★ピタラス諸島第一、イゲンザ島編★
211:ヴェルドラ歴
トガの月の五日。
心地よい海風が吹き抜けて、本日も海上は晴天なり~。
「ふ~ん……。なっかなか釣れねぇなぁ~」
つまらなさそうに甲板の柵に腰掛けて、長い針糸を垂らし、水面を睨むカービィ。
ただ今、人生……、もとい、マーゲイ生初の釣りを実践中。
まさか、その歳まで一度も釣りをした事がないだなんて、かなりの驚きだったが……
よく考えれば、生まれ故郷であるオーベリー村は海からは程遠いし、ビーシェント魔法学校も内陸にあるという事なので、仕方がないちゃ仕方がないのかも。
けれども……
「なぁ~、モッモ~。いつまでこうしてりゃいいんだぁ? おいら、もう飽きちまったぞぉ~??」
先程からブツブツと、カービィは文句ばかり垂れている。
ジッとしている事が苦手な性分であるからして、心底釣りに向いてないよな~、と俺は思うのであった。
白薔薇の騎士団の皆さんと、モッモ様御一行を乗せた商船タイニック号は、この広~いランダーガン大海を絶賛南下中。
風は穏やか、波も静かで、連日凪続きである。
航海士であるライラは、常時風魔法を発動し続けているので多少疲れた顔をしているものの、航海は至って順調だと言っていた。
他の乗組員達はというと、見張りの者以外は暇なのか、俺とカービィの隣で同じように釣り糸を垂らす時間が多くなっていた。
白薔薇の騎士団の皆さんは、各々にやるべき事が山積みらしく、あまり部屋から出て来なかった。
それでも、ご飯時やお風呂の時間を共にして、ほぼ全員と一通り話せたし、なんなら仲良くなれた気がする。
特に、飼育係であるモーブとヤーリュとは、俺たち昔からの友人でしたっけ? と思えるほどに、かな~りフラットに話せるようになりました。
兎にも角にも、そうこうしているうちに、港町ジャネスコを旅立ってから早五日が経とうとしていた。
船長ザサークの言うことには、今晩辺りに最初の目的地であるイゲンザ島へと到着するとのこと。
うぅ~……、ワクワクドキドキの冒険が始まるぞぉっ!!!
「モッモ! 糸引いてるぞ!!」
「おっ!? きたきたきたぁ~!??」
思いっきり釣竿をブワッ! と振り上げて、俺が釣り当てたものは……
プラーン、プラーン
「なっ!? だっはっはっはっ!! 海藻じゃねぇかぁっ!!?」
茶色く、ワカメのような海藻の束。
それが空中を揺れていたかと思うと、ペタリと俺の顔に引っ付いた。
きゃあっ!? 気持ち悪いっ!!!
本日も船上は平和なり。
カービィの大笑いと、ダイル族達の笑顔が広がった。
……けっ、海藻なんていらねぇやいっ!
ポイポイポーイだぁっ!!
この五日間、俺は、非常に快適な船での生活を送っていた。
船酔いは特にしなかったし、ホームシックにもなっていない。
心も体も快調快調!
心配していたグレコとの相部屋は、慣れればなんて事なかった、と言うか、むしろ二人きりで良かったかもなんて思うようになっていた。
というのも、夜、とても静かに眠れるのだ。
あまり気にしないようにしていたのだが、カービィはいびきがかなり煩いし、ギンロは歯ぎしりが酷いのである。
共に長旅をするうちに慣れた気になっていたけれど、いざ別々の部屋で寝てみると、なんと熟睡出来る事でしょう。
寝不足を感じた事はなかったものの、翌日の朝の目覚めの良さは、ここ最近で一番心地良いものであった。
船での一日はだいたい以下の通りだ。
朝起きて、食堂で朝食を頂き、午前中はノリリアの部屋でお勉強をし、午後はモーブとヤーリュと一緒にミュエル鳥のお世話をしたり、ダイル族の皆さんと釣りをしたり、時には食堂で白薔薇の騎士団の団員達と談笑したり、カードゲームやチェスのようなボードゲームをしたりもする。
夕食後は大きな浴場でのんびりと一日の疲れを落とし、その後は食堂でお酒を飲むも良し、歯を磨いて眠るも良し。
とにかく、一日一日が、とても楽しくて有意義な時間で溢れていた。
ノリリアは、俺とグレコを自室に招いて、いろんなことを教授してくれた。
そのほとんどが、これから先、世界を旅していく上で必須とも言える、世界の常識というやつだった。
中でも、最も基本的な月日の流れと時間の流れ、そして通貨や単位について、少し説明しようと思う。
この世界にも暦というものが存在していて、中でもポピュラーなのが、アンローク大陸のヴェルハーラ王国の建国を起源とする、その名もヴェルドラ歴だ。
なんでも、そのヴェルハーラ王国というのが、現存する大国の中で一番歴史が長い国らしく、世界議会という各国の王が集まる会議に参加している国々は全て、そのヴェルドラ歴を基準として暦を数えているらしい。
ヴェルドラ歴によると、一年は三百六十五日、十二の月で分けられている。
大部分は前世と同じ感じなのだが、月の読み方が違ったり、一月分の日数が異なっていたりした。
それを学ぶにあたって、俺はノリリアから貰った勉強ノートに、以下のように書き記した。
-----+-----+-----
1月:イヤーヌの月
2月:フェブロの月
3月:マルティスの月
4月:アープリの月
5月:メイオスの月
6月:ユーニの月
7月:ヨルヨの月
8月:オグストの月
9月:ジュエの月
10月:トガの月
11月:ノヴァの月
12月:ディサムの月
一月は三十日間。
ディサムの月のみ三十五日ある。
そして、四年に一度、ディサムの月に三十六日目が追加され、その日は「ヴェルドラの日」と呼ばれている。
-----+-----+----
呼び方と各月の日数は違うけれど、概念的にはほぼほぼ前世と同じだと俺は認識した。
時間の流れも読み方も、天候が東から西へと巡る事も、今まではなんら気にしていなかったけれど、改めて考えると、この世界は前世の俺が存在していたであろうこことは別の世界ととてもよく似ている、という事が判明したのだった。
ただ、このヴェルドラ歴を使用していない国も勿論ある。
俺の故郷、テトーンの樹の村もそうだったけど、一年の長さなど全く気にしない、春夏秋冬を感じるままに生きる種族、あるいは町、国もあるということなので、全世界共通の暦というものは厳密には実在しないのだそうだ。
また、国によっては自国の年号を別に定めているところも多いという事で、暦はあくまで目安に過ぎない、という事も併せて伝えられた。
ついでに言うと、週や曜日の概念は無いらしいので、暦は数字のみで表されるとの事だった。
そして、今現在はというと、ヴェルドラ歴2815年のトガの月の五日。
文献などに記載する際には、《VH2815.10.5》と書くそうだ。
(ただ厳密には、使われている文字は上記の物ではなく、この世界の公用文字であるヴァルディア語である)
また、ヴェルドラ歴以前の歴史もあるので、それは別の暦で数えられてきたとも教えてくれた。
けど、ここで説明すると長くなるので、割愛しよう。
他にもノリリアは、世界通貨であるセンス硬貨と紙幣の事、長さや重さを計る単位のことなどを詳しく教えてくれた。
センスについてはだいたい考えていたものと同じだったので説明は割愛するが、この世界通貨もやはり万国共通ではないとの事だった。
まぁ、それに関してはさほど驚きはなかったかな。
前世でも、いろんな国のいろんな通貨があったしね。
それに、俺やグレコの故郷のように、貨幣が存在しない国も多々あるとの事だったので、これから旅をする中で、もし何か珍しいアイテムや素材を見つけた際は取っておくといいと言われた。
貨幣のない国では、ほとんどが物々交換で経済が成り立っているのである。
即ち、価値のあるものを所持していないと、いくらお金があっても苦労する事になる、との事だった。
長さと重さの単位については、その読み方を教わった。
長さはトール、重さはラムという単位を用いるらしいのだが……
1トールは前世でいう1メートル、1ラムはそのまま1グラムの計算で大丈夫そうだ。
ちなみに、それらを基準として、更に小さな単位には「ヘル」という言葉をつけ、大きな単位には「マス」という言葉をつけるらしい。
具体的に説明すると、1ヘルトールは1センチ。
そして、100ヘルトール = 1トール、これはつまり1メートル というわけである。
そして、100トール = 1マストール = 100メートル……、だから、1キロメートルを表すのは、10マストール、となる。
ここが、前世とは少し違うかな。
ラムもだいたい前世のグラムと同じ感覚で、1ヘルラムは1ミリグラム、1ラムは1グラム。
1マスラムは100グラムなので、10マスラムが1キログラムと相当する。
とまぁ、ノリリアに説明されても分かりにくかったので、実際に俺の体を測って貰う事にした。
ノリリアに、メジャーの様な巻尺状の紐と、天秤の様な体重計で測って貰ったところ、俺の身長は67ヘルトール、体重は90マスラム、であった。
つまり、身長67センチ、体重9キログラム、ということである。
……はぁ、知ってはいたけど、俺って本当に小ちゃいな~。
マストール、マスラムの上に、「サイ」という更に大きな単位があるらしいのだが……
ややこしいので、とりあえずあるという事だけを覚えておくに留めた。
ノリリアは他にも、世界の歴史や現存生物、世界の成り立ちや国の所在地、更には俺の旅の目的である神々の事についても教えてくれた。
けどこれも、ここで説明するには長過ぎるので、割愛しよう!
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