199:村の変化

「すごぉっ! 畑の真ん中に井戸があるぅっ!!」


テトーンの樹の村に到着して早々に、俺は村の変化に気付いた。


テトーンの樹に囲まれたピグモルの村、そのほとんどの敷地を占める畑のど真ん中に、大層立派な石造りの井戸が出来上がっていたのだ。

それだけではない、何やらピグモルたちの家々からは細めのロープが垂れ下がり、見上げると上の方の木の枝には滑車のような物が設置されている。

ロープの先には大きめの籠が付いていて……

あれはおそらく、木の上の家に物を運ぶための、前世風に言えばエレベーター、のようなものだろうと俺は推測した。

他にも、以前はなかった畑道具を閉まっておく為の頑丈そうな石造りの小屋が出来ていたり、宴を開く為の広場にも巨大な石の祭壇のような物が出来ていたりと、村全体が劇的に変化していた。


「うわぁ~、凄いね……。発展してる♪」


グレコも思わず感嘆の声を出した。


「あ! モッモだ!! お帰りなさ~いっ!!!」


「お!? 帰って来たのかモッモ!??」


「やぁモッモ!」


「みんな~! モッモが帰って来たぞぉっ!!」


わらわらと、其処彼処からピグモルたちが駆け寄ってくる。


あぁ……、この歓迎ムード、癒されるわ~♪


「みんなっ! ただいまぁっ!!」


盛大に迎えてくれるみんなに向かって、俺は世界最高の可愛さを誇るピグモルスマイルで手を振った。






「これが銀のフォーク、ナイフ、スプーンね。こっちがお皿、大中小って三種類あるよ。あと小鉢と、カップと……。どんなのがいいのかわかんなかったから、他にもいろんな種類の物を買ってきた。でもこれ、いったい何に使うのさ?」


とあるテトーンの樹の上の家で、テーブルの上に雑貨屋で購入した銀製の食器類を並べて、前に座る、幼馴染である栗色の毛並みをした双子のピグモル姉妹、ソアラとロアラに尋ねる俺。


「わぁ♪ どれも綺麗ね♪」


「これならお店の雰囲気にピッタリよ♪」


ほう? お店とな??


「……店を、開くの?」


「あ、うん♪ テッチャに提案されてね♪」


「そうそう♪ なんでも、外の世界にはお店っていうものがあって、お料理を作って出してくれるんでしょ?」


「あ~、うん……。そういう店もあるね」


「テッチャがね、ご飯をタダで食べるのが嫌だって言って。その、タダって言うのが何なのか全然分からないんだけど……。今まではみんなの家を順番に回ったり、作ったお料理をテッチャの家へ持って行ったりしてたんだけど、お店があれば、そこでお料理を毎日食べるのにって言うからさ♪」


「折角だから、私たち二人で、お店を始めてみようかなって。お料理作るのは得意だしね。近々、広場の近くに小屋を建ててくれる予定なんだ~♪」


ほほう、なるほどお店をなぁ~。

……けど二人とも、きっと、お店の概念分かってないよねこれ。


「じゃあ、この銀製の食器類は、そのお店で使う為の物?」


「そうそう♪ この間モッモが話してくれたでしょ? グレコさんの村の綺麗な食器の話。私たちもお店を開くなら、出来るだけお洒落にしたいもの」


「ちゃんとテーブルクロスも作ったのよ♪ ピーシェの花で染めた素敵な色なの」


ふ~ん……

うん、まぁ、二人が楽しそうだから、この際お店の概念なんて別にいっか。


「そっか! じゃあ、二人とも頑張ってね!! 僕も、お店が出来たら食べに行くよ!!!」


そう告げて、俺はソアラとロアラの家を後にしたた。






「思ったより水脈が地中深くにあってな。地面を掘るのも大変だったけど、石が足りるか心配だったんだ。とりあえず、この井戸は無事に完成したけど、まだ村の外の畑の井戸は、穴を掘ったはいいけど周りを固める石が足りなくて、手付かずのままなんだよ」


ふむふむ、なるほど、それで追加の石材が必要だったわけね~。


畑のど真ん中にある、立派な井戸の前で、幼馴染のタックとルルーと話し込む俺。

タックは焦げ茶色の毛並みで、ルルーは白い毛並みのピグモルだ。


井戸の中は暗くて、底が見えず、かなり深くまで掘られているらしい。

汲み上げた地下水はとても澄んでいて、これなら生活用水として使っても問題ないだろう。


周りではピグモル達が、井戸から汲んだ水を水桶に入れて、柄杓で畑に撒いている。

彼らの表情から、この井戸が出来たことによって、畑の水やりが格段に楽になった事が読み取れた。


「でも、凄いね。とっても立派。だけど……、そもそもさ、どうやって地下水がここにあるってわかったの?」


「これだよ」


俺の問い掛けに、ルルーが上着のポケットから何かを取り出した。

手のひらにすっぽりと収まるほどの大きさの、小さな水色の石だ。

透明度が高く、まるでクリスタルのようにも見えるのだが、その中心には青い光が宿っている。


「水流石っていう石らしくて、水の流れを感じて光を放つものなんだ。これをこう、地面に当てると、地下に水脈がある場所を教えてくれるってわけさ」


ほほう、何やら便利で面白いアイテムだな。

……しかしルルーよ、そのような便利な物を、何故君が持っているのだね??


「テッチャがくれたんだぁ~。これで地下の水脈を探せって言ってなぁ~」


タックが、いつものヌボ~っとした雰囲気でそう言った。


なるほどなるほど、テッチャがねぇ……

てかテッチャ、君ってば、本当に鉱石オタクなんだね。

こんな、水流石だなんて面白い石を持ち歩いているだなんてさ。


「じゃあ、石材は村の外の畑の近くに積んでおけばいいかな?」


「そうだな、そうしておいてくれ」


「了解~!」


「モッモ、コッコとトットにも会いに行ってやれぇ? 今ならきっと、家でお昼寝中のはずだぁ~」


「オッケー♪ じゃあ、今から行ってくる!」


タックとルルーに手を振って、俺はその場を後にした。






「おお~、これが鉄の板かぁ~。うんうん、これなら確かに、なんとかなりそうだな!」


「兄ちゃん、早速取り掛かろうぜ!!」


自宅に戻った俺は、昼寝をしていた兄のコッコと弟のトットを揺さぶり起こし、鞄の中から鉄の板などを取り出して見せた。


「それにしても、こんな鉄の板……、何に使うのさ? まさか、何か悪い事に使う気じゃないよね??」


「安心しろモッモ。これはな、テッチャさんに教えて貰った、家の中に竃を作る為に必要なものなのだ!」


おぉっ!? 家の中に竃をつくるのか!??

でも、それって……、危なくないかい?


ピグモルたちの家は、テトーンの樹の上に作られており、全てが木製である。

即ち、一度どこかで火事でも起きてしまえば、最悪の場合村が崩壊する危険性があるのである。

なので、火を使うのは家の外で、もしくは広場の焚き火のみ、と長老が決めたはずだったのだが……


「テッチャさんが言うんだ。火をそのまま使うんじゃなくて、鉄で囲った竃の中なら安全だって。鉄なら熱は通すけど、火は外に出ないってな!」


「火打ち石も、使わない時は竃の中の隅にでも置いておけばいいって。竃が家の中にあれば、母ちゃんも料理する時に楽になるだろうし!」


ふむふむ、そう言う事ね。

確かに、火をそのまま使うのは危ないけど、鉄で囲った竃の中でなら大丈夫そうだな。


「よっし! じゃあ僕も手伝うよっ!!」


……二人に任せるのはちょっと怖いからね。

モッモの家から火が出た! なんて、テッチャから急ぎの連絡が来るのはごめんだよ。


鉄の板で箱を作って、煉瓦の残りを使って周りを囲って、隙間とかが出来ないよう粘土で蓋をして……

見本として一つ作っておけば、さすがに後は自分達で作れるだろう。

最初が肝心! しっかり作り上げないとな!!


こうして俺は、テトーンの樹の村初の屋内竃を作る作業に参加して、久しぶりに、三兄弟水入らずの時間を過ごしたのであった。

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