206:自己紹介 (その3)

「白薔薇の騎士団の皆さん、ありがとう! 次は!! 今回の航海に急遽飛び入り参加する事となった、虹の魔導師カービィ御一行だぁっ!!!」


「おぉ~!」


「カービィさ~んっ!!」


ザサークの言葉に、白薔薇の騎士団の皆さんからどよめきと歓声が上がった。

パチパチパチと、拍手喝采の中、俺たち四人は甲板の中央へと向かう。

みんなのその熱い視線から、めちゃくちゃ歓迎されているし、めちゃくちゃ期待されてる雰囲気を感じ取る俺。


……だがしかし、胸中はやや複雑である。


カービィ御一行ってなんだよ?

なんでカービィがリーダーなんだよ??

リーダーは俺なんだぞぉっ!??


そんな心の叫びを押し殺し、さも俺たちのパーティーのリーダーかのように、ザサークに抱えられて箱の上に立ったカービィを、俺は下からジト~っとした目で見上げた。


「皆さんこんばんは! この度は、アーレイク・ピタラスの墓塔探索という歴史的プロジェクトに参加させて頂けるという事で、我々一同、大いに感謝しております!! ありがとうっ!!! 全力を尽くして、探索に協力しますっ!!!! よろしくぅっ!!!!!」


声高らかに宣言し、大きな大きな拍手を送られるカービィ。

さぞ気分が良いのでしょうね、かなりお顔がドヤ顔になってますよ。


……くぅ、俺のパーティーなのにぃっ!!!


「では、メンバーを紹介しよう。皆さんご存知の通り……、おいらはマーゲイ族のカービィ……。虹の魔導師カービィだぁっ!!!」


「ぃよっ! カービィさぁ~んっ!!」


うるさいよデブッチョ! おだまりっ!!


近くでヤンヤヤンヤと囃し立てるあの真ん丸獣人をキッ! と睨みつける俺。

勿論、彼が小さな俺の視線に気付くことなどない。


「そして、弓の名手、グレコ!」


カービィに名前を呼ばれて、スッと一歩前に出るグレコ。


「初めまして。ブラッドエルフのグレコです。よろしくお願いします」


凛とした笑顔を見せて、綺麗なお辞儀をしてみせる辺り、さすが次期巫女様だな~っと感心する俺。


周りはというと、ブラッドエルフという言葉にみんなが騒ついた。


「えっ!? ブラッドエルフってあの……」


「確か……、ハイエルフから分裂した種族よね?」


「凄い。本物初めて見た……」


みんな一様に驚いて、目をパチクリさせながらグレコを見ている。

そんなみんなの様子に臆する事なく、グレコは背筋をシャンと伸ばして、笑顔のままで立っている。


「次に、双剣の使い手、ギンロ!」


ギンロは、これでもかってくらいに胸を張って、ズイッと前に出た。


「我が名はギンロ。アンローク大陸の北西に位置するビーストキャバレイより参った、フェンリルである。我が剣の前に立ちはだかる者は全て、完膚なきまでに斬り捨てて見せようぞ!」


大声でそう叫び、サッと剣を鞘から出して、夜空に向かって高く掲げるギンロ。

駄目だ、中二病が絶賛発病中だなこりゃ……


周りはというと、フェンリルという言葉にみんなが凍り付いた。


「ふぇ……、フェンリル、だって……?」


「本当なのか? 何故こんな所にいるんだ??」


「で、でもほら……、カービィさんのお仲間だし、大丈夫……、よね?」


みんな怯えた様子で、動きも呼吸も止めてギンロを見つめている。

ギンロはと言うと、そんな周りの空気に気付いていないのか、未だ剣を高々と掲げて、決めポーズの真っ最中である。


「最後に、超級精霊召喚師、モッモ!」


きたきたきたぁあぁぁ~!

俺の出番だぁっ!!


「僕はモッモ! テトーンの樹の」


「モッモ!?」


俺の自己紹介を、カービィが遮った。

首を横に振り、言っては駄目だと目で合図している。


……うぅ、やっぱり言っちゃいけないの?

……俺は、どこまで自分を偽ればいいの??

……いったいいつになったら俺は、正直に、自分の事をピグモルだって言えるようになるの???


グッと拳を握りしめ、ギュッと唇を噛み締める。

悔しさで泣かないようにと、俺は下を向いた。


「どうしたポ? モッモちゃんは……、何の種族なのポ??」


ノリリアが尋ねた。


「モッモはな、ヌート族の」


「モッモはピグモルですっ!」


今度はカービィの言葉を遮って、グレコが声を出した。

あまりの出来事に驚いて、俺は隣に立つグレコをバッ! と見上げた。

するとグレコは、俺に向かって優しく微笑んでいた。


「なっ、な~にを言い出すんだよグレコさ~ん?」


必至に誤魔化そうとして、いつも以上にヘラヘラと笑ってみせるカービィ。

しかし、グレコは引き下がらない。


「私とモッモは、クロノス山の向こう側、幻獣の森と呼ばれる場所からやって来ました。モッモは、五十年程前に絶滅したと言われている、ピグモル族の生き残りです。幻獣の森には、テトーンの樹の村というピグモルたちの村があって、この五十年間、ひっそりと生きて来ました。だけど、そんな時代はもう終わりです。モッモが旅に出る事によって、世界は知るでしょう。ピグモル族は絶滅などしていない、今もなお、この世界に存在しているという事を」


うぅ……、グレコの言葉に、俺、泣きそう……


あちゃ~っという表情で額に手を当てるカービィ、ふふん♪ と不敵に笑うグレコと、剣を鞘に収めて堂々たる態度で腕組みするギンロ。


そんな俺たちを見て、ザワザワザワと、周りが再度騒めき始める。


「ピグモルって……、絶滅して幻獣種族指定されてるあのピグモル?」


「そんな……、あり得ないわよ。五十年前に、確かに絶滅させられたはずよ」


「けどほら見て? 特徴的には一致するわ」


「でも、じゃあ……。世紀の大発見って事?」


「……そう、なるな。学会が黙っちゃいないぞ」


「だけど、クロノス山の向こう側って……。それこそあり得ないわ。あの山を越えるなんて……」


「なんなんだいったい、このパーティーは……。世界最強の虹の魔導師に、絶滅危惧種のブラッドエルフ、更には世界有数の危険魔獣フェンリルに、絶滅したはずの幻獣種族ピグモルだとぉっ!?」


予想以上のざわつきに、少しばかり焦り出す俺とグレコ。


や、やっぱり……、ヌート族って言わなきゃ駄目だったんじゃ?

学会が黙ってないって……、それってもしかして、研究対象として連れて行かれちゃうとかなんとかのやつ……??


カービィは眉間に皺を寄せて、どう収拾をつけようかと必至に考えているようだ。

すると、ギンロが……


「それだけではない。モッモは、時の神の使者なのである。そして、我らはこのモッモを守る為に集うた、選ばれし戦士なのだ! よって、我らの主であるモッモに手を出そうとする者は、如何なる理由があろうとも、我が牙の前に骸となる事を肝に命じておくがよい!!」


なななっ!? なんちゅう事を言うんだね君はぁっ!??


周りの騒めきが一気に大きくなる。


「時の神の使者だってぇっ!?」


「そんな者がどうしてこんな所にっ!?」


「……こりゃ、墓塔の探索どころの話じゃないぞ?」


「早急にギルド本部に連絡をっ!!!」


ガタガタと音を立てながら、騎士団の皆さんが一斉に立ち上がろうとする。


ひぃっ!? なんかヤバイんじゃないかぁっ!??

に、逃げないとぉおぉっ!???


「静まれぇっ!!!!!」


わぁああぁぁっ!??

なんだぁあぁああっ!!???


耳をつんざくような大音量の声でみんなを制したのは、船長のザサークだ。

肉食獣が吠えた時のようなその声に、周りのみんなは一斉に驚いて、口々に話すのをやめた。

シーンと、辺りが静寂に包まれる。


「一旦、落ち着こう……。いいか、よく聞けよてめぇら。種族がなんだとか、神の何かだとか、そんなの俺様はどうでもいい。だがな、明日、この船はピタラス諸島に向かって出航する、それだけは何があっても変えられねぇ事実だ。そして、そこにてめぇらは既に乗っかっている。目的地に着くまで、一人たりとも、欠ける事はこの俺様が許さねぇ。わかったなら、明日から共に旅するこいつらを、色眼鏡で見るのはやめるこった。てめぇらはもうこの船の一員、つまり仲間なのさ。仲間は助け合うもんだ。なぁ、そうだろビッチェ?」


ザサークの言葉に、側に控えるビッチェが頷く。

そして、タイニック号の乗組員全員が、ザサークの言葉に同意するように次々に頷いた。


「ポポ……。みんな、とりあえず落ち着くポね。あたちたちの今回の旅の目的は、あくまでもアーレイク・ピタラスの墓塔の探索ポ。それ以上でも以下でもない……。つまり、目の前に絶滅種族がいようとも、神の使者がいようとも、遂行すべきはプロジェクトの達成ポ。なので、ギルド本部に連絡はしないポ。明日、カービィちゃん達四人を含めた全員で、ピタラス諸島へと旅立つポよ!」


ノリリアの言葉に、多少の戸惑いを感じつつも、白薔薇の騎士団の皆さんは納得してくれたようだ。


俺とグレコ、カービィの三人はホッと胸を撫で下ろし、ギンロは俺に向かってニッ! と笑った。


……おいギンロ、勝手に余計な事までばらすんじゃないよ。

そのドヤ顔やめなさいっ!


「おうおうっ! 折角の宴が台無しじゃねぇかっ!! 飲み直すぞてめぇらぁあぁっ!!!」


「うおぉおぉぉっ!!!」


ザサークの言葉に乗組員のダイル族達は雄叫びを上げて、まだ半分放心状態の白薔薇の騎士団の団員たちにお酒を注ぎにテーブルを回り始めた。


とにかくまぁ……、なんとか、丸く収まった、のかな……?

ふぅ~、どうなる事かと焦った焦った……


「おいてめぇら」


……はっ!?


みんなの目が逸れたタイミングを見計らって、ザサークが俺たち四人に声を掛けた。


「ちょいと船長室まで来な。……おう、ノリリアもな」


え……、はっ!? ノリリア!??

いっ、いつの間にそこにぃっ!???


背後からスッと現れて、騒ぎを起こした俺たちを大層迷惑そうに睨んでいるのでは!? と、思いきや……


「カービィちゃん……、ようやく見つけたんだポね」


そう言ってノリリアは、カービィに向かって、優しく微笑んでいた。

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