224:火

「あああんっ♪ もっときつくぅ~んっ♪」


頬を赤らめながら、嬉しそうな声を出すカービィを無視しつつ、俺とギンロはカービィを縛り上げた。

縄の代わりに使ったのは、カービィが装備していたムチである。

まさか、持ち主の体を縛る為に使われるとは、このムチも思ってなかっただろうな……

しかし、こうでもしないと、カービィはずっとお尻を岩壁に擦り付け続けそうだったのだ。

致し方ないだろう……


ムチで縛られたカービィは、満足そうな笑みを称えて大人しくなり、ちょこんと地面に座った。


ふぅ~……、とりあえず、奇妙なものは視界から消えた。

さて、これからどうするかな……


「グレコはなんと?」


ギンロが尋ねてきた。


「あ、うん、東に向かえってさ。西の出口には有尾人達が待ち構えているらしいから……」


「ふむ……。ここへ来る途中、何匹か奴等を見かけた故、斬り捨てておいたぞ」


うへぇ~、その全身の返り血はそういう事かぁ~。


「そう、なんだ……。ありがとう……?」


「うむ。して、ノリリアは無事なのか?」


「あ、そうだ、ノリリア!」


未だ目を覚まさないノリリアに駆け寄る俺。

ノリリアは、俺の毛布に包まれて、スヤスヤと心地好さそうな寝息を立てている。

汗をかいてる様子はないし、熱もちゃんと下がっている。

とりあえず、カービィの治癒魔法はちゃんと効いているらしい。


「大丈夫そうであるな。襲撃を受ける前、ノリリアが一番に異変を察知したのだ。それ故、猿どもが最初に手を掛けた」


猿どもって……、まぁギンロから見れば有尾人は猿か。


「ギンロ……、何があったの? その、僕……、全然覚えてなくて……」


お酒と料理でお腹いっぱいになってて、ほとんど何にも覚えてないんです、ごめんなさい。


「うむ……。村の外でミュエル鳥と共に休息していた我を、ノリリアが呼びに来たのだ。何か嫌な予感がする故、そばに居て欲しいと言ってな。我がお主らの眠る建物に赴き、しばし経った時、奴等はけしかけて来た。グレコと話し込むノリリアに対し、突然小型のナイフを投げ付けてきたのだ。ノリリアはそれを胸に受け負傷。事前にノリリアから警戒するよう伝えられていた為、我らはすぐに応戦した。しかし……、モッモ、お主とカービィだけはいくら名を呼ぼうとも目覚めず、そのまま奴等に連れ去られ……。負傷し身動きが取れずにいたノリリアも共に連れ去られてしまった。残りの者たちは、猿どもと戦いながらも、なんとか村から逃げおおせたものの、仲間を棄て置く事など出来ぬ。グレコの案で、我とグレコが村へと戻り、手薄になりし村より女を攫って、お主らの居所を吐かせたのだ。グレコは己が助けに行くと言ったが、あまりに危険故、置いてきた。匂いを辿り森へ入ると、数匹の奴等に出くわした。そのうち一匹を残し、全てを斬り倒した。そして、残りの一匹にここを案内させて、用済みとなった故そやつも斬り捨て、目の前の穴へと飛び込み……。我は今ここにいるのだ」


……うん、なるほど、すっごくよく分かったよ。

てかさギンロ、君がこんなに長く喋ったのって、ほぼほぼ初めてじゃない?

なんていうか、まともに話してくれて、とても嬉しいんだけど……

でも、その、有尾人を斬り捨てたって言う時に、かなりのドヤ顔するのはやめないかい?

一応、殺人を犯しているわけだからさ、ね??

さすが魔獣フェンリルと言うべきか……

敵にはほんと、容赦ないよね。


「して、ここから東へ向かうと?」


「あ、うん。ちょっと待って、羅針盤で確認するね」


首から下げている、望みの羅針盤を見つめる俺。

さすがに、周りが暗くて針が見えにくいな……

何か、明かりを灯さないと。


背後で大人しく縄に縛られているカービィをジッと見つめるも……


「うふふ♪ うふふふ♪」


恋する乙女のような笑い方をしていて、とてもじゃないが役に立ちそうにもない。


よ~し、こういう時こそ、精霊の出番だ!


「火の精霊サラマンダー! バルン!!」


大きく声に出して呼んでみる俺。

かなり久しぶりだから、来てくれるか心配したけど……


『あ~い。呼んだうぉ?』


相変わらず、かなり眠そうな雰囲気で、暗闇の中からサラマンダーのバルンが姿を現した。

その尻尾には既に赤い火が灯っているので、バルンの周りだけがパッと明るくなった。


「バルン! 良かった来てくれて!!」


『あ~い』


バルンは、間抜けな顔でニコッと笑った。


「ほう? これが火の精霊サラマンダーか」


ん? あれ?? ギンロ、会った事なかったっけか???

ん~、あ~そういや、バルンを呼ぶのは邪神に堕ちたカマーリスを倒した時以来だし、あの時は確か……、ギンロはカマーリスと戦っていたっけか……

いやでも、その後で一緒にタイニーボアーの肉を食ってたでしょうが。

ギンロめ、なかなかに記憶力が悪いな。


ギンロは顎に手を当てて、ジロジロとバルンを観察する。

それはまるで、獲物を選別している獣のような目つきだけど……、幸いにして、いつも通りぼや~っとしているバルンは、ギンロの行動を気にも留めていない様子だ。


「えっと……、明かりが欲しいんだけど……。そっか、火を灯す何かが必要だよね。でも……、こんな所に落ちている物なんて……、おっ!?」


辺りをキョロキョロと見回す俺は、すぐ近くの地面に、ちょうど持ちやすそうな木の棒を発見した。

しかも、どうやら松明らしく、先端に油を染み込ませたボロ切れが何重にも巻かれている。


どうしてこんな物がこんな所に?

しかしまぁ、これはラッキーである!


「よし! バルン、これに火を付けて!!」


俺が持つのにピッタリな大きさのその松明を拾い上げて、バルンに向ける俺。


『あ~い』


バルンが尻尾の火を松明に近付けると、柔らかく温かい、赤い炎が松明の先に灯った。

パチパチと音を立てながら、揺れる炎が洞窟内をやんわりと照らし出す。


「よっし! これで大丈夫!! ありがとうバルン!!!」


『あ~い』


そう言うとバルンは、ボォッ! と燃え上がり、姿を消した。


さてさてさて、これで手元がよく見えますね~。

松明に灯した炎を頼りに、望みの羅針盤の指針を見る。

神様から貰った魔法アイテムの一つ、望みの羅針盤は、心を読み取ったかの如く、俺が望む物の方角を指し示してくれる超絶便利なアイテムである。

東西南北を記した文字盤の上には針が二本あって、銀の針は常に北を指し、金の針が俺の望む物を指し示す。

今現在、金の針は、銀の針から時計回りに九十度の位置に止まっており、ちょうど時計でいう三時の位置を指し示している。

と言うことは、銀の針が北を指しているわけだから、三時の位置にある金の針は……、東を指しているわけだ。


よ~っし! これで大丈夫だっ!!

なんとか東に向かって洞窟を進んで、グレコ達に合流しなくちゃ!!


「さぁ! 行こうかギンロ!!」


「うむ! 承知!!」


眠るノリリアを抱えたギンロと、松明と望みの羅針盤を手にした俺は、ムチに縛られたままニマニマと笑うカービィを連れて、暗い洞窟の中を歩き始めた。

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