168:絶滅危惧種愛好会
一枚目の書類には、こう書かれていた。
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拝啓
ユーク・ブーゼ伯爵殿
此度は我ら、絶滅危惧種愛好会にご参加頂き誠にありがとうございます。
我ら絶滅危惧種愛好会は、世界中で絶滅に瀕している種族を救うべく立ち上がった、平和をこよなく愛する組織でございます。
個体数が残り少ない絶滅危惧種を保護し、安全かつ健康な暮らしが送れるようにサポートするのが、我らの使命でございます。
つきましては、絶滅危惧種、および絶滅種を発見されました際には、すぐさま本部へお知らせ下さいますようお願い申し上げます。
敬具
絶滅危惧種愛好会 本部事務局
本部長 マスケ・グリューテ
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なんじゃこりゃ?
絶滅危惧種愛好会??
胡散臭すぎるだろっ!??
二枚目の書類に目を通す。
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拝啓
ユーク・ブーゼ伯爵殿
先日は絶滅危惧種であるウィロードラゴンの幼体を保護して頂き、誠にありがとうございました。
現在、ウィロードラゴンは、オルドール共和国の振興都市リバティにて保護いたしております。
来月の初旬に、ベターオークションに出品する予定ですので、保護奨励金の入金は来月中旬以降となります、ご了承くださいませ。
なお、金額は当初の契約通り、売却額の50%でございますので、重ねてご了承くださいますようお願い申し上げます。
では、今後も絶滅危惧種の保護に御尽力くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
敬具
絶滅危惧種愛好会 本部事務局
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やっべぇ、マジでやべぇぞこれ……
裏社会の闇取引の書類だわこれ……
うわ~、こんなの現実にあるのか……
絶滅危惧種愛好会とか言って、保護とか言いながら、ちゃっかり売りさばいてるじゃねぇかこの野郎っ!?
そして、三枚目の書類。
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拝啓
ユーク・ブーゼ伯爵殿
先日の、ウィロードラゴンの出品結果をご報告致します。
ウィロードラゴンの幼体一体、ベターオークションの競売にて、三億センスで落札されました。
つきましては、今月中旬までに、貴殿の銀行口座へ一億五千万センスを入金させて頂きます。
絶滅危惧種愛好会としても、今回のオークション結果は大変満足のいくものでありました。
今後もユーク・ブーゼ伯爵殿のご協力を是非ともお願いしたい次第でございます。
つきましては、別紙にて、ベターオークションでの高額落札が予想される種族リストをお渡ししておきます。
リストに掲載されております種族については、生死を問わずに高額落札が予想されますのでご参考までに。
今後の保護活動にお役立て頂ければ幸いです。
では、またのご報告をお待ちしております。
敬具
絶滅危惧種愛好会
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さっ!? 三億っ!??
ドラゴン一匹で、そんな大金が手に入るのかっ!???
うひゃ~、すげぇ~なぁ~!!!!!
……いやいや、でもドラゴンだぞ?
そう簡単に手に入るもんじゃないだろうし、それくらいして当たり前なのか??
てか、幼体とはいえ、ドラゴンなんてどうやって捕まえたんだろう???
だがしかし、これは法律違反、絶対的に悪事なのである。
生死を問わずって……、もはや保護でも何でもないじゃないかっ!
いくら大金が手に入るからって、悪事に手を染めてはいけないのである!!
そして、四枚目の書類には……
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●ワコーディーン大陸現存、絶滅危惧種リスト●
アイリンフォーマック
アザーンマーピア
ウィロードラゴン
コタン・カタン
タージェンブーン
チャハイサン
トマシュゴラ
バーバードラゴン
ブラッドエルフ
マーレ・ヴァンデアン
ヤークル
ワコーディーンドラゴン
●全世界共通、絶滅種リスト●
イーグルメーン
クイーンハルピュイア
グリフォン
サタンモグル
ジュエルエルフ
ダッチュバードマン
ネリーカーバンクル
ピグモル・ピグメント
メイジドラゴン
ユーリアエルフ
ロロス
尚、今回記載しておりますのはあくまでも高額落札が予想される種族ですので、その他の世界会議で認定されておりますワールドレッドリストに登録されている種族でも、高額落札は期待されます。
重ねてご確認くださいますようお願い申し上げます。
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ん~、なんだろうな?
馴染みのある種族の名前が羅列されている気がする……
バーバードラゴン、ブラッドエルフ、ダッチュバードマンて……
それに、世界的にピグモルは、ピグモル・ピグメント、と呼ばれているのか、ふむふむ……
てっ!? いやいや、なんじゃこりゃ!??
かなり危険なリストだぞこれっ!???
俺の知り合いの半分は載ってるじゃないかっ!????
うわ~、今更ながら、なんだかすっごくヤバイとこにいる気がしてきた。
あのままグースカ寝ていたら、いったいどうなっていた事やら……
おぉ~、恐ろしい!!
とにかく、早いとこ船をジャネスコに到着させて、この書類を警備隊の皆さんに見せて、タークもユークも捕まえて貰わないと!
ガサガサと、急いで書類を鞄に詰め込む俺。
すると、何やら背後で……
バキッ! バキバキバキッ!! ドォーンッ!!!
という、木材が激しく破壊される様な音がして……
「まだいるのかぁあぁぁっ!??」
「ひょえぇえぇぇ~っ!??!?」
壁があったはずの場所から、巨大な斧の刃が現れて、ブワッ! と、俺の鼻先スレスレをかすめていった。
飛び散る木片、宙を舞う紙、ちびる俺……
なんっ!? なんっ!??
なんだぁあぁぁっ!???
「あぁっ!? はぁ、はぁ……、モッモ!?? 紛らわしい所に隠れてんじゃないわよっ!!?? 殺されたいのっ!??!?」
狂気染みた真っ赤な瞳で俺を睨みつけるのは、頑丈な船の壁を一瞬で破壊した、鬼人ユティナ。
いや、鬼エルフ、か……
両手で握った巨大な斧は、返り血で真っ赤に染まっている。
こ、殺しかけておいて……、その言い草は、あんまりじゃないか……?
俺は、もはや震える事すら出来ず、その場に立っているのがやっとだ。
そして、ユティナの背後、夜空が見える船の甲板には、数十匹の茶色ラビー族達が無残にも血塗れで倒れており、端の方に、放心状態で座り込むタークの姿が見えた。
あぁ……、ようやく戦闘が終わったのですね?
「モッモ君、大丈夫かね?」
壊れた壁の隙間から、ぴょこっと顔を出したサカピョン。
「はっ! 小動物のくせに、運だけは良いみたいね!!」
もはや俺には、ユティナが笑っていようが怒っていようが、その存在が死神としか思えないな。
……ねぇサカピョン。
ユティナの何が良くてパーティー組んでるの?
俺には甚だ疑問だよ、うん。
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