ!」


うぅ……、確かに、さっきまでの浮ついた気分はどこかへ飛んで行ったけど……

だけどキノタン、これ……、鼻がピリピリ痛くて、鼻水が出てくるよぅ!?


「ポポポ、魅惑の術? 有尾人は魔力を持たないはずポが……。ポポ、あの耳飾りが怪しいポね」


小さな鼻を真っ赤にしながら、ノリリアが言った。


「むむ? 確かに、あの耳飾りからは只ならぬ妖気が……、は、は、ぶえ~っくしゅんっ!!」


豪快にくしゃみをして、長い鼻水をダラーンと垂らすカービィ。

……汚い、早く拭きなさい!


「あやつが邪猿グノンマル……、ぬ? あそこを見ろ!? 皆が捕まっておるぞっ!??」


鼻水を垂らすまいと、ぐしゅぐしゅと鼻をすすりながらギンロが指差す先に、縄で手足を縛られ身動きが取れずにいるみんなの姿があった。


オーラス、パロット学士にモーブ、ポピーにレイズンにロビンズ、ブリッグにチリアン。

それに、北ルートを行っていたはずのアイビー班のみんなもいるところを見ると、白薔薇の騎士団ほぼ全員が、有尾人達に捕まってしまっているようだ。

しかも、みんな一様に締まりのない顔をして、魅惑の術とやらを使うグノンマルに対し、完全にほだされてしまっている。


そんな中ただ一人、鋭い視線をグノンマルに向ける者が……

赤い目に茶色い髪の……、グレコだ!

かなり毛色が抜けてきている為に気付かなかったが、あれは間違いなくグレコ!!

なのだが……


うわぁ……、ありゃ~めっちゃ怒ってるな。


焚き火の前で偉そうに座っているグノンマルを、グレコはこれでもか! ってくらいに鋭く睨みつけている。

その目はまるで、体が自由になりさえすれば、お前なんか全身の血を一滴残らず吸い尽くしてやるぅっ!! とでも言いたげな……

かな~りキレておられる目だ。


そりゃそうか、高貴なエルフ族であらせられるグレコ様が、猿共に捕まって縄で縛られているなんて……、屈辱以外の何物でもありませんものね。


ガクブルガクブル


「ポポ、みんなを助けるポよ。あの様子じゃ、みんな正気を失っているポね。キノタンちゃん、みんなの近くに行って待機しててポ。あたちが合図を送るポね、そしたらみんなに、さっきあたちたちにしたようにして欲しいポよ」


「ノココ! 承知致しましたノコ!!」


ピッ! と小さな手で敬礼して、キノタンはサササッ! と姿を消した。


「ノリリア、あれやんのか?」


カービィがニヤリと笑って尋ねる。


「あれしかないかポね。もう許さないポよ~。あたちに怪我させただけに留まらず、みんなをあんな風にするなんて~。文字通り、地に埋めてやるポね~」


おおうっ!? ノリリアの目がメラメラと燃えているぅっ!??

てか、あれって何さっ!???


「よっし! おいらも手伝うぞっ!!」


やる気まんまんといった雰囲気で、腕まくりをするカービィ。


「我は何をすれば良い?」


「ポポ、少し準備に時間がかかるポね。奴らが妙な動きをしないか見張っていて欲しいポよ。もしみんなに何かしようとしたら、ギンロちゃん、体を張って止めてポ!」


「承知!」


魔法剣の柄に手を掛けて、ギロリとグノンマルを睨むギンロ。


「えっと……、ぼ、僕は?」


俺はその……、何をすれば?


「モッモちゃんは……、奴らに見つからないように、ここに隠れていてポ!」


「なっ!? ……わ、わかりました!!」


一瞬、俺にも何か役割をくれ!? って思ったけど……

危ない危ない……、俺は、世界最弱の種族、ピグモルでした。

粋がれば最後、有尾人達にプチッとやられて、俺の冒険はお終いです。

だから、言われた通り……

みんなの足手まといにならぬよう、ここでおとなしく息を潜めていますよ!


「カービィちゃん、行くポよ!」


「ガッテン承知の助っ!!!」


カービィとノリリアのピンクコンビは、タタタッ! と暗闇へ駆けて行った。

すると……


ドンドコドンドン、ドドンッ! ドドンッ!!


このタイミングで、何故か太鼓の音が鳴り止んで、踊りを踊っていた者達も動きを止めて、全員がグノンマルに向かって平伏した。

そして、焚き火の前の玉座に座っていたグノンマルが、ゆっくりと立ち上がり、捕らえられているみんなの方へと歩き出す。


「グノンマル様~! 私を選んでぇ~!!」


「いやっ! 俺を選んでくださいぃ!!」


口々に、そんな事を叫ぶ騎士団のみんな。


なんともまぁ……、魔法王国フーガの王立ギルドと名高い、白薔薇の騎士団のメンバーだというのに、情けない……

手元に携帯でもあれば、動画を撮って、後で見せてやりたいくらいの情けなさだよほんとっ!


そんな中で、一人だけ顔付きの違うグレコを、グノンマルは指差す。


「その女が最初だ」


グノンマルの言葉に、周りに控えていた有尾人達数人が、グレコを担いで炎の前まで運んで行く。


まさかっ!? 火炙りにするつもりぃっ!??


「ぎ、ぎ、ギンロ!? たすっ!?? 助けないとぉっ!???」


隣にいるギンロの腕をゆさゆさと揺する俺。


「まだだ。あやつら、グレコをどうする気だ?」


なんっ!? そんな悠長なぁっ!??


アセアセする俺を他所に、ギンロは有尾人達の動きを注視する。

すると奴らは、グレコを火の中へ投げ入れ……、ることはせず、玉座の前へとその身を下ろした。

再び玉座へと戻ったグノンマルは、いやらしく足を組み、舐め回すようにグレコを見る。


「ふふふ、私の前でも正気を保っていられるとは、よほど高貴なるエルフらしい……。気に入った。お前の魂を、私の一部として迎えてやろう」


そう言って、グノンマルは立ち上がり、グレコに向かって歩き出す。


ひぃっ!? もう駄目だっ!??

ギンロ!!?? 助けないとぉおぉっ!?!??


俺の思いが通じたのか、ギンロはザッ! と立ち上がり、二本の魔法剣を手に、焚き火を囲んで平伏している有尾人達の群れに向かって全速力で駆けて行く。


行けギンロ! 敵の目が向かぬ内に!!


「グノンマル! 覚悟ぉっ!!」


ばっ!? なんでそんな事言うかなぁっ!??


大声を出した事で、グノンマルを含め全ての有尾人達の視線がギンロに向かう。


ギンロのバカァ!?

見つかったじゃないかっ!??

どうするんだよぉおっ!???


「敵だぁっ!」


「捕らえろぉっ!!」


一斉に、戦闘モードとなる有尾人達。

それでもギンロは躊躇せず、有尾人達の群れに突っ込んで行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る