237:そうなんだけど……

「オーラスは最初、この島に存在する有尾人達の村は、七つあると報告してきたポ。だけど、自分の目で空から確かめられたのは六つ……。不思議に思って、有尾人の代表者に再度尋ねると、村は六つだと言われたらしいポね。つまり、七つ目の村の存在を、有尾人達は隠したかった……。その理由は一つしかないポ。有尾人達は最初から、あたち達をそのグノンマルとやらに差し出す為に、陥れる気だったのポ」


なっ!? なんっ!? なんだってぇっ!??


「だけど……、じゃあどうして、おいらとモッモとおまいは、井戸の底なんかに投げ入れられたんだ? そのグノンマルって奴、魔力が欲しいなら、おいらとおまいのも欲しいって思うだろうよ。それにモッモは……、魔力ねぇけど……、別に戦えそうにも見えねぇし、プチッと殺しちまった方が早いと思わなかったのかなぁ??」


おぉおいっ! カービィ!!

言っていいことと悪い事があるんだぞっ!??

プチッとてっ!???

なんちゅう恐ろしい事言いやがるんだこの野郎っ!!!!!


「これはあたちの推測に過ぎないポが……。おそらくあたちとカービィちゃんは、魔力が強すぎると判断されたのポ。正直、騎士団のみんなを軽んじるわけではないポが、あたちとカービィちゃんの魔力は、みんなのものと比べると桁違いポね。方法はわからないポが、あまりに大きな魔力の持ち主だから、逆に危険だと判断されたのだと思うポよ」


「ふむ……。ならば、モッモは何故だ? カービィの言うように、一思いにやってしまった方が邪魔にもなるまい」


おぉおいっ! ギンロ!!

一思いにやってしまった方が~って……、何をどうやるってんだよぉっ!??

お前まで俺を殺す気かぁあぁっ!???

お前は俺の守護者じゃなかったのかよぉおぉぉっ!!???


「これも推測ポが……。モッモちゃんは荷物が全て無事だったポね?」


「……え!? あ、はいっ!!」


ノリリアに問われて、ハッと我に返り、答える俺。

カービィとギンロの言葉に、我を失いかけてたわ……


「モッモちゃんが身に付けているものは、そのほとんどが神様から貰った魔法アイテムポ。即ちそれらは、持ち主の意思なくして持ち主の体からは剥がれないようになっているのポね」


ほう? そうなのかね??


首を傾げる俺の手を取り、おもむろに指輪を外そうと試みるカービィ。

しかし、指輪はピクリとも動かない。


「ほんとだ、外れねぇや」


ほほう? そうだったのだね。


「おそらくポが、その現象を、有尾人達は異質だと思ったのポ。モッモちゃんの事を理解不能な力を持つ者と認識して、首長であるグノンマルの元へ連れて行く事を避けたのポね」


ほほほう? つまり俺は、知らず知らずの内に、神様の魔法アイテムに助けられていたわけか。

神様ありがとう!!!


「謎が解けた所で、これからどうする? 我はすぐさま出立するにも問題ないが……。モッモとカービィは疲れておるのではないか?」


……うん、もうヘロヘロのクタクタ。


「おいらは平気だぞ?」


えっ!? カービィまじかよっ!??


三人の視線が、一気に俺に向けられる。

三人共、お前次第だぞ、さぁどうする、疲れてないよな? って感じの目だ。


「しかし、ここから邪猿グノンマルの治める村までは、おおよそ半日以上歩かねばなりませんノコ。それでも皆様、今すぐ出発されますノコ?」


うぇえぇっ!? 今から半日ぶっ通しで歩くのっ!??

それはちょっと……、いや、絶対に無理。


「よっし! じゃあ今すぐ行こうっ!!」


えぇっ!? 俺まだ何にも言ってないぞっ!??


「そうポね。仲間の命がかかっているかも知れないポよ。のんびり寝てなんかいられないポね」


今の今まであんた寝てたでしょうがぁっ!???


「さすれば皆、我の背に乗るが良い。全速力で走ろうぞ」


無理ぃいぃ~!

この疲れた状態で全速力のフェンリルに乗るなんて自殺行動ぅうぅっ!!


そそくさと、出発の準備を始める三人。

俺は、両手の拳をギュッと握りしめ、小さな体をプルプルと震わせて……


「ちょ……、ちょっと待てぇ~いっ!!!」


あらん限りの声で、そう叫んだ。

余りに大きな声で、余りに陳腐なそのセリフに、三人の動きがピタッと止まる。


「いっ、今からっ! このまま、その……、助けに行くなんてっ!! ぼっ、僕は無理っ!!!」


勇気を振り絞って、そう言った。


「んな事言っても……。みんなが危険なのかも知れねぇんだぞ?」


うっ……、それは、そうなんだけど……


「もし、グノンマルとやらの目的が魔力を喰らう事なのであれば、グレコもその対象だ。モッモよ、仲間の命を守ろうとは思わぬのか?」


うっ……、それも、そうなんだけど……


「モッモちゃん……、疲れているのはわかるポが、事は一刻を争うポね。今すぐ向かわないと……。明日の朝にここを出て、夕方近くにそのグノンマルの所へ辿り着けたとしても、みんな既にやられてしまっているかも知れないポよ?」


うっ……、ぐっ……、だったらいっそのこと……


「じゃっ! じゃあっ!! 風の精霊を呼ぶよっ!!!」


だぁあぁぁっ!?

言ってしまったぜ俺ってばっ!??


「ポポ? 風の精霊??」


「お、いいなそれ。精霊に連れてってもらうって事か?」


「ふむ、確か……、リーシェ殿、という名だったか? 彼女であれば、我らを運ぶ事も容易かろう」


うぅう……、しまったぁ……

つい口を突いて出てしまったぁ……

本当は、ヘロヘロのクタクタなのにぃ……


『お呼びかしら? モッモちゃん♪』


聞き覚えのある声に、後ろを振り返ると……


「げっ!? もう来たのっ!??」


風の精霊シルフのリーシェが、半透明の体をふわふわと宙に浮かせて、ウフフと笑っていた。






「いいっ!? 本当に一瞬で、そのグノンマルとかいう奴の前まで移動しちゃうからねっ!?? みんな、戦う準備はできてるっ!???」


簡易テントを片付け、焚き火を消し、右手に万呪の杖を握りしめ、左手にエルフの盾を装備した俺は、念押しでみんなに尋ねる。


「いつでもオッケーポ!」


白のローブに身を包み、杖を手に持ったノリリアが答える。


「久しぶりの戦闘だなぁっ!? 派手に暴れてやるぜぇっ!!!」


珍しく、魔導書と杖を手に持ったカービィは、妙にワクワクした雰囲気でそう言った。


「我が剣の前に立ちはだかるものはなし……。モッモよ、行こうぞっ!!!」


既に二本の魔法剣を鞘から抜き出しているギンロは、いかにも魔獣らしい、飢えた肉食獣のような目つきをしている。


「助太刀致しますノコ。囚われた方々の解放は我にお任せあれ!」


キノタンも、何やらヤル気満々で、金の剣を手に準備万端だ。


「よしっ! じゃあ、行こうっ!! リーシェお願いっ!!!」


もうこうなりゃやけっぱちだこの野郎っ!!!


『キャハハ! 飛ばすわよぉ~!? そぉ~れぇっ!!!』


ギュンッ! と突風が吹き付けて、体がグンッ! と引っ張られたかと思うと、俺たち四人とキノタンは、瞬く間に、見知らぬ集落の入口へと辿り着いていた。


暗闇の中、点在する松明の光に照らされるのは、生い茂る木々と、その間に造られた高床式の建物にある、数え切れない程の、様々な生き物であっただろう者達の頭蓋骨……

あまりのおどろおどろしさに、周囲に視線を泳がすも、何処を見てもそれら頭蓋骨と目が合ってしまう。

そして聞こえてきた、太鼓の音。


ドンドコドンドン、ドコドコドン

ドンドコドンドン、ドコドコドン


血の匂いに混じって漂う、嗅いだ事のある良い匂い。

これは……、間違いない。

乾き始めたグレコが発する、ブラッドエルフ特有のあの甘い匂いだ。


「嫌な予感がするポね……。みんな、行くポよっ!」


「おぉおっ!!!」


ノリリアを先頭に、俺たちは、集落の中へと駆け出した。

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